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悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました
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本日は、定期的に我が家のガーデンで開催しているお茶会にハナ嬢をご招待しました。
「お茶会にお招き下さり、ありがとうございます」
笑顔でお辞儀するハナ嬢を、嘲笑が包みます。ニーナ嬢が、前に進み出ました。
「ハナ嬢、貴女……制服でいらっしゃるなんて、いったいどういうおつもりですの?」
ハナ嬢が顔を青褪めました。
「あ、あの……私、ビアンカ嬢に今日は気軽なお茶会だから、制服で来て下さいって言われましたので……」
「何度もお茶会を主催していらっしゃるビアンカ様が、そんなこと仰るはずないでしょう! ねぇ、ビアンカ様?」
私は嘲るような笑みを浮かべました。
「お茶会は、将来サロンデビューする際に恥ずかしくないよう、研鑽する為のものですのよ。制服でご参加ください、なんて、私が言うはずないでしょう?
たとえ、私がそう言ったとしても、それを真に受けるなんて、淑女としての常識を疑いますわ」
リチャードの声も、首元のチリリと焼けつくような痛みも、感じませんでした。
なぜなら、私は……自分の意思で、喋っているからです。
「ハナ嬢、お茶菓子は持参されましたかしら?」
「ぇ……ビアンカ嬢が、何も持って来なくてもいいと言われたので……」
「まぁ、呆れましたわ。お茶会にお茶菓子を持参するのは、当然のことでしょう?」
「も、申し訳ございません!!
では、今から近所のベイカリーでスコーンでも買ってきます!」
私は眉を顰めました。
「近所のベイカリーでスコーンでも、ですって!? お茶会に持参するのは、王室や上流貴族御用達の茶菓子店か、お抱えのシェフが作ったスイーツと決まっていますのよ」
「し、知りませんでした……
では次回、何か作ってお持ちします」
「まさか、ご自分でお作りになるおつもり? あなた、シェフはいませんの?」
「そ、んな……私は、庶民階級で特待生として入った身ですから……皆様みたいに、シェフなんてついていません」
それを聞き、同情を装った視線がハナ嬢に集まりました。
私はハナ嬢が庶民であり、シェフを雇うような余裕などないことも知っていましたが、ここにいる皆様に周知したのです。
「ふぅ、仕方ないですわね。本日は、私が王室御用達の苺のミルフィーユとシェフ特製のレモンメレンゲパイを持参しましたので、ハナ嬢の分は、免除することにいたしましょう」
「あ、ありがとうございます」
「それでいいかしら、皆様?」
視線を周囲に見回すと、私に頷いたり、微笑んだりしています。
「さすがビアンカ様、心がお広いですわ!」
ニーナ嬢が称賛の声を上げました。
「初めてのゲストの方には、お茶を入れて頂くことになっていますの。本日は、ダージリンティーを入れて頂きますわ。もちろん、紅茶の入れ方はご存知ですわよね?」
にっこり微笑むと、ハナ嬢の瞳が潤みながらも拳をギュッと握り、頷きました。
「もちろん、です……」
その日、私は生涯で最も不味い紅茶を飲むことになりました。
「ハナ嬢、ガラス製ジャンピン・ポットで沸騰直前の状態にすることによって茶葉がジャンピング(茶葉がゆっくり浮き沈みする現象)し、紅茶のアロマとフレーバーを抽出することができますのよ。やかんの汲み置き水を使うなんて、言語道断ですわ!
