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王子様との再会
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お城の鐘が、舞踏会の開場時間である8時を知らせます。
その頃、トレメイン家にも迎えの馬車が到着しました。1頭の馬が引く、小さな馬車です。いよいよ舞踏会へと向かいます。
「お母様、馬車が来ましたわ」
「分かりました。行きましょう」
お母様とドリゼラお姉様と階下へ下りていくと、そこにはシンデレラが立っていました。お腹が空いてキッチンへ行っていたのか、片手にパンを持っています。
お母様が意地悪く尋ねました
「あら、あなたは行く準備しないの?」
「行かないわ」
シンデレラの答えにお母様とドリゼラお姉様がにっこりしました。
「行かないの? まぁ、残念ね。まっ、また機会はあるでしょ」
「えぇ、もちろんですわ」
シンデレラが余裕の笑みを見せ、お母様とお姉様が呆気に取られています。
まさか、妖精のおばあさんが来ることを話すわけじゃありませんわよね?
「では、ごきげんよう♪」
シンデレラは鼻歌を歌いながら、去って行きました。
「なんなの、あいつー!?」
ドリゼラお姉様は不審な表情を見せましたが、お母様は気にした様子は見せません。
「ただの強がりでしょ。
貴女たち、さ、もう行くわよ。急いだ方がいいわ。でも、おしとやかにね」
『はい、お母様』
シンデレラを家に残し、私たちは狭い馬車に乗り込みました。
街を抜け、お城へ向かって馬車が走り出します。
「アナスタシア、もっと向こう行ってよ! 私の座る場所がないじゃない!」
「ドリゼラお姉様、これ以上は無理ですわ」
2人乗りの馬車に3人で乗り込み、1つの席をドリゼラお姉様と座り、しかもパニエが大きく広がったスカートが重なり合って、ぎゅうぎゅう詰めですわ。
「貴女たち、静かになさい」
向かいの席にお1人で座っているお母様が注意なさいました。
あぁ、シンデレラは4頭の馬が引き、ふかふかのソファが敷かれたゆったりとした豪華な馬車で舞踏会に向かうのですわね。今頃、妖精のおばあさんは現れたかしら? シンデレラを素敵に変身させていらっしゃるのかしら……
長い橋を渡り切ると、純白の尖塔が幾つも建ち並ぶ立派な王宮が迫ってきました。もう既に多くの馬車が並び、次々に人が降りて行き、吸い込まれるようにお城の重厚な扉へと向かっています。
「あぁーっ、もうすぐ王子様に会えるのねー!!」
ドリゼラが興奮の声を上げました。私の胸もドキドキと高鳴っています。
馬車が少しずつ進み、ついにお城の前で停まりました。この馬車にはお付きの者はいないので、御者が手を差し伸べてくださいます。
「ありがとうございます」
手を添え、馬車を降りると、広く長い階段を上って扉へと向かいます。普段なら固く閉ざされた扉は、この日はめいいっぱい開けられており、その先に兵士たちが均等にズラーッと並んで私たちを迎え入れてくれます。
舞踏会の開かれる大ホールへと向かう長い長い階段を抜けると、そこには長蛇の列が並んでいました。王子様にお目通りし、ご挨拶するための列です。果てしなく続く赤い絨毯の先の、階段を2段上がった上座に王子様が立っていらっしゃるのが遠目に見えました。
こんなにたくさんの方達が来ていらしたのですね。
シンデレラの時には遅れて現れ、周りの方達を見る余裕などありませんでしたから、とても新鮮ですわ。
招待状を運んでくださった小柄の小太りの男性が、長々と続く書状を読み上げています。
「ブレデニカ・ジャニーデラフォンテイン嬢。ピーター・ジャニーデラフォンテイン将軍の娘」
呼ばれた女性が王子様の前に進みより、スカートの裾を持ち上げてお辞儀をしています。
王子様は儀礼的に一礼すると……まぁ、横を向いてあくびをなさってるわ。まったく関心がないようですわね。
確かに、これだけの女性ひとりひとりにご挨拶するのは大変でしょうけれど、こんな態度を取られたら悲しくなりますわ。
これも、シンデレラであった頃には知らなかった王子様の一面ですわ……やはり王子様は、美しくない女性には興味がないということでしょうか。
私たちの前にいた女性が名前を呼ばれました。
「さぁ、いよいよですよ」
お母様が私たちに耳打ちします。ドリゼラお姉様がドレスの裾を伸ばし、頭の羽飾りをピンと立てました。私も緊張で喉を鳴らし、ドレスを整えます。
「ドリゼラ嬢、アナスタシア嬢。トレメイン夫人の御息女」
ドリゼラお姉様が足取りを合わせず、先に王子様の元へと歩み寄りました。私も急いでお姉様の隣に並びます。ドレスの裾を摘み上げ、優雅にお辞儀をしました。
王子様が一礼すると、話しかけました。
「どちらがアナスタシア嬢だい?」
「ぇ。わたくし、ですが……?」
王子様。どうして私のことを知っていらっしゃるの?
「あぁ、君か。ヴォンテーヌ夫人が、アナスタシア嬢の歌声が素晴らしいと言っていたのでね」
ヴォンテーヌ夫人が!!
