上 下
9 / 17

おやゆび姫 ー擬人化もぐらside storyー

しおりを挟む

 俺はずっと深い闇の中
 孤独な時間を過ごす

 人は俺を「もぐら」と呼んだ

 両親は俺に莫大な財産を残し
 ずっと引き籠って生活していた

 そんな俺を、隣に住む「ねずみ」おばさんはいつも心配してくれた
 こまねずみのようにせわしないので、そう名付けた

 ある日、おばさんが小さな女の子を連れてきた

「身寄りがなくて、困ってるんですって」

 彼女は俺を見上げ、にっこりと笑った

「初めまして」

 俺はその子を見た途端、恋に落ちた

 な、なんて……可愛い、子なんだ

 そして、ねずみおばさんに頼んだ。

「あの子と一緒になりたい」

 俺の行く末を心配してたおばさんは、心から喜んだ

 彼女に屋敷の中を案内する

 屋敷と庭を結ぶ地下通路に何かが見えた

 男がそこに倒れていた

 俺はその男を思いっきり何度も蹴り上げた

「おいっ、人の屋敷の中に、何入り込んでんだ!
 出て行け!」

 すると、彼女がその男に覆いかぶさった

「や、やめて下さい!この人、ケガしてるみたい。
 早く、手当してあげないと……」

「そんなこと知ったことか
 ほっとけばいいんだ」

 俺は、そう言うと屋敷の中へと入った

 その後、屋敷の中から見たら男の姿は消えていた

 身の程をわきまえたか

 その後、俺は彼女との結婚式の準備を進めた

 彼女からは初めて会った時の笑顔は消えていた

 俺を愛していないことは見てとれたが
 彼女を解放など、してやるものか

「屋敷からは一歩も外に出るな。
 ずっと俺のそばから離れるなよ」

 その言葉に、彼女は悲しそうに頷く

 毎晩、寝室からは彼女の啜り泣く声が響いた

 結婚式前日

「最後に一度だけ、外へ出させて」

 彼女の申し出を渋々受け入れた

 どうせ身寄りのない女だ
 行くとこなど、どこにもない

 だが……彼女は、忽然と消えた

 俺は、怒り狂った

 どうして、どうしてなんだ!!

 そして、あの通路に倒れていた男が彼女を連れ去ったと後で知った

 そんなに、俺と結婚するのが嫌だったというのか……

 俺は闇の中
 再び孤独に立ち尽くす
しおりを挟む

処理中です...