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英国公爵の妹を演じる令嬢は、偽りの兄である恋人に甘やかされ、溺愛される

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 食堂車へと入ると、朝の早い時間にも関わらず、車内にはブランチを楽しむ人で賑わっていた。

 ひとつだけ空いていた4人がけのテーブルに、ランドルフとジュリアは向かい合わせに座った。

 これでようやく落ち着いて、ランドルフ様とお話ができる。

 そう思ったのもつかぬ間、

「これは……ランドルフ様とレディジュリアではないですか。レディジュリアは、相変わらずお美しい。
 こちらの席に座ってもよろしいですか」

 舞踏会で何回か会ったことのある貴族に、話しかけられた。

「えぇ、もちろんですわ」

 本当はランドルフ様とふたりで過ごしたいけど、食堂車は賑わっていて他に座る席もないし、お断りするのは失礼だよね。

 無理やり笑顔をつくり、ジュリアが答える。

「ありがとうございます。こうしてレディジュリアとゆっくり話ができるなんて、幸運だな」

 男はそう言って、ジュリアの隣に腰掛けた。

「……」

 ランドルフがあからさまに不機嫌な顔を見せる。

 そんなランドルフの様子にも気付かず、男は興奮したように話し出す。

「毎回レディジュリアにはダンスの申し込みをするものの、断られてばかりで……
 ゆっくり話をする機会がないかと思っていたのですよ」
「そうでしたの」

 ジュリアは男に微笑みながら、目の前に座るランドルフが一言も発しないのを気にかけていた。

 ランドルフ様……私が勝手なことしたから、怒ってらっしゃるのかな。

 テーブルの上で先程ランドルフからもらった薔薇を、無意識にギュッと握った。

 すると、男がその薔薇に気付き、驚いたように尋ねる。

「レディジュリア、この薔薇はどなたから?」

 動揺しつつも、ジュリアは、

「えぇ……大切な方から頂きました」

 と答えた。

 それを聞いて、ランドルフが眉をピクリとさせる。

「それは、どなたなのですか?」
「それは……秘密ですわ。
 でも、とても素敵な方です。大人で、優しくて……」

 ジュリアが頬を染める。

 男は今度はランドルフを見やり、尋ねる。

「それは……ランドルフ様もご存知の方なのですか?」
「もちろん、知ってるさ」

 男が動揺する。

「舞踏会でも決してレディジュリアから離れず、妹君を溺愛されてるランドルフ様がご存知なんて……」

 そして、意を決したように尋ねた。

「ランドルフ様は……その男を、レディジュリアの恋人として認めてらっしゃるのですか」

 すると、ランドルフがフッと笑顔を溢す。

「可愛い妹を奪われるのは悔しいが、俺がジュリアを託せるとしたらあいつしかいないな」
「そう、ですか……」

 明らかに男は肩を落として、落ち込んでいた。

 そう。可愛いジュリアを託せるのは俺しかいない。
 他の誰にも、くれてやる気はない。

「失礼します……」

 青ざめた顔で男が席を外した。

 もう二度と俺のジュリアに近付こうなんて、思うんじゃねーぞ。

 ランドルフが去っていく男の背中を見送りながら、心の中で悪態をついた。

 息つく間もなく、また声がかかる。

「おや、ランドルフ君とレディジュリアじゃないか」

 リンデンバーグの市会議員である恰幅のいい男が、親しげに声をかけてきた。

「これは……休暇ですか」
「どうも私はフェスティバルの喧騒が苦手でね。別荘で、静かに過ごすつもりでおるんだ」

 このままでは、列車にいる間、ジュリアに触れることすらままならないな……

 当たり障りのない会話をしながらも、ランドルフの心はジュリアと過ごすことでいっぱいだった。

 可愛いジュリアと過ごすための時間は、一分一秒だって勿体無い。

 突然、ランドルフが思い出したように声をあげる。

「あ、しまった」

 ランドルフが眉間に皺を寄せる。

「ジュリア、アレを倉庫に預けっぱなしにしてたみたいだ」

 ジュリアには、ランドルフの意図が読めない。

『アレ』って……何だろう? 何か、預けてたっけ?

「取りに行くぞ、ジュリア」
「はい」
「では、失礼……良い休暇を!」

 ランドルフはジュリアの腕をとると、未だ賑わっている食堂車を後にした。
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