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王子様のお心

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 い、いったい……どういうことでしょう。
 私が、王子様と中庭を歩いているなんて……

 ふわふわと夢見心地で歩いていると、王子様に話しかけられました。

「君の歌、素晴らしかったよ」
「あ、ありがたく存じますわ」
「なんていうか……懐かしい感じがしたんだ」
「ぇ」

 今、なんて仰ったの……?

 目を見開く私に、王子様が照れたように微笑みました。

「こんなこと言ったらおかしいと思われるかもしれないが、まるで……遠い昔に君の歌を聞いたことがあるような、そんな気がしたんだ」
「そう、ですの……」

 胸がグッと熱くなり、喉に焼け石が詰まったように苦しくなります。

 王子様……私は、貴方にこの歌を歌って差し上げたことがあるんです。
 私が、シンデレラなのです。

 どうか。どうか、気づいて……

 けれど、私の希望の灯火は王子様のお言葉で一瞬で消されました。

「あの娘が見つかったら、ぜひ婚礼の時に祝いの席で歌ってくれないか」

 私の心が途端に、暗く重くなりました。

 やはり……王子様は運命の女性、シンデレラを追い求めていますのね。
 私では……この容姿では、シンデレラになど、なれない。

「王太子殿下は……あの女性を一目見て、運命の女性だと感じたんですの?」
「あぁ、そうなんだ。彼女の瞳を見つめた瞬間に感じたよ。
 この人だと」
「そう、ですの……」

 もうこれ以上、聞きたくありませんわ……

 そう思って瞳を逸らそうとした時、王子様の表情に陰りが差しました。

「その、はずなんだけど……おかしいんだ。
 私の運命の女性はガラスの靴を落としていったあの人だと確信する一方で、彼女がダンスの時に躓いたり、喋ったり、笑ったりするのを聞いたり、笑顔を見ていると……モヤモヤした気持ちが湧いてくるんだ。
 どうしてだろう……けれど、その理由を考えようとしても答えが見つからない。彼女こそが、運命の女性のはずなのに」

 王子様は、シンデレラに対して違和感を持っていますのね……
 
 だからと言って、私が容姿はアナスタシアだけれども心はシンデレラなのですと打ち明けたところで信じていただけるかも分かりませんし、醜い容姿を受け入れてくださるはずがありません。

 それに……『シンデレラ』のお話は、ハッピーエンドへ向かって流れています。私はアナスタシアお姉様との契約を破って物語を捻じ曲げることなどできません。

 私は、王子様に向かって微笑みました。

「王太子殿下……たとえ運命の女性だと信じていても、不安になることはありますわ。けれど……きっと、靴の持ち主が見つかった時、王太子殿下は再び確信を持つことができると思います」

 そうなるのが、自然の流れ……抗うことなど、できませんわ。

 私の言葉を受け、王子様が笑顔を見せました。

「ありがとう。アナスタシア、君のおかげで気持ちが軽やかになったよ。
 どうか、これからも私のいい友人でいてくれ」

 いい友人……

 王子様が私に対して、まったく恋愛感情を持ってないことが明らかになった瞬間でした。

「光栄ですわ」

 私にできることは……それを受け入れることだけなのです。

 以前のアナスタシアお姉様であれば、王子様のよき友人になることもできなかった、遠い存在でした。

 それが今は、ふたりきりで語らうまでに至っています。これ以上の贅沢など、望めるはずがありません。

 私は、王子様とシンデレラの幸せを願うことしか許されないのです。
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