あぁ、とても嬉しいですわ……
「ありがたく存じます。とても……光栄ですわ」
王子様が、シンデレラではない私のことを、アナスタシアを目に留めてくださった……
震えるような喜びが胸に湧き上がっていると、王子様の視線がフッと遠くへ移されました。
その視線の行方を追って後ろを振り向きますと……そこには、シンデレラが立っていたのです。
その頃、トレメイン家にも迎えの馬車が到着しました。1頭の馬が引く、小さな馬車です。いよいよ舞踏会へと向かいます。
「お母様、馬車が来ましたわ」
「分かりました。行きましょう」
お母様とドリゼラお姉様と階下へ下りていくと、そこにはシンデレラが立っていました。お腹が空いてキッチンへ行っていたのか、片手にパンを持っています。
お母様が意地悪く尋ねました
「あら、あなたは行く準備しないの?」
「行かないわ」
シンデレラの答えにお母様とドリゼラお姉様がにっこりしました。
「行かないの? まぁ、残念ね。まっ、また機会はあるでしょ」
「えぇ、もちろんですわ」
シンデレラが余裕の笑みを見せ、お母様とお姉様が呆気に取られています。
まさか、妖精のおばあさんが来ることを話すわけじゃありませんわよね?
「では、ごきげんよう♪」
シンデレラは鼻歌を歌いながら、去って行きました。
「なんなの、あいつー!?」
ドリゼラお姉様は不審な表情を見せましたが、お母様は気にした様子は見せません。
「ただの強がりでしょ。
貴女たち、さ、もう行くわよ。急いだ方がいいわ。でも、おしとやかにね」
『はい、お母様』
シンデレラを家に残し、私たちは狭い馬車に乗り込みました。
街を抜け、お城へ向かって馬車が走り出します。
「アナスタシア、もっと向こう行ってよ! 私の座る場所がないじゃない!」
「ドリゼラお姉様、これ以上は無理ですわ」
2人乗りの馬車に3人で乗り込み、1つの席をドリゼラお姉様と座り、しかもパニエが大きく広がったスカートが重なり合って、ぎゅうぎゅう詰めですわ。
「貴女たち、静かになさい」
向かいの席にお1人で座っているお母様が注意なさいました。
あぁ、シンデレラは4頭の馬が引き、ふかふかのソファが敷かれたゆったりとした豪華な馬車で舞踏会に向かうのですわね。今頃、妖精のおばあさんは現れたかしら? シンデレラを素敵に変身させていらっしゃるのかしら……
長い橋を渡り切ると、純白の尖塔が幾つも建ち並ぶ立派な王宮が迫ってきました。もう既に多くの馬車が並び、次々に人が降りて行き、吸い込まれるようにお城の重厚な扉へと向かっています。
「あぁーっ、もうすぐ王子様に会えるのねー!!」
ドリゼラが興奮の声を上げました。私の胸もドキドキと高鳴っています。
馬車が少しずつ進み、ついにお城の前で停まりました。この馬車にはお付きの者はいないので、御者が手を差し伸べてくださいます。
「ありがとうございます」
手を添え、馬車を降りると、広く長い階段を上って扉へと向かいます。普段なら固く閉ざされた扉は、この日はめいいっぱい開けられており、その先に兵士たちが均等にズラーッと並んで私たちを迎え入れてくれます。
舞踏会の開かれる大ホールへと向かう長い長い階段を抜けると、そこには長蛇の列が並んでいました。王子様にお目通りし、ご挨拶するための列です。果てしなく続く赤い絨毯の先の、階段を2段上がった上座に王子様が立っていらっしゃるのが遠目に見えました。
こんなにたくさんの方達が来ていらしたのですね。
シンデレラの時には遅れて現れ、周りの方達を見る余裕などありませんでしたから、とても新鮮ですわ。
招待状を運んでくださった小柄の小太りの男性が、長々と続く書状を読み上げています。
「ブレデニカ・ジャニーデラフォンテイン嬢。ピーター・ジャニーデラフォンテイン将軍の娘」
呼ばれた女性が王子様の前に進みより、スカートの裾を持ち上げてお辞儀をしています。
王子様は儀礼的に一礼すると……まぁ、横を向いてあくびをなさってるわ。まったく関心がないようですわね。
確かに、これだけの女性ひとりひとりにご挨拶するのは大変でしょうけれど、こんな態度を取られたら悲しくなりますわ。
これも、シンデレラであった頃には知らなかった王子様の一面ですわ……やはり王子様は、美しくない女性には興味がないということでしょうか。
私たちの前にいた女性が名前を呼ばれました。
「さぁ、いよいよですよ」
お母様が私たちに耳打ちします。ドリゼラお姉様がドレスの裾を伸ばし、頭の羽飾りをピンと立てました。私も緊張で喉を鳴らし、ドレスを整えます。
「ドリゼラ嬢、アナスタシア嬢。トレメイン夫人の御息女」
ドリゼラお姉様が足取りを合わせず、先に王子様の元へと歩み寄りました。私も急いでお姉様の隣に並びます。ドレスの裾を摘み上げ、優雅にお辞儀をしました。
王子様が一礼すると、話しかけました。
「どちらがアナスタシア嬢だい?」
「ぇ。わたくし、ですが……?」
王子様。どうして私のことを知っていらっしゃるの?
「あぁ、君か。ヴォンテーヌ夫人が、アナスタシア嬢の歌声が素晴らしいと言っていたのでね」
ヴォンテーヌ夫人が!!
あぁ、とても嬉しいですわ……
「ありがたく存じます。とても……光栄ですわ」
王子様が、シンデレラではない私のことを、アナスタシアを目に留めてくださった……
震えるような喜びが胸に湧き上がっていると、王子様の視線がフッと遠くへ移されました。
その視線の行方を追って後ろを振り向きますと……そこには、シンデレラが立っていたのです。
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