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悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました
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再び、検察官がリチャードに尋ねます。
「では、貴方はビアンカ被告人がどうやってあの毒薬を手に入れたのかご存知ですか」
「いえ。私は存じません。あの屋敷に異国の商人が訪れたことなどありません。それは、屋敷にいる使用人たちに確認すれば、すぐに分かることでしょう」
そう言ってから、リチャードが検察官を深く見つめました。
「あの……なぜ裁判官に、毒薬の入った瓶を証拠として提出されていないのですか?
あれを提出すれば、ビアンカお嬢様がハナ様を殺そうとした物的証拠として、彼女を追求することができるはずですよね?」
検察官がビクリと肩を震わせました。
裁判官が高らかに告げます。
「検察官は、ビアンカ被告人がハナ嬢殺害未遂の際に使用した毒薬の瓶を提出してください」
仕方なく検察官が毒薬の瓶を成分試験の結果とともに提出します。裁判官が結果を読み、検察官に問いただします。
「『成分試験の結果、毒となる成分は検出されず、ただの水だったことが判明した』とありますが……いったい、どういうことですか?」
検察官の顔からドッと汗が出てきて、ハンカチで拭きながら訴えます。
「そ、その……回収した毒薬の瓶が本物である可能性は低く、これはどこかで差し替えられたものと思われます。本物は被告人が持っていると思いますが、取り調べでは知らないと言い張りました」
その後、私は証言台へと呼ばれ、再び本物の毒薬の瓶のありかについて追求されましたが、答えようがありません。知らないものは知らないのですから。
検察官が論告します。
「証拠となる毒薬の瓶は見つかっていないものの、証人の証言により被告人がハナ嬢の殺害を事前に計画し、殺意を持って近づいたことは明らかです。
検察側としては、被告人であるビアンカ・ソフィアーノ・ウィンランドに対し、極刑あるいは終身刑を求刑します」
死刑か、終身刑……
その言葉が、重くのし掛かります。
背後から、お母様が啜り泣く呻き声が聞こえてきました。
これで、お父様とお母様ともお会いすることはありませんのね……
そして、リチャードとも。
リチャードをそっと窺うと、私の方を見つめて再び微笑んでおり、心に重石を課せられたかのようにズンと沈み込みました。
それほどまでに、私のことを貶めたかったのですね。
私は……リチャードに恨まれるようなことをしたのでしょうか。
それとも、単なる彼の暇潰しの遊び相手としてたまたま選ばれてしまったのでしょうか。
死刑になって、彼への想いを断ち切れるのなら、その方がいいのかもしれません。生きている限り、私はリチャードのことが忘れられず、彼への想いに縛られてしまうでしょうから。
けれど、そんな私の願いは叶いませんでした。
裁判官が読み上げた判決は……
「被告人、ビアンカ・ソフィアーノ・ウィンランド。罪状、ハナ・ミカエリを毒薬により殺害しようとした罪により、オーストラリア、タスマニア島のポート・アーサー監獄所にて50年の刑に処す」
目の前が真っ暗になりました。
死刑を免れてしまっただけではなく、私は愛する英国を離れて野蛮な人種が住んでいると噂に聞く未開の地である島に流され……終身刑に近い気が遠くなるような時間を囚人として過ごさなくてはならないのです。
再び手首を拘束され、ブラック・マリアに乗せられました。
これから船に乗って、遠い異国へと送られるのですね……
護送船も監獄のように劣悪な環境だと聞いたことがあります。狭い地下室に多くの囚人が詰め込まれ、十分な食事が与えられることなく、そこで亡くなる方も多いのだとか。
私は、それほどの罪を犯してしまったということなのですね。
愛する故郷に最後にお別れしたくても、拘束されている私は檻の隙間から景色を垣間見ることすらできません。僅かな救いは、護送車には私しか乗っていないことでした。
さようなら、愛する故郷。
お父様、お母様……どうか私のことは忘れて、平穏にお過ごしください。
おじ様、おば様……あんなに良くしてくださっていたのに、裏切ってしまい申し訳ございません。
ニーナ嬢……溌剌とした貴女と過ごした楽しい思い出をくださり、ありがとうございました。
アンソニー様、ハナ嬢……ようやく思いを遂げることができたおふたり。どうぞ、私の代わりに幸せになってください。
リチャード……
リチャードへ思いを馳せた途端、瞳の奥から涙が溢れ出ました。
「ウッ、ウゥッ……ッグ……リ、チャード……」
きっと、私のことなど愚かな女のひとりとして、すぐに忘れてしまうのでしょうね。
けれど、私は……異国の島へと流されても、きつい囚人生活の中でも……ふとした瞬間にたびたび貴方のことを思い出し、張り裂けそうな胸の痛みに苦しみ続けることでしょう。
「では、貴方はビアンカ被告人がどうやってあの毒薬を手に入れたのかご存知ですか」
「いえ。私は存じません。あの屋敷に異国の商人が訪れたことなどありません。それは、屋敷にいる使用人たちに確認すれば、すぐに分かることでしょう」
そう言ってから、リチャードが検察官を深く見つめました。
「あの……なぜ裁判官に、毒薬の入った瓶を証拠として提出されていないのですか?
