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深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

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 ウィンストンお兄様は、相当の覚悟を決めて私に愛の告白をされたのだから、私もお兄様の気持ちに真剣に答えなくては。

「ウィンストンお兄様……わたくしも……お兄様のことを……ずっと、お慕い申し上げておりました」

 えっ……

 予想もしていなかったクリスティーナの言葉に、ウィンストンは目を瞬かせ、息を呑んだ。

「それ、は……」
「兄、としてではなく……ひとりの殿方として、ウィンストンお兄様のことをお慕いしております」
「クリスティーナ……嬉しい」

 クリスティーナの背中に腕を回し、ウィンストンがギュッと力強く抱き締める。彼女の温かい体温が腕から伝わってきて、ウィンストンの緊張に固まっていた心を溶かしていく。

 だが、クリスティーナはウィンストンの腕をそっと解き、潤んだ瞳でウィンストンを見上げると、震える声で告げた。

「けれど……いけませんわ。お互い好きあっていても……どうしようもありませんもの。
 だって、わたくしとウィンストンお兄様は……血は繋がらなくとも、兄妹なのですから」

 諦めるしか、ないのですわ……

 クリスティーナはそう思うものの胸が締め付けられ、切なさに苦しくなる。

 俯きそうになるクリスティーナの顎をウィンストンの指が捉え、クイとあげる。魅惑的なクリスタルブルーの瞳に、クリスティーナの迷いに満ちた表情が映し出される。

「俺は、クリスティーしかいらない。君さえ側にいてくれれば……何もいらない」

 ウィンストンの真摯な眼差しに、熱い想いに、クリスティーナの心が強く揺さぶられる。

 受け止めてはいけない……そう、分かっていますのに。
 この手に、腕に、背中に預けてしまいたくなる。何もかも全て委ねて、お兄様の腕に抱かれてしまいたくなるなんて……

「ウィンストンお兄様……」
「俺に全て、預けて?」

 わかっていますわ。この恋が、許されるものではないということは。
 それでも、わたくしもウィンストンお兄様のことが……

 両親のことも家名も、何もかもがウィンストンの熱い想いによって崩されていく。

 ただ目の前にいる、愛しい人の側にいたい。

 その想いが、クリスティーナを強く突き動かした。

「……」

 クリスティーナは言葉で返事をする代わりに、コクリと頷いた。
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