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シンデレラ救出大作戦、ですわ
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その時、あるアイデアが浮かびました。
「大公閣下、お疲れのようですわね。ティーでもいかがですか?」
お母様の側に置かれたティーセットへと歩み寄ります。
お母様がにっこりと微笑まれました。
「あら、それはいい考えね。アナスタシア、大公閣下にティーのご用意を」
「はい、お母様」
お母様に近づいた際にドレスのポケットにそっと手を忍ばせて、鍵を盗み出し隙を見て屋根裏部屋に行けば……
そう考えていますと、大公様が答えます。
「ありがたいが……ハァー。遠慮しておく。
早速、靴を試してもらおう」
あぁ、チャンスを逃してしまいましたわ。
お母様が慇懃に礼をしました。
「分かりました。アナスタシア!」
「はい、お母様」
ここは……仕方ないですわ。
諦めて椅子に座ります。従者が跪き、私の足にガラスの靴を履かせます。
けれど……私の足は小さなガラスの靴には大きすぎて、入りません。分かっていましたのに……どこか、寂しい気持ちになってしまいます。
従者がなんとか履かせようとしてくださいますが、どう見てもサイズが合っていませんわ。
お母様が「おや?」というように、私に歩み寄りました。
「あら、変ねぇ。靴の履き方が間違っているのかしら」
そう仰ると、お母様が従者を押し除けました。私の足首を手に取り、無理やりガラスの靴を押し付けて履かせようとします。
「い、痛い! 痛いですわ、お母様っっ!!」
「これもトレメイン家のためです! 我慢なさい!!」
無理やり押し込まれた足が不自然に曲がり、グキッと音が体の内部に響きました。足がジンジンと痛み、涙が込み上がります。
「ウッ……ウッ……いた、痛い……ッッ」
「くぉのー、入れぇぇ!!」
鬼のような恐ろしい形相をしたお母様が、顔を真っ赤にしてガラスの靴を捻じ込みます。
誰か……助けてッッ!!
救いを求めて大公様に目をやると、お疲れの大公様はすっかり眠りこけていらっしゃいました。
「さぁ、大公様が眠っているうちに早くガラスの靴を履くのよ!!」
お母、様……
その時、大公様が目を覚まされました。
「ファーアーア。まだやっているのか」
お母様が大公様の声にビクッとして、そちらを向かれました。
今ですわ!
その隙にお母様のドレスのポケットにサッと手を突っ込み、鍵を抜き取ると自分のドレスのポケットへと入れました。皆、大公様に視線が向いていて、誰も私の動きに気づかなかったようですわ。
「もういい! では、次のお嬢さん」
大公様の声を聞き、ドリゼラお姉様が私を突き飛ばします。
「私の番よ、退いて!」
「あっっ」
右足がジンジンと痛みます。椅子から下り、足を引き摺りながら歩きました。
痛い……痛い、ですが……シンデレラにガラスの靴を届けなければ。
早くしないと、大公様が帰られてしまう。そうなったら、シンデレラは王子様と結婚することができなくなります。
ドリゼラお姉様が、先ほどと同じように従者にガラスの靴を履かせてもらいます。ドレスの裾に隠れている足元は、一見ガラスの靴がぴったりと嵌っているように見えます。
「やーっぱりぃ、私の靴だわぁ。ぴったりだものぉ、うふふふふ……いつも履いてる靴だから一目で分かったわぁ」
けれど、従者がドリゼラお姉様の足を高く掲げるとドレスの裾が下り、大きな足先にちょこんと載ったガラスの靴が現れました。
「あ、あら……おかしいわねぇ。そうだ、夜遅くまで踊ったからぁ、足が浮腫んでるのかしら。いやあねぇ、いつもならぴったりなのに」
その声に応えて、従者も必死にドリゼラお姉様に靴を履かせようと本気を見せました。ドリゼラお姉様に背を向けた形で馬乗りになると、ガラスの靴を拳で上からゴンゴンと叩きます。
先ほどお母様にされた痛みが蘇り、見ているだけで足がジンジンします。
それでも、ガラスの靴は足に嵌まりません。
「もっと力を入れて!」
どうしても王子様の花嫁になりたいドリゼラお姉様が叫びます。
「ねぇお母様! お母様ってばぁ!!」
「シーッ、静かに。また大公様が眠ってしまわれたわ」
大公様はイビキをかいて、本格的に眠ってしまわれたようです。
「反対の足で試してるんじゃないの?」
そう言いながら、お母様が従者を押し退けてドリゼラお姉様の足首を取りました。
……今が、チャンスですわ。
私は正面を向いたまま痛む足を押さえながら一歩、また一歩と慎重に後ろへ下がりました。
背を向けてガラスの靴を履かせているお母様はもちろん、靴に集中しているドリゼラお姉様も、従者の目も、私に向けられていません。
足がコツンと階段に当たったところでくるりと背を向け、上がっていきます。
「あぁん! お母様、いたぁぁあい!!」
「我慢するのです!!」
ふたりの声を背に階段を上り切り、屋根裏部屋の扉を開けました。見上げると、目眩がしそうなほど長く続く階段が視界に広がっていました。足が上ることを拒否し、ジンジンと痛みを訴えます。
ドレスのポケットに手を入れ、鍵をギュッと握り締めました。
