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悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました
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「ック」
堪えていたのに、大粒の涙が瞳から零れ落ちました。
「私の心をズタズタに切り裂いた上で、食らうつもりですか?」
だったらもう、どうにでも好きにしてください……
私など、生きている価値のない女なのですから。
覚悟を決めたつもりでも、爪先から頭まで悪寒が這い上がり、全身が震えます。恐怖で心臓が縮み上がりながらもバクバクと鼓動を打ち、逃げ場を求めています。
いつのまにか向かいにいたはずのリチャードが私の隣に座り、うっとりと私を見つめていました。
「あぁ、この表情ですよ……
恐怖に怯えながらも穢されることなく、清らかで強い魂を持っている。悪魔にとっての、極上の餌……」
『極上の餌』と呼ばれ、鳥肌が一気に立ちました。
魂を食べられると、私はどうなるのでしょう。死んでさえも、お父様やお母様にお会いすることが叶わなくなるのでしょうか。
けれど、何も感じることのない『無』になれるのなら……それもいいかもしれません。
「もう、現世に何も思い残すことはないようですね」
リチャードが私の肩を抱きました。
「えぇ……」
頷くと、瞳をギュッと固く閉じました。
「可愛い人ですね」
リチャードの囁きが耳元で聞こえ、ふるりと震えました。
その瞬間、彼の唇が私のそれと重なりました。
悪魔は、口から魂を抜き取るのでしょうか……
一瞬そんな考えが過ぎりましたが、すぐに思考は奪われてしまいました。
「ンンッ、ンフゥッ!!」
リチャードの長い舌が私の口内を余すことなく蹂躙し、彼から送り込まれる愛液が媚薬のように私の躰を熱くさせます。
ぴったりと息つく間も与えられないほどに激しい口づけに退こうとすると、後頭部を抑えられ、更に密着されました。舌に牙が甘く穿たれ、電気が走ったようにビリビリと快感の刺激が広がります。舌を絡めとられて、そこから流れる血がリチャードに吸われます。
ドクドクと血液が波打ち、下半身が呼応するようにドクドクと蠢いて疼き、甘く濃厚な蜜が溢れてきます。
ぁ、も……だめ……
弛緩した私の躰が落ちていきました。
ボスッと私の躰を柔らかく受け止めたのは、ベッドのスプリングでした。懐かしいリネンの香りが鼻を擽ります。
瞳を開けると、世にも美しい悪魔の顔が私の瞳に映りました。トクンと心臓が跳ねます。
リチャードが私の頬を大きな掌で包みました。
「契約を進める中で、たったひとつ誤算がありました」
「誤算?」
小さく首を傾げると、リチャードが妖艶な瞳で私を見つめ、軽く口づけをしました。
「ただの道具にしか過ぎなかったはずの貴女を、手に入れたいと思ってしまったことです」
「それ、で……監獄へと向かう私が乗っている護送車を乗っ取り、魔窟へと連れ込んだのですか」
「えぇ」
そう答えたリチャードを、切なく見上げました。
「そして、私を……『極上の餌』を、食らうのですね……」
このベッドは、祭壇の代わり。
せめてもの情けとして、リチャードは慣れ親しんだ私の部屋を再現し、そこで逝かせてくれることにしたのですね。
そのことだけでも、感謝しなくては……
「フッ。フフッ……」
リチャードが笑い出し、私はますます切ない気持ちになり、胸が締め付けられました。
「どうぞ、愚かな女だと笑ってください」
「えぇ、愚かですね……貴女は」
私の髪の毛を1束救い上げると、リチャードが口づけを落としました。
「なぜ、まだ分からないのですか。
私が、貴女を本気で愛してしまったこと。それが、誤算だったということを」
私の瞳がみるみる見開かれていきます。唇が震え、喉から声を出そうとするのに、驚きのあまり息をすることさえできません。
リチャードが、私を愛している?
本当なのですか……?
