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悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました

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 学校の門の前でリチャードが車の後部座席の扉を開け、優美に見送ります。

「ビアンカお嬢様、行ってらっしゃいませ。
 どうぞ、お気をつけて」
「えぇ、行って参りますわ」

 皆様の視線が、リチャードに集中しているのを感じます。これほどの美形ですもの、当然ですわ。

 歩き出すと、背後から声をかけられました。

「ビアンカ様、ご機嫌よう」
「ニーナ嬢、ご機嫌よう」

 振り返って微笑むと、ニーナ嬢がキラキラした瞳で見つめてきます。

「あぁ、相変わらずビアンカ様の執事、美しくて凛としていて羨ましいですわ。さすがビザンヌ男爵令嬢、執事ですら美形ですのね。
 あんな美麗な執事がビアンカ様の側にいたら、アンソニー様は気が気じゃありませんわね」

 今朝の秘事が思い出され、心臓が飛び出しそうになりました。

「ニーナ嬢、何を仰ってるの。執事と何かあるはずなど、ないでしょう」
「そ、そうですわよね。私なら、心惹かれてしまいますが、ビアンカ様に限ってありえませんわよね」
「そ、そうですわ……」

 私は、この学園を卒業したらアンソニー様の元へと嫁ぐ身。
 執事であるリチャードに心を動かされるなど……あっては、ならないことなのです。

 ましてや、今朝のような淫らな行為など……

 思い悩みながら教室に入りますと、

「ビアンカ、おはよう」

 アンソニー様に声をかけられ、思わずのけぞってしまいました。

「ご、ご機嫌よう……アンソニー様」
「どうかしたんだい? そんな、驚いた顔をして」
「な、なんでもございませんわ!!」

 フォード子爵の爵士であるアンソニー様は、私が6歳のときに親同士が決めた許嫁です。成人したらアンソニー様の元へと嫁ぎ、子爵夫人となるのだと、幼い頃から言い聞かせられてきました。

 茶色い癖っ毛、弱気そうな下がり眉、丸いつぶらなキャラメル色の瞳、少し上にツンと向いた鼻、そばかすだらけの肌のアンソニー様は、少し幼いところはあるものの、明るくて前向きで社交的で、私は彼のことを快く、そして大切に思っております。いつか妻となって、彼の子供を産む未来に、疑問を抱いたことなどありませんでした。

 アンソニー様とは清い交際をしており、口付けどころか手を繋いだことすらありません。

 それですのに……私は。

 アンソニー様を裏切っているという罪悪感が、私の心臓をきつく締め付けます。

 私は、最低な人間ですわ……

「ビアンカ、もし体調が悪いなら医務室に連れて行こうか?」

 アンソニー様の心遣いに胸が痛みます。

「大丈夫、ですわ……まもなく授業が始まりますわ。席に着きましょう?」

 席に着きますと、先生が女生徒と共に入ってきました。

「本日よりこのクラスに入る、転入生です。どうぞ、自己紹介を」
「ハナです。どうぞよろしくお願いします」

 ピンクの髪色に青い瞳、肩までの髪を揺らすハナ嬢は、見た目は少し変わっていますが、笑顔がとても可愛らしい女性でした。

 アンソニー様の隣の席が空いていたため、ハナ嬢はそこに座ることになりました。
 
「やぁ、僕はアンソニーだ。よろしくね、ハナ」
「よろしくお願いします」

 爽やかにふたりが微笑み合いました。
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