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アナスタシアとしての役割

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 私は、気持ちを切り替えて自分の舞踏会の準備をすることにしました。

 部屋へと戻る途中、ドリゼラお姉様の部屋の扉が開いていました。

「シンデレラ、私の靴を磨いといて。それとこのドレス、ボタンが取れかかってるから直しといて! あと、全てのドレスのアイロン掛けもしておくのよ」

 そこへ、お母様が現れました。

「シンデレラ。それが終わっていつもの仕事をする前に、いくつか仕事が」

 シンデレラが大きく息を吐き出します。

「はーい、お母様」

 ドリゼラお姉様から渡された山のようなドレスを持って、シンデレラが去って行きました。

「お母様ぁ、きっとみんな凄いドレスで来るわぁ!! 私のはこーんなボロなのに! 見てよ、この色! 流行遅れだわっっ!!」

 ドリゼラお姉様がリボンを投げ出しました。

「こんな安物のネックレスも、恥ずかしくてつけられない! こんなものーっっ!!」

 ネックレスも放り投げます。

「何を着てけばいいのかしら、困るわー」

 憤慨しているドリゼラお姉様に溜息を吐き、それからお母様が私に顔を向けました。

「アナスタシア、貴女、舞踏会に着ていくドレスはもう決めたの?」
「はい、お母様。以前、お茶会でヴォンテーヌ夫人にいただいたドレスを着て行こうかと……」

 そう話していると、ドリゼラお姉様がキッと睨みつけました。

「なんでアナスタシアだけドレスもらってるのよ、ずるい!!
 ねぇ、お母様ぁ。新しいドレス買ってよー」
「何を言ってるのです。舞踏会は今夜なのですよ。ドレスならたくさんあるでしょう。それに、ヴォンテーヌ夫人のサロンにご招待された時に新しいドレスをオーダーメイドしたでしょう。それを着て行きなさい」
「ドレスの流行なんてあっという間に変わるのよー。新しいドレスが欲しいわぁ!!」

 ドリゼラお姉様が喚いていますが、お母様が無視して歩き出します。

「アナスタシア、ドレスを着るお手伝いをしましょう」
「はい、お母様」

 ヴォンテーヌ夫人から頂いた赤と深緑に豪華な金糸の刺繍が入ったドレスは既にトルソーに着せてあります。

 お母様がコルセットを着るのを手伝ってくださいました。コルセットは後ろに紐があり、ウエストが細く見えるようにきつく縛らなければならないため、ひとりで着ることはできません。本当ならこれはシンデレラの役割なのですけれど……お母様に手伝っていただくなんて、初めてですわ。

 アナスタシアお姉様になった当初は、コルセットを締め付けてもウエストの括れがあまり出ていませんでしたが、毎日お散歩や運動をするようになって、コルセットの締まりがよくなって、スタイルが良く見えるようになりましたわ。

「アナスタシア」
「はい、お母様」
「はっきり言って、アナスタシア、貴女もドリゼラも、器量がよくありません。私は、半ばあなた方に対して諦めの気持ちを抱いていました」

 ぇ、お母様……そんな風に、思っていましたの?

「ですが、最近のアナスタシアはヴォンテーヌ夫人に気に入られ、貴族や著名な方々とも交流をもつようになっています。貴女は、このトレメイン家の希望です。この舞踏会で、素敵な殿方を見つけるのですよ。そして、傾いたトレメイン家を救って頂戴」
「は、い……お母様」

 私の役割は……王侯貴族の方と結婚し、没落したトレメイン家を再び栄えさせること。

 分かってはいましたけれど、お母様に面と向かって言われましたら、気持ちが落ち込みました。

 それでも、お母様は……実の娘である私、アナスタシアに愛情は持っていらっしゃいますわよね……?
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