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深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

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「結婚、するつもりなのか?」

 ウィンストンの射るような視線に、クリスティーナの胸がチクッと痛くなる。

 なぜ、そのような目でお見つめになるんですの……

「そ、そうですの。お仕事を円滑に進めるために、お父様は政界と深い繋がりを求めていらして。
 貴族院議員の御曹司であるコンラッド様とはご学友でもありますし、お父様とお母様がぜひにと勧めて下さったんですの」

 胸の痛みを押し隠し、クリスティーナは平然を装ってウィンストンに答える。

 バトワール財閥の為にも、ウィンストンお兄様の為にも、こうするべきなんですわ……

「クリスティーナは、それでいいのか?」

 ウィンストンが表情を隠そうとして顔を俯かせ、頬にかかったクリスティーナの髪を優雅に掬い取り、耳にかけた。それだけで、クリスティーナの鼓動が速まり、苦しくなる。

「し、仕方ありませんわ。それが、私の役目だと自覚しておりますもの……」

 クリスティーナは自分の気持ちとは裏腹に、苦しそうに言い訳した。

「バトワール財閥が政界で力を持つ貴族院議員であるノルウェールズ侯爵家と縁戚関係になれば、仕事の上で更なる飛躍が見込まれますものね……」
「クリスティーナの、気持ちは?」
「ッッ……」

 ウィンストンがクリスティーナに顔を近づけ、クリスタルブルーの瞳に深い影を落としじっと見つめる。その美しい瞳に見つめられたクリスティーナは、落ち着かない気持ちにさせられる。

「クリスティーの気持ちは、どうなんだ?」

 本当は、お見合いなんてしたくありませんわ。ウィンストンお兄様のお側にずっといたいのです。

 けれど、そんなことを言ってウィンストンを困らせたくなかった。

「コンラッド様はとても素敵なお方ですし、婚姻を交わせばいずれはお慕いできるかもしれないですし……こうすることが一番の選択ですわ」

 泣いては、だめ……

 顔を俯かせたままのクリスティーナの顎に指をかけ、ウィンストンが顔を向けさせる。

「……嫌だ」
「え?」

 ウィンストンお兄様、なんておっしゃったの?

「クリスティーが誰か、他の男のものになるなんて……嫌だ」
「ウィンストン、お兄様……」

 どうかそんなこと、おっしゃらないで。勘違いしてしまいますから。

 クリスティーナは、平然を装って笑おうとするが、張り付いた笑顔は頬を引き攣らせ、声を震わせる。

「も、もう、ウィンストンお兄様……妹、として……大事にしてくださるのは嬉しいですが……これは、政略結婚だとウィンストンお兄様も、分かっていらっしゃるでしょう? 
 断れるはず……ありま、せ……」

 言い終わらないうちに、クリスティーナの唇はウィンストンの唇で塞がれていた。

 ッッ!?

 ウィンストンの手がクリスティーナの後頭部を支え、角度を変えながら啄むように接吻が落とされる。クリスティーナの躰が急激に熱を上げる。

「ンンッ……ッハ、ァ……ウィン、ストンッ……おにい……ハァ」

 接吻の合間に必死に呼びかけようとするものの、すぐに唇を塞がれてしまう。唇の隙間からウィンストンの舌がするりと差し入れられた。

「ゥッ」

 ウィンストンお兄様の舌、熱い……

 歯列をなぞり、ウィンストンの舌がクリスティーナの舌を絡め取り、きつく吸われる。途端にジンジンとした疼きがクリスティーナの中心部に生まれる。舌を抜き差しし、蜜まで吸いつくされ、呼吸まで奪うような激しいウィンストンの接吻に翻弄される。

 やがて唇が離れ、クリスティーナはハァハァと息をつきながら目尻に涙を溜める。

「ハァッ、ハァッ……なぜ、ですの……ッハァ……ウィンストン、お兄様……ッハァ」

 顔を俯かせたウィンストンは、僅かに震えているようにみえた。

「……」

 そして、何かを決心したかのように顔をあげ、クリスタルブルーの瞳がクリスティーナを真っ直ぐに捉える。

「クリスティー。君が、好きなんだ……」
「お兄、様っっ!」


「他の、誰にも渡したくない。俺は妹ではなく、一人の女性として君を愛している」



 その瞳は欲情を灯し、見つめられているだけで胸が高鳴り、クリスティーナの全身を震わせる。

「う、そ……」

 突然の告白に驚き、呆然と立ちつくすクリスティーナに切ない微笑みをウィンストンが向ける。

「嘘、なんかじゃない。俺は、クリスティーのことをいつからか妹として見れなくなっていた」
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