11 / 41
サロンデビューですわ♪
しおりを挟む
本日はヴォンテーヌ夫人からのご招待を受けて、サロンデビューいたしますの。
あぁ、胸が高鳴りますわ……
オーダーメイドしたドレスは今朝、届けられましたの。ゴテゴテした装飾はあしらわず、袖と裾にレースをちらりと覗かせたシンプルだけれどシルエットの美しいベルベットの深緑のドレスはわたくしの赤髪を際立たせ、完璧な仕上がりですわ。
きっとシンデレラも、サロンに行きたかったんじゃないかしら……
そう思うと、私の胸が痛みました。そこで、そっとシンデレラが掃除しているところに顔を出しました。
「あーっ、もうっっ!! 毎日毎日料理に掃除に洗濯に、嫌になっちゃう!!」
シンデレラは足で雑巾を踏み、引きずるようにして廊下の掃除をしていました。
あぁ、拭かれたところと拭かれていない部分がはっきり濃淡となって表れています。これを見たらお母様から、またお叱りをうけることでしょう。
「シンデレラ?」
私の声を聞き、シンデレラの肩がビクッと震えました。
「あ、あんた……まさか、お母様に言いつける気じゃないでしょうね!?」
振り返り、鬼のような形相を見せます。
「あの、本日ヴォンテーヌ夫人にご招待を受けてサロンにまいりますの。シンデレラ も……その、行きたかったんじゃないかしらと思いまして」
そんなことを言ってみましても、お母様が許してくださるはずありません。どうしようもないことですのに、なぜ私はこんなことを言ってしまったのでしょう。
これではシンデレラに意地悪してるだけ……そうですわ。私は悪役令嬢なのですから、それでいいのですわ。
シンデレラが、フンッと鼻を鳴らしました。
「あのヴォンテーヌ夫人て、才女気取りで私、嫌いなの。サロンの集まりなんて退屈で堪らないわ。行けなくてせいせいするわよ。
あんたたちがいない間に、私は昼寝でもするわぁ」
どうやら、私が心配することなどなかったようですわね。
窓から、馬車がこちらへと向かってくるのが見えました。そろそろ、出発のようですわ。
「ではシンデレラ、ごきげんよう」
馬車から降りると、目の前にはロココ建築の豪奢な洋館が構えています。美しく手入れされた庭園を抜けると、純白の橋がかかっています。それを抜けると、先ほど遠くに見えていたクリーム色の壁に淡いエメラルドグリーンの尖塔が並んだお城のようなお屋敷が、今は視界を圧倒するほど近くに聳え立っています。
繊細な飾りのついた重々しい扉が開き、従者に迎え入れられます。
円形のアーチの天井にはロカイユ装飾がほどこされ、高名な画家によって描かれた天使やキリストの絵に心を奪われます。柱は金色に輝き、そのひとつひとつに繊細な装飾がされています。
あぁ、心が踊りますわ。
サロンが開かれる大広間には既に大勢のゲストが集っていました。男性は皆鮮やかな色彩に華やかな刺繍がほどこされ、ジャボやカフスに高級なレースをふんだんに使用した正装をしており、頭には白髪巻き髪のウィッグを被っています。
クラブやフリーメンソンの集まりですと女人禁制ですけど、サロンは女主人が取り仕切り、男性も女性も参加できる社交場なのが嬉しいですわ。
本日のホストであるヴォンテーヌ夫人が、私たちに気づき、美しい笑みを浮かべてこちらに歩いてまいりました。
さすが、これだけの大勢の方たちを取り仕切るだけあって、華やかなオーラが溢れていますわ。
「トレメイン夫人、ごきげんよう。本日はようこそおいでくださいました」
お母様がそれにこたえてドレスの裾を摘み、優雅にお辞儀をします。
「ヴォンテーヌ夫人、ごきげんよう。本日はお招きくださり、ありがとうございます」
それに倣って、私とドリゼラお姉さまもご挨拶しました。
『ヴォンテーヌ夫人、ごきげんよう』
ヴォンテーヌ夫人は、真っ赤なサテンに金糸や緑の刺繍糸で大きく縁取りされ、ウエストには大きな丸い装飾が2つついたベルトをし、上には重厚な漆黒に金糸や銀糸の刺繍で彩られたガウンを羽織り、頭には花や鳥の刺繍がされた豪華な装飾のターバンのような帽子を被っていました。
これは、確か……
『ドリゼラ嬢、アナスタシア嬢、ごきげんよう』
ヴォンテーヌ夫人は微笑みながらも、視界を他へと移そうしているのを察し、素早くお声を掛けました。
「ヴォンテーヌ夫人、『アラ・トルコ』のドレス、とてもエキゾチックで素敵ですわ」
私の放った一言に、ヴェンテーヌ夫人の瞳が途端に輝きました。
「まぁ! 分かりまして? こちら、今フランスで流行しているスタイルですのよ」