シンデレラ、待っていてください。
今、助けにまいりますわ……
「大公閣下、お疲れのようですわね。ティーでもいかがですか?」
お母様の側に置かれたティーセットへと歩み寄ります。
お母様がにっこりと微笑まれました。
「あら、それはいい考えね。アナスタシア、大公閣下にティーのご用意を」
「はい、お母様」
お母様に近づいた際にドレスのポケットにそっと手を忍ばせて、鍵を盗み出し隙を見て屋根裏部屋に行けば……
そう考えていますと、大公様が答えます。
「ありがたいが……ハァー。遠慮しておく。
早速、靴を試してもらおう」
あぁ、チャンスを逃してしまいましたわ。
お母様が慇懃に礼をしました。
「分かりました。アナスタシア!」
「はい、お母様」
ここは……仕方ないですわ。
諦めて椅子に座ります。従者が跪き、私の足にガラスの靴を履かせます。
けれど……私の足は小さなガラスの靴には大きすぎて、入りません。分かっていましたのに……どこか、寂しい気持ちになってしまいます。
従者がなんとか履かせようとしてくださいますが、どう見てもサイズが合っていませんわ。
お母様が「おや?」というように、私に歩み寄りました。
「あら、変ねぇ。靴の履き方が間違っているのかしら」
そう仰ると、お母様が従者を押し除けました。私の足首を手に取り、無理やりガラスの靴を押し付けて履かせようとします。
「い、痛い! 痛いですわ、お母様っっ!!」
「これもトレメイン家のためです! 我慢なさい!!」
無理やり押し込まれた足が不自然に曲がり、グキッと音が体の内部に響きました。足がジンジンと痛み、涙が込み上がります。
「ウッ……ウッ……いた、痛い……ッッ」
「くぉのー、入れぇぇ!!」
鬼のような恐ろしい形相をしたお母様が、顔を真っ赤にしてガラスの靴を捻じ込みます。
誰か……助けてッッ!!
救いを求めて大公様に目をやると、お疲れの大公様はすっかり眠りこけていらっしゃいました。
「さぁ、大公様が眠っているうちに早くガラスの靴を履くのよ!!」
お母、様……
その時、大公様が目を覚まされました。
「ファーアーア。まだやっているのか」
お母様が大公様の声にビクッとして、そちらを向かれました。
今ですわ!
その隙にお母様のドレスのポケットにサッと手を突っ込み、鍵を抜き取ると自分のドレスのポケットへと入れました。皆、大公様に視線が向いていて、誰も私の動きに気づかなかったようですわ。
「もういい! では、次のお嬢さん」
大公様の声を聞き、ドリゼラお姉様が私を突き飛ばします。
「私の番よ、退いて!」
「あっっ」
右足がジンジンと痛みます。椅子から下り、足を引き摺りながら歩きました。
痛い……痛い、ですが……シンデレラにガラスの靴を届けなければ。
早くしないと、大公様が帰られてしまう。そうなったら、シンデレラは王子様と結婚することができなくなります。
ドリゼラお姉様が、先ほどと同じように従者にガラスの靴を履かせてもらいます。ドレスの裾に隠れている足元は、一見ガラスの靴がぴったりと嵌っているように見えます。
「やーっぱりぃ、私の靴だわぁ。ぴったりだものぉ、うふふふふ……いつも履いてる靴だから一目で分かったわぁ」
けれど、従者がドリゼラお姉様の足を高く掲げるとドレスの裾が下り、大きな足先にちょこんと載ったガラスの靴が現れました。
「あ、あら……おかしいわねぇ。そうだ、夜遅くまで踊ったからぁ、足が浮腫んでるのかしら。いやあねぇ、いつもならぴったりなのに」
その声に応えて、従者も必死にドリゼラお姉様に靴を履かせようと本気を見せました。ドリゼラお姉様に背を向けた形で馬乗りになると、ガラスの靴を拳で上からゴンゴンと叩きます。
先ほどお母様にされた痛みが蘇り、見ているだけで足がジンジンします。
それでも、ガラスの靴は足に嵌まりません。
「もっと力を入れて!」
どうしても王子様の花嫁になりたいドリゼラお姉様が叫びます。
「ねぇお母様! お母様ってばぁ!!」
「シーッ、静かに。また大公様が眠ってしまわれたわ」
大公様はイビキをかいて、本格的に眠ってしまわれたようです。
「反対の足で試してるんじゃないの?」
そう言いながら、お母様が従者を押し退けてドリゼラお姉様の足首を取りました。
……今が、チャンスですわ。
私は正面を向いたまま痛む足を押さえながら一歩、また一歩と慎重に後ろへ下がりました。
背を向けてガラスの靴を履かせているお母様はもちろん、靴に集中しているドリゼラお姉様も、従者の目も、私に向けられていません。
足がコツンと階段に当たったところでくるりと背を向け、上がっていきます。
「あぁん! お母様、いたぁぁあい!!」
「我慢するのです!!」
ふたりの声を背に階段を上り切り、屋根裏部屋の扉を開けました。見上げると、目眩がしそうなほど長く続く階段が視界に広がっていました。足が上ることを拒否し、ジンジンと痛みを訴えます。
ドレスのポケットに手を入れ、鍵をギュッと握り締めました。
シンデレラ、待っていてください。
今、助けにまいりますわ……
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