信じたい、そうであって欲しいと願いつつも、そうやって私の心をいとも容易く操って愉しんでいるのではないかという疑いを払拭することができません。
愛しているのなら……どうしてあんな酷い仕打ちができるというのでしょう。
私は、今までにないほどの苦しみを、痛みを経験し、地獄を味わいました。
本当にリチャードが私を愛しているのなら、なぜずっと放っておいたのですか。
助けてくださらなかったのですか……
堪えていたのに、大粒の涙が瞳から零れ落ちました。
「私の心をズタズタに切り裂いた上で、食らうつもりですか?」
だったらもう、どうにでも好きにしてください……
私など、生きている価値のない女なのですから。
覚悟を決めたつもりでも、爪先から頭まで悪寒が這い上がり、全身が震えます。恐怖で心臓が縮み上がりながらもバクバクと鼓動を打ち、逃げ場を求めています。
いつのまにか向かいにいたはずのリチャードが私の隣に座り、うっとりと私を見つめていました。
「あぁ、この表情ですよ……
恐怖に怯えながらも穢されることなく、清らかで強い魂を持っている。悪魔にとっての、極上の餌……」
『極上の餌』と呼ばれ、鳥肌が一気に立ちました。
魂を食べられると、私はどうなるのでしょう。死んでさえも、お父様やお母様にお会いすることが叶わなくなるのでしょうか。
けれど、何も感じることのない『無』になれるのなら……それもいいかもしれません。
「もう、現世に何も思い残すことはないようですね」
リチャードが私の肩を抱きました。
「えぇ……」
頷くと、瞳をギュッと固く閉じました。
「可愛い人ですね」
リチャードの囁きが耳元で聞こえ、ふるりと震えました。
その瞬間、彼の唇が私のそれと重なりました。
悪魔は、口から魂を抜き取るのでしょうか……
一瞬そんな考えが過ぎりましたが、すぐに思考は奪われてしまいました。
「ンンッ、ンフゥッ!!」
リチャードの長い舌が私の口内を余すことなく蹂躙し、彼から送り込まれる愛液が媚薬のように私の躰を熱くさせます。
ぴったりと息つく間も与えられないほどに激しい口づけに退こうとすると、後頭部を抑えられ、更に密着されました。舌に牙が甘く穿たれ、電気が走ったようにビリビリと快感の刺激が広がります。舌を絡めとられて、そこから流れる血がリチャードに吸われます。
ドクドクと血液が波打ち、下半身が呼応するようにドクドクと蠢いて疼き、甘く濃厚な蜜が溢れてきます。
ぁ、も……だめ……
弛緩した私の躰が落ちていきました。
ボスッと私の躰を柔らかく受け止めたのは、ベッドのスプリングでした。懐かしいリネンの香りが鼻を擽ります。
瞳を開けると、世にも美しい悪魔の顔が私の瞳に映りました。トクンと心臓が跳ねます。
リチャードが私の頬を大きな掌で包みました。
「契約を進める中で、たったひとつ誤算がありました」
「誤算?」
小さく首を傾げると、リチャードが妖艶な瞳で私を見つめ、軽く口づけをしました。
「ただの道具にしか過ぎなかったはずの貴女を、手に入れたいと思ってしまったことです」
「それ、で……監獄へと向かう私が乗っている護送車を乗っ取り、魔窟へと連れ込んだのですか」
「えぇ」
そう答えたリチャードを、切なく見上げました。
「そして、私を……『極上の餌』を、食らうのですね……」
このベッドは、祭壇の代わり。
せめてもの情けとして、リチャードは慣れ親しんだ私の部屋を再現し、そこで逝かせてくれることにしたのですね。
そのことだけでも、感謝しなくては……
「フッ。フフッ……」
リチャードが笑い出し、私はますます切ない気持ちになり、胸が締め付けられました。
「どうぞ、愚かな女だと笑ってください」
「えぇ、愚かですね……貴女は」
私の髪の毛を1束救い上げると、リチャードが口づけを落としました。
「なぜ、まだ分からないのですか。
私が、貴女を本気で愛してしまったこと。それが、誤算だったということを」
私の瞳がみるみる見開かれていきます。唇が震え、喉から声を出そうとするのに、驚きのあまり息をすることさえできません。
リチャードが、私を愛している?
本当なのですか……?
信じたい、そうであって欲しいと願いつつも、そうやって私の心をいとも容易く操って愉しんでいるのではないかという疑いを払拭することができません。
愛しているのなら……どうしてあんな酷い仕打ちができるというのでしょう。
私は、今までにないほどの苦しみを、痛みを経験し、地獄を味わいました。
本当にリチャードが私を愛しているのなら、なぜずっと放っておいたのですか。
助けてくださらなかったのですか……
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