「さすがヴォンテーヌ夫人ですわ。流行の最先端を取り入れていらっしゃるなんて」
ヴォンテーヌ夫人は高揚し、いかにこのドレスが素晴らしいのかひとしきり語りました。なんて興味深いお話なのでしょう! 私もまた、目を輝かせてヴォンテーヌ夫人の話に聞き入りました。
「アナスタシア嬢は以前サロンにご招待した時には退屈そうにされていましたし、正直つまらない女性だと思っておりましたけど……今の貴女は、見違えるようにエレガントなレディーへと成長していらっしゃるわね」
「まぁ、本物のレディーであるヴォンテーヌ夫人にそのようなお褒めの言葉をいただき、光栄ですわ」
にっこりと微笑むと、ヴォンテーヌ夫人が私の袖を取りました。
「せっかくですから、私のサロンにお招きした方たちを紹介して差し上げますわ」
あぁ、胸が高鳴りますわ……
オーダーメイドしたドレスは今朝、届けられましたの。ゴテゴテした装飾はあしらわず、袖と裾にレースをちらりと覗かせたシンプルだけれどシルエットの美しいベルベットの深緑のドレスはわたくしの赤髪を際立たせ、完璧な仕上がりですわ。
きっとシンデレラも、サロンに行きたかったんじゃないかしら……
そう思うと、私の胸が痛みました。そこで、そっとシンデレラが掃除しているところに顔を出しました。
「あーっ、もうっっ!! 毎日毎日料理に掃除に洗濯に、嫌になっちゃう!!」
シンデレラは足で雑巾を踏み、引きずるようにして廊下の掃除をしていました。
あぁ、拭かれたところと拭かれていない部分がはっきり濃淡となって表れています。これを見たらお母様から、またお叱りをうけることでしょう。
「シンデレラ?」
私の声を聞き、シンデレラの肩がビクッと震えました。
「あ、あんた……まさか、お母様に言いつける気じゃないでしょうね!?」
振り返り、鬼のような形相を見せます。
「あの、本日ヴォンテーヌ夫人にご招待を受けてサロンにまいりますの。シンデレラ も……その、行きたかったんじゃないかしらと思いまして」
そんなことを言ってみましても、お母様が許してくださるはずありません。どうしようもないことですのに、なぜ私はこんなことを言ってしまったのでしょう。
これではシンデレラに意地悪してるだけ……そうですわ。私は悪役令嬢なのですから、それでいいのですわ。
シンデレラが、フンッと鼻を鳴らしました。
「あのヴォンテーヌ夫人て、才女気取りで私、嫌いなの。サロンの集まりなんて退屈で堪らないわ。行けなくてせいせいするわよ。
あんたたちがいない間に、私は昼寝でもするわぁ」
どうやら、私が心配することなどなかったようですわね。
窓から、馬車がこちらへと向かってくるのが見えました。そろそろ、出発のようですわ。
「ではシンデレラ、ごきげんよう」
馬車から降りると、目の前にはロココ建築の豪奢な洋館が構えています。美しく手入れされた庭園を抜けると、純白の橋がかかっています。それを抜けると、先ほど遠くに見えていたクリーム色の壁に淡いエメラルドグリーンの尖塔が並んだお城のようなお屋敷が、今は視界を圧倒するほど近くに聳え立っています。
繊細な飾りのついた重々しい扉が開き、従者に迎え入れられます。
円形のアーチの天井にはロカイユ装飾がほどこされ、高名な画家によって描かれた天使やキリストの絵に心を奪われます。柱は金色に輝き、そのひとつひとつに繊細な装飾がされています。
あぁ、心が踊りますわ。
サロンが開かれる大広間には既に大勢のゲストが集っていました。男性は皆鮮やかな色彩に華やかな刺繍がほどこされ、ジャボやカフスに高級なレースをふんだんに使用した正装をしており、頭には白髪巻き髪のウィッグを被っています。
クラブやフリーメンソンの集まりですと女人禁制ですけど、サロンは女主人が取り仕切り、男性も女性も参加できる社交場なのが嬉しいですわ。
本日のホストであるヴォンテーヌ夫人が、私たちに気づき、美しい笑みを浮かべてこちらに歩いてまいりました。
さすが、これだけの大勢の方たちを取り仕切るだけあって、華やかなオーラが溢れていますわ。
「トレメイン夫人、ごきげんよう。本日はようこそおいでくださいました」
お母様がそれにこたえてドレスの裾を摘み、優雅にお辞儀をします。
「ヴォンテーヌ夫人、ごきげんよう。本日はお招きくださり、ありがとうございます」
それに倣って、私とドリゼラお姉さまもご挨拶しました。
『ヴォンテーヌ夫人、ごきげんよう』