あれを提出すれば、ビアンカお嬢様がハナ様を殺そうとした物的証拠として、彼女を追求することができるはずですよね?」
検察官がビクリと肩を震わせました。
裁判官が高らかに告げます。
「検察官は、ビアンカ被告人がハナ嬢殺害未遂の際に使用した毒薬の瓶を提出してください」
仕方なく検察官が毒薬の瓶を成分試験の結果とともに提出します。裁判官が結果を読み、検察官に問いただします。
「『成分試験の結果、毒となる成分は検出されず、ただの水だったことが判明した』とありますが……いったい、どういうことですか?」
検察官の顔からドッと汗が出てきて、ハンカチで拭きながら訴えます。
「そ、その……回収した毒薬の瓶が本物である可能性は低く、これはどこかで差し替えられたものと思われます。本物は被告人が持っていると思いますが、取り調べでは知らないと言い張りました」
その後、私は証言台へと呼ばれ、再び本物の毒薬の瓶のありかについて追求されましたが、答えようがありません。知らないものは知らないのですから。
検察官が論告します。
「証拠となる毒薬の瓶は見つかっていないものの、証人の証言により被告人がハナ嬢の殺害を事前に計画し、殺意を持って近づいたことは明らかです。
検察側としては、被告人であるビアンカ・ソフィアーノ・ウィンランドに対し、極刑あるいは終身刑を求刑します」
死刑か、終身刑……
その言葉が、重くのし掛かります。
背後から、お母様が啜り泣く呻き声が聞こえてきました。
これで、お父様とお母様ともお会いすることはありませんのね……
そして、リチャードとも。
リチャードをそっと窺うと、私の方を見つめて再び微笑んでおり、心に重石を課せられたかのようにズンと沈み込みました。
それほどまでに、私のことを貶めたかったのですね。
私は……リチャードに恨まれるようなことをしたのでしょうか。
それとも、単なる彼の暇潰しの遊び相手としてたまたま選ばれてしまったのでしょうか。
死刑になって、彼への想いを断ち切れるのなら、その方がいいのかもしれません。生きている限り、私はリチャードのことが忘れられず、彼への想いに縛られてしまうでしょうから。
けれど、そんな私の願いは叶いませんでした。
裁判官が読み上げた判決は……
「被告人、ビアンカ・ソフィアーノ・ウィンランド。罪状、ハナ・ミカエリを毒薬により殺害しようとした罪により、オーストラリア、タスマニア島のポート・アーサー監獄所にて50年の刑に処す」
目の前が真っ暗になりました。
死刑を免れてしまっただけではなく、私は愛する英国を離れて野蛮な人種が住んでいると噂に聞く未開の地である島に流され……終身刑に近い気が遠くなるような時間を囚人として過ごさなくてはならないのです。
再び手首を拘束され、ブラック・マリアに乗せられました。
これから船に乗って、遠い異国へと送られるのですね……
護送船も監獄のように劣悪な環境だと聞いたことがあります。狭い地下室に多くの囚人が詰め込まれ、十分な食事が与えられることなく、そこで亡くなる方も多いのだとか。
私は、それほどの罪を犯してしまったということなのですね。
愛する故郷に最後にお別れしたくても、拘束されている私は檻の隙間から景色を垣間見ることすらできません。僅かな救いは、護送車には私しか乗っていないことでした。
さようなら、愛する故郷。
お父様、お母様……どうか私のことは忘れて、平穏にお過ごしください。
おじ様、おば様……あんなに良くしてくださっていたのに、裏切ってしまい申し訳ございません。
ニーナ嬢……溌剌とした貴女と過ごした楽しい思い出をくださり、ありがとうございました。
アンソニー様、ハナ嬢……ようやく思いを遂げることができたおふたり。どうぞ、私の代わりに幸せになってください。
リチャード……
リチャードへ思いを馳せた途端、瞳の奥から涙が溢れ出ました。
「ウッ、ウゥッ……ッグ……リ、チャード……」
きっと、私のことなど愚かな女のひとりとして、すぐに忘れてしまうのでしょうね。
けれど、私は……異国の島へと流されても、きつい囚人生活の中でも……ふとした瞬間にたびたび貴方のことを思い出し、張り裂けそうな胸の痛みに苦しみ続けることでしょう。
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