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見上げた空には太陽が
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ぼんやりと重たい瞼を開けると、違和感を感じる程白い天井が視界に映る。眩しすぎる白に目がチカチカし、瞼を閉じてからゆっくりともう一度目を開いていく。
「お、気がついたな」
「兄貴」
黒髪の短髪に日に焼けた肌、彫りの深い顔立ちをした太陽という名前そのものの兄が、美央の顔を覗き込んでいた。
「お前、あの事故から10日間も意識が朦朧としてたんだぞ」
「あの、事故……」
落下した時の記憶が急激に蘇ってきた。
「覚えて、るか?」
「う、ん。ジャンプしたら突風が吹いてきて、向こう側のビルに足を掛けようとしたけどバランス崩して……落ちていく中、最後に覚えてるのは遠くなってく青空、だけ」
太陽の肩越しにあの日と同じ青空がガラス窓に映り込んでいて、ゾクゾクっと背筋に寒気が走った。
「兄貴、カーテン閉めて!!」
「どうしてだ?」
「見たくないっ。恐い……恐い……」
ガチャッと扉が開く音がした。仕切りとなるカーテンのせいで、誰が入ってきたかは分からない。
「おっ。母さん来たみたいだから、俺は行くよ。じゃあな!」
太陽はひらりと背を向けると、カーテンの向こうへと消えてしまった。
もうっ、カーテン閉めろって言ったのに。
入れ替わりに入ってきた母は美央を見て駆け寄り、手を握ると、へなへなと崩れるように椅子に座り込んで涙ぐんだ。
「美央、意識が戻ったのね。良かっ、た……」
いつもは明るい母の憔悴しきった表情に、自分がどれほど心配かけたのかということを思い知らされ、胸が痛くなった。
「心配かけて、ごめん」
母になら、素直にそう言えた。本来なら、まず兄に言うべきだったのに。タイミングを外してしまったこともあるが、それ以外にも罰の悪い思いがあって言い出せなかった。
「ねぇ母さん、カーテン閉めてくんない? 兄貴に頼んだのに、忘れて出てっちゃった」
「え?」
「さっき、すれ違っただろ?」
「そ、そうね……」
顔色が悪い。おそらく、ずっと寝ていないのだろう。母は背を向け、カーテンを閉めた。
「美央が気がついたから、お医者様、呼んでくるわね」
医者の話では、美央は両腕と左足を骨折しているものの、腰は打撲した程度で頭蓋骨や脳にも損傷は見られないということだった。
「あれだけの高さから落ちながら……これは、奇跡ですよ」
「あのっ! またParkourすることは出来ますか?」
医者と陽子が顔を見合わせ、重い空気を漂わせる。
「リハビリ、次第ですね」
その後、病室で警察からの事情聴取を受けた。事故の様子を説明することは苦しかったが、既に多くの目撃者から聞き取りしていたためか、詳しく突っ込まれることはなかった。
母の話では、地元の新聞やニュースにも事故が掲載され、Parkourの危険性が指摘されているという。それだけでなく、日本全国のトレイサー(Parkourの実践者)たちが、今まで練習に使っていた公園や砂場、神社が、子供が真似すると危ないからという親たちからの声を受けて使えなくなり、活動の場がなくなってきているという話だった。
私が軽はずみなことをしたばっかりに、チームどころか全トレイサーにまで影響を与え、迷惑をかけてしまったんだ。
美央は自分がしてしまった事の重大さを、初めて自覚し、恐ろしくなった。
「美央にとっては思い出したくない出来事だと思うし、またショックを受けることになると思うから、しばらくTVを見たり、新聞を読むのはやめましょうね」
母の言葉に、美央は震えながら小さく頷いた。
「お、気がついたな」
「兄貴」
黒髪の短髪に日に焼けた肌、彫りの深い顔立ちをした太陽という名前そのものの兄が、美央の顔を覗き込んでいた。
「お前、あの事故から10日間も意識が朦朧としてたんだぞ」
「あの、事故……」
落下した時の記憶が急激に蘇ってきた。
「覚えて、るか?」
「う、ん。ジャンプしたら突風が吹いてきて、向こう側のビルに足を掛けようとしたけどバランス崩して……落ちていく中、最後に覚えてるのは遠くなってく青空、だけ」
太陽の肩越しにあの日と同じ青空がガラス窓に映り込んでいて、ゾクゾクっと背筋に寒気が走った。
「兄貴、カーテン閉めて!!」
「どうしてだ?」
「見たくないっ。恐い……恐い……」
ガチャッと扉が開く音がした。仕切りとなるカーテンのせいで、誰が入ってきたかは分からない。
「おっ。母さん来たみたいだから、俺は行くよ。じゃあな!」
太陽はひらりと背を向けると、カーテンの向こうへと消えてしまった。
もうっ、カーテン閉めろって言ったのに。
入れ替わりに入ってきた母は美央を見て駆け寄り、手を握ると、へなへなと崩れるように椅子に座り込んで涙ぐんだ。
「美央、意識が戻ったのね。良かっ、た……」
いつもは明るい母の憔悴しきった表情に、自分がどれほど心配かけたのかということを思い知らされ、胸が痛くなった。
「心配かけて、ごめん」
母になら、素直にそう言えた。本来なら、まず兄に言うべきだったのに。タイミングを外してしまったこともあるが、それ以外にも罰の悪い思いがあって言い出せなかった。
「ねぇ母さん、カーテン閉めてくんない? 兄貴に頼んだのに、忘れて出てっちゃった」
「え?」
「さっき、すれ違っただろ?」
「そ、そうね……」
顔色が悪い。おそらく、ずっと寝ていないのだろう。母は背を向け、カーテンを閉めた。
「美央が気がついたから、お医者様、呼んでくるわね」
医者の話では、美央は両腕と左足を骨折しているものの、腰は打撲した程度で頭蓋骨や脳にも損傷は見られないということだった。
「あれだけの高さから落ちながら……これは、奇跡ですよ」
「あのっ! またParkourすることは出来ますか?」
医者と陽子が顔を見合わせ、重い空気を漂わせる。
「リハビリ、次第ですね」
その後、病室で警察からの事情聴取を受けた。事故の様子を説明することは苦しかったが、既に多くの目撃者から聞き取りしていたためか、詳しく突っ込まれることはなかった。
母の話では、地元の新聞やニュースにも事故が掲載され、Parkourの危険性が指摘されているという。それだけでなく、日本全国のトレイサー(Parkourの実践者)たちが、今まで練習に使っていた公園や砂場、神社が、子供が真似すると危ないからという親たちからの声を受けて使えなくなり、活動の場がなくなってきているという話だった。
私が軽はずみなことをしたばっかりに、チームどころか全トレイサーにまで影響を与え、迷惑をかけてしまったんだ。
美央は自分がしてしまった事の重大さを、初めて自覚し、恐ろしくなった。
「美央にとっては思い出したくない出来事だと思うし、またショックを受けることになると思うから、しばらくTVを見たり、新聞を読むのはやめましょうね」
母の言葉に、美央は震えながら小さく頷いた。
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