ヴォンテーヌ夫人は、真っ赤なサテンに金糸や緑の刺繍糸で大きく縁取りされ、ウエストには大きな丸い装飾が2つついたベルトをし、上には重厚な漆黒に金糸や銀糸の刺繍で彩られたガウンを羽織り、頭には花や鳥の刺繍がされた豪華な装飾のターバンのような帽子を被っていました。
これは、確か……
『ドリゼラ嬢、アナスタシア嬢、ごきげんよう』
ヴォンテーヌ夫人は微笑みながらも、視界を他へと移そうしているのを察し、素早くお声を掛けました。
「ヴォンテーヌ夫人、『アラ・トルコ』のドレス、とてもエキゾチックで素敵ですわ」
私の放った一言に、ヴェンテーヌ夫人の瞳が途端に輝きました。
「まぁ! 分かりまして? こちら、今フランスで流行しているスタイルですのよ」
「さすがヴォンテーヌ夫人ですわ。流行の最先端を取り入れていらっしゃるなんて」
ヴォンテーヌ夫人は高揚し、いかにこのドレスが素晴らしいのかひとしきり語りました。なんて興味深いお話なのでしょう! 私もまた、目を輝かせてヴォンテーヌ夫人の話に聞き入りました。
「アナスタシア嬢は以前サロンにご招待した時には退屈そうにされていましたし、正直つまらない女性だと思っておりましたけど……今の貴女は、見違えるようにエレガントなレディーへと成長していらっしゃるわね」
「まぁ、本物のレディーであるヴォンテーヌ夫人にそのようなお褒めの言葉をいただき、光栄ですわ」
にっこりと微笑むと、ヴォンテーヌ夫人が私の袖を取りました。
「せっかくですから、私のサロンにお招きした方たちを紹介して差し上げますわ」
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~
花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。
しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。
エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。
…が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。
とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。
可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。
※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。
※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」
侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。
「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」
そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい
花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。
仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!
【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。
佐倉穂波
恋愛
夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。
しかし彼女は動じない。
何故なら彼女は──
*どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。
騎士団の世話役
haru.
恋愛
家族と領地のピンチでお兄様に助けを求めに行ったら、酔っぱらいにゃんこに絡まれたーーーー!
気づいたら何だかんだで、騎士団に就職する事になるし、酔っぱらいにゃんこは騎士団長!?
※公爵家の名前をアスベル家に変更しました。
よろしくお願いしますヾ(ΦωΦ)/
本編は完結済みです。
番外編の更新を始めました!
のんびり更新の予定ですが、よろしくお願いします♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる