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サロンデビューですわ♪

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 本日はヴォンテーヌ夫人からのご招待を受けて、サロンデビューいたしますの。

 あぁ、胸が高鳴りますわ……
 
 オーダーメイドしたドレスは今朝、届けられましたの。ゴテゴテした装飾はあしらわず、袖と裾にレースをちらりと覗かせたシンプルだけれどシルエットの美しいベルベットの深緑のドレスはわたくしの赤髪を際立たせ、完璧な仕上がりですわ。

 きっとシンデレラも、サロンに行きたかったんじゃないかしら……

 そう思うと、私の胸が痛みました。そこで、そっとシンデレラが掃除しているところに顔を出しました。

「あーっ、もうっっ!! 毎日毎日料理に掃除に洗濯に、嫌になっちゃう!!」

 シンデレラは足で雑巾を踏み、引きずるようにして廊下の掃除をしていました。

 あぁ、拭かれたところと拭かれていない部分がはっきり濃淡となって表れています。これを見たらお母様から、またお叱りをうけることでしょう。

「シンデレラ?」

 私の声を聞き、シンデレラの肩がビクッと震えました。

「あ、あんた……まさか、お母様に言いつける気じゃないでしょうね!?」

 振り返り、鬼のような形相を見せます。

「あの、本日ヴォンテーヌ夫人にご招待を受けてサロンにまいりますの。シンデレラ も……その、行きたかったんじゃないかしらと思いまして」

 そんなことを言ってみましても、お母様が許してくださるはずありません。どうしようもないことですのに、なぜ私はこんなことを言ってしまったのでしょう。
 
 これではシンデレラに意地悪してるだけ……そうですわ。私は悪役令嬢なのですから、それでいいのですわ。

 シンデレラが、フンッと鼻を鳴らしました。

「あのヴォンテーヌ夫人て、才女気取りで私、嫌いなの。サロンの集まりなんて退屈で堪らないわ。行けなくてせいせいするわよ。
 あんたたちがいない間に、私は昼寝でもするわぁ」

 どうやら、私が心配することなどなかったようですわね。

 窓から、馬車がこちらへと向かってくるのが見えました。そろそろ、出発のようですわ。

「ではシンデレラ、ごきげんよう」

 
 馬車から降りると、目の前にはロココ建築の豪奢な洋館が構えています。美しく手入れされた庭園を抜けると、純白の橋がかかっています。それを抜けると、先ほど遠くに見えていたクリーム色の壁に淡いエメラルドグリーンの尖塔が並んだお城のようなお屋敷が、今は視界を圧倒するほど近くに聳え立っています。

 繊細な飾りのついた重々しい扉が開き、従者に迎え入れられます。

 円形のアーチの天井にはロカイユ装飾がほどこされ、高名な画家によって描かれた天使やキリストの絵に心を奪われます。柱は金色に輝き、そのひとつひとつに繊細な装飾がされています。

 あぁ、心が踊りますわ。

 サロンが開かれる大広間には既に大勢のゲストが集っていました。男性は皆鮮やかな色彩に華やかな刺繍がほどこされ、ジャボやカフスに高級なレースをふんだんに使用した正装をしており、頭には白髪巻き髪のウィッグを被っています。

 クラブやフリーメンソンの集まりですと女人禁制ですけど、サロンは女主人が取り仕切り、男性も女性も参加できる社交場なのが嬉しいですわ。

 本日のホストであるヴォンテーヌ夫人が、私たちに気づき、美しい笑みを浮かべてこちらに歩いてまいりました。

 さすが、これだけの大勢の方たちを取り仕切るだけあって、華やかなオーラが溢れていますわ。

「トレメイン夫人、ごきげんよう。本日はようこそおいでくださいました」

 お母様がそれにこたえてドレスの裾を摘み、優雅にお辞儀をします。

「ヴォンテーヌ夫人、ごきげんよう。本日はお招きくださり、ありがとうございます」

 それに倣って、私とドリゼラお姉さまもご挨拶しました。

『ヴォンテーヌ夫人、ごきげんよう』

 ヴォンテーヌ夫人は、真っ赤なサテンに金糸や緑の刺繍糸で大きく縁取りされ、ウエストには大きな丸い装飾が2つついたベルトをし、上には重厚な漆黒に金糸や銀糸の刺繍で彩られたガウンを羽織り、頭には花や鳥の刺繍がされた豪華な装飾のターバンのような帽子を被っていました。

 これは、確か……

『ドリゼラ嬢、アナスタシア嬢、ごきげんよう』

 ヴォンテーヌ夫人は微笑みながらも、視界を他へと移そうしているのを察し、素早くお声を掛けました。

「ヴォンテーヌ夫人、『アラ・トルコ』のドレス、とてもエキゾチックで素敵ですわ」

 私の放った一言に、ヴェンテーヌ夫人の瞳が途端に輝きました。

「まぁ! 分かりまして? こちら、今フランスで流行しているスタイルですのよ」
「さすがヴォンテーヌ夫人ですわ。流行の最先端を取り入れていらっしゃるなんて」

 ヴォンテーヌ夫人は高揚し、いかにこのドレスが素晴らしいのかひとしきり語りました。なんて興味深いお話なのでしょう! 私もまた、目を輝かせてヴォンテーヌ夫人の話に聞き入りました。

「アナスタシア嬢は以前サロンにご招待した時には退屈そうにされていましたし、正直つまらない女性だと思っておりましたけど……今の貴女は、見違えるようにエレガントなレディーへと成長していらっしゃるわね」
「まぁ、本物のレディーであるヴォンテーヌ夫人にそのようなお褒めの言葉をいただき、光栄ですわ」

 にっこりと微笑むと、ヴォンテーヌ夫人が私の袖を取りました。

「せっかくですから、私のサロンにお招きした方たちを紹介して差し上げますわ」
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