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変性
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その日、近所のファミレスでウェイトレスのバイトをしていた私は、チャイムを聞いて入口へ向かいました。
「いらっしゃいま……」
そこで言葉が詰まりました。入ってきたのが、ガマ男だったからです。
ガマ男は毎日ファミレスに来る常連でした。注文するのはいつもホットコーヒーのみで、何時間でも居座ります。
見た目はガマガエルみたいで、大きくて横にえらが張った輪郭に重たいぼってりとした瞼にギョロッとした瞳、上向きの鼻、分厚い唇で、湿り気のある肌にはいぼが幾つもあって、鳥肌が立つほどの気持ち悪さを覚えました。帽子を被り、夏でも太った体に張り付く長袖のタートルネック、さらに黒の皮手袋という妙な出で立ちもまた、彼の異質さを際立たせていました。ガマ男というのはもちろん本名ではなく、私たちの間でつけたあだなで、年齢や住所、職業等はすべて謎でした。
携帯をいじるわけでも、新聞や雑誌を読むわけでもなく、ガマ男はゆっくりとスプーンでコーヒーをかき回しながら、注文をとったり、料理を運ぶウェイトレス達をねっとりした視線で追います。ガマ男の視線は特に私に向けられているように感じていましたが、昨日それが証明されました。
「コーヒーのお代わり、いかがですか?」
笑顔で掌をコーヒーに向けた途端、いつもなら黙ってコーヒーカップを差し出すガマ男がいきなり私の手を掴んで小さな紙を握らせ、じっとねぶるように見つめました。
「し、失礼しますっっ」
エプロンに紙を突っ込んで逃げ去りました。すぐに捨てるつもりでしたが、仕事をしているうちにすっかり忘れ、家に帰ってからメモを見つけました。恐る恐る開くと番号が書かれていて、ゴミ箱に捨てました。
昨日のことでより嫌悪感が高まっていた私はガマ男の存在を無視し、仕事を続けました。
ランチタイムが落ち着いたところで休憩に入ることになり、その前に店長からトイレチェックに行くよう頼まれました。男子トイレをノックして入ると、素早く手拭き用のタウパーを補充し、水の飛び散った洗面所を綺麗に拭き、引き出しを開けてゴミ箱を取り出し、ゴミ袋を替えました。その時、腕に針を刺したような痛みが走りました。
「いたっ!!」
思わず叫んで振り返ると、いつの間にかガマ男が立っていました。
「き、君を……たっ、助けられるのは……ぼ、僕、だけ……」
意味不明の言葉に恐ろしさを感じ、素早くゴミ袋を持ってバックヤードへ一目散に走りました。
なんなの……ほんと、キモい!!
痛みを感じた腕を見てみましたが、そこには何もありませんでした。
控室でお昼ご飯を食べていると、次第に内側から燃えるような熱さを感じました。食事を終え、化粧直しをしようと鏡を見て、思わず息を飲みました。顔に、赤い湿疹が出ていたからです。
なに、これ。
小さなニキビがポツッと出るくらいで大騒ぎするほど私の肌は綺麗で、それは密かな自慢でもありました。顔の赤みは、みるみる増していくように感じます。
こんなんじゃ、仕事なんて出来ない……
カバンからミニタオルを出して顔を隠し、半泣きになりながら店長に「帰らせて下さい」とお願いし、文句を言われながらもなんとか家に帰らせてもらいました。帰り道の自転車は誰かに顔を見られないよう裏道を走り、ずっと俯いていました。
家に帰ると腕や太腿にまで湿疹が広がっていて、母はそれを見て驚愕しました。
「どうしたの、それ!? まぁ、女の子なのに……」
母の言葉に傷つきながら、その夜のデートをキャンセルし、湿疹が治るまで会えないと彼氏に伝えました。
「いらっしゃいま……」
そこで言葉が詰まりました。入ってきたのが、ガマ男だったからです。
ガマ男は毎日ファミレスに来る常連でした。注文するのはいつもホットコーヒーのみで、何時間でも居座ります。
見た目はガマガエルみたいで、大きくて横にえらが張った輪郭に重たいぼってりとした瞼にギョロッとした瞳、上向きの鼻、分厚い唇で、湿り気のある肌にはいぼが幾つもあって、鳥肌が立つほどの気持ち悪さを覚えました。帽子を被り、夏でも太った体に張り付く長袖のタートルネック、さらに黒の皮手袋という妙な出で立ちもまた、彼の異質さを際立たせていました。ガマ男というのはもちろん本名ではなく、私たちの間でつけたあだなで、年齢や住所、職業等はすべて謎でした。
携帯をいじるわけでも、新聞や雑誌を読むわけでもなく、ガマ男はゆっくりとスプーンでコーヒーをかき回しながら、注文をとったり、料理を運ぶウェイトレス達をねっとりした視線で追います。ガマ男の視線は特に私に向けられているように感じていましたが、昨日それが証明されました。
「コーヒーのお代わり、いかがですか?」
笑顔で掌をコーヒーに向けた途端、いつもなら黙ってコーヒーカップを差し出すガマ男がいきなり私の手を掴んで小さな紙を握らせ、じっとねぶるように見つめました。
「し、失礼しますっっ」
エプロンに紙を突っ込んで逃げ去りました。すぐに捨てるつもりでしたが、仕事をしているうちにすっかり忘れ、家に帰ってからメモを見つけました。恐る恐る開くと番号が書かれていて、ゴミ箱に捨てました。
昨日のことでより嫌悪感が高まっていた私はガマ男の存在を無視し、仕事を続けました。
ランチタイムが落ち着いたところで休憩に入ることになり、その前に店長からトイレチェックに行くよう頼まれました。男子トイレをノックして入ると、素早く手拭き用のタウパーを補充し、水の飛び散った洗面所を綺麗に拭き、引き出しを開けてゴミ箱を取り出し、ゴミ袋を替えました。その時、腕に針を刺したような痛みが走りました。
「いたっ!!」
思わず叫んで振り返ると、いつの間にかガマ男が立っていました。
「き、君を……たっ、助けられるのは……ぼ、僕、だけ……」
意味不明の言葉に恐ろしさを感じ、素早くゴミ袋を持ってバックヤードへ一目散に走りました。
なんなの……ほんと、キモい!!
痛みを感じた腕を見てみましたが、そこには何もありませんでした。
控室でお昼ご飯を食べていると、次第に内側から燃えるような熱さを感じました。食事を終え、化粧直しをしようと鏡を見て、思わず息を飲みました。顔に、赤い湿疹が出ていたからです。
なに、これ。
小さなニキビがポツッと出るくらいで大騒ぎするほど私の肌は綺麗で、それは密かな自慢でもありました。顔の赤みは、みるみる増していくように感じます。
こんなんじゃ、仕事なんて出来ない……
カバンからミニタオルを出して顔を隠し、半泣きになりながら店長に「帰らせて下さい」とお願いし、文句を言われながらもなんとか家に帰らせてもらいました。帰り道の自転車は誰かに顔を見られないよう裏道を走り、ずっと俯いていました。
家に帰ると腕や太腿にまで湿疹が広がっていて、母はそれを見て驚愕しました。
「どうしたの、それ!? まぁ、女の子なのに……」
母の言葉に傷つきながら、その夜のデートをキャンセルし、湿疹が治るまで会えないと彼氏に伝えました。
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