熱湯量に対しての茶葉の量が絶対的に少ないですし、蒸らし時間も設けずにそのまま冷たい容器に紅茶を注ぐなんて、ありえませんわ!!」
「ご、ごめんなさい……もっと、勉強します」
「もういいですわ。貴女をお茶会に誘ったのが間違いでしたわ。もう今後、私たちのお茶会やパーティーには参加なさらないでくださる? 主催者の顔に泥を塗り、他の参加者の方に不快な思いをさせることになりますので。ねぇ、皆様?」
お茶会の主催者である私に、反対の声を上げる方は誰もいませんでした。声を上げれば、自分もまた上流社会から締め出されることを分かっているからです。
ハナ嬢は、俯いて肩を震わせていました。
「お茶会にお招き下さり、ありがとうございます」
笑顔でお辞儀するハナ嬢を、嘲笑が包みます。ニーナ嬢が、前に進み出ました。
「ハナ嬢、貴女……制服でいらっしゃるなんて、いったいどういうおつもりですの?」
ハナ嬢が顔を青褪めました。
「あ、あの……私、ビアンカ嬢に今日は気軽なお茶会だから、制服で来て下さいって言われましたので……」
「何度もお茶会を主催していらっしゃるビアンカ様が、そんなこと仰るはずないでしょう! ねぇ、ビアンカ様?」
私は嘲るような笑みを浮かべました。
「お茶会は、将来サロンデビューする際に恥ずかしくないよう、研鑽する為のものですのよ。制服でご参加ください、なんて、私が言うはずないでしょう?
たとえ、私がそう言ったとしても、それを真に受けるなんて、淑女としての常識を疑いますわ」
リチャードの声も、首元のチリリと焼けつくような痛みも、感じませんでした。
なぜなら、私は……自分の意思で、喋っているからです。
「ハナ嬢、お茶菓子は持参されましたかしら?」
「ぇ……ビアンカ嬢が、何も持って来なくてもいいと言われたので……」
「まぁ、呆れましたわ。お茶会にお茶菓子を持参するのは、当然のことでしょう?」
「も、申し訳ございません!!
では、今から近所のベイカリーでスコーンでも買ってきます!」
私は眉を顰めました。
「近所のベイカリーでスコーンでも、ですって!? お茶会に持参するのは、王室や上流貴族御用達の茶菓子店か、お抱えのシェフが作ったスイーツと決まっていますのよ」
「し、知りませんでした……
では次回、何か作ってお持ちします」
「まさか、ご自分でお作りになるおつもり? あなた、シェフはいませんの?」
「そ、んな……私は、庶民階級で特待生として入った身ですから……皆様みたいに、シェフなんてついていません」
それを聞き、同情を装った視線がハナ嬢に集まりました。
私はハナ嬢が庶民であり、シェフを雇うような余裕などないことも知っていましたが、ここにいる皆様に周知したのです。
「ふぅ、仕方ないですわね。本日は、私が王室御用達の苺のミルフィーユとシェフ特製のレモンメレンゲパイを持参しましたので、ハナ嬢の分は、免除することにいたしましょう」
「あ、ありがとうございます」
「それでいいかしら、皆様?」
視線を周囲に見回すと、私に頷いたり、微笑んだりしています。
「さすがビアンカ様、心がお広いですわ!」
ニーナ嬢が称賛の声を上げました。
「初めてのゲストの方には、お茶を入れて頂くことになっていますの。本日は、ダージリンティーを入れて頂きますわ。もちろん、紅茶の入れ方はご存知ですわよね?」
にっこり微笑むと、ハナ嬢の瞳が潤みながらも拳をギュッと握り、頷きました。
「もちろん、です……」
その日、私は生涯で最も不味い紅茶を飲むことになりました。
「ハナ嬢、ガラス製ジャンピン・ポットで沸騰直前の状態にすることによって茶葉がジャンピング(茶葉がゆっくり浮き沈みする現象)し、紅茶のアロマとフレーバーを抽出することができますのよ。やかんの汲み置き水を使うなんて、言語道断ですわ!
熱湯量に対しての茶葉の量が絶対的に少ないですし、蒸らし時間も設けずにそのまま冷たい容器に紅茶を注ぐなんて、ありえませんわ!!」
「ご、ごめんなさい……もっと、勉強します」
「もういいですわ。貴女をお茶会に誘ったのが間違いでしたわ。もう今後、私たちのお茶会やパーティーには参加なさらないでくださる? 主催者の顔に泥を塗り、他の参加者の方に不快な思いをさせることになりますので。ねぇ、皆様?」
お茶会の主催者である私に、反対の声を上げる方は誰もいませんでした。声を上げれば、自分もまた上流社会から締め出されることを分かっているからです。
ハナ嬢は、俯いて肩を震わせていました。
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