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俺、至れり尽くせりの話

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ぼんやりと目を開けた。
朝目覚めてこんなに穏やかな気分なのはいつぶりだろう。
全身がぽかぽか暖かくて、とても良い匂いがする。
そうだ、この匂いは、おっさんの………ん?
え、なんで俺は……おっさんを抱きしめているんだ?
一瞬、思考が停止する。
不快感はないけど、おっさんも俺を抱きしめているのが尚不思議。
あ、おっさんはスウェットなんだ。上が黒で下はグレーか…。
どうでもいいことを観察し始める。
もぞもぞ下履きを確認して思い出した。俺、下着履いてないんだった。
ちょっと腰をおっさんから引く。その…良くないだろう。押しつけている状態というのは。………。
よし、起きあがろう。まずはそっと寝返りをうつんだ。
腕をどけて…。ごろん。よしよし、これでこのまま…。
「うおっ…!?」
離したはずの腕が俺の腰に絡み、ぐいっと引き寄せられる。
「お、おっさん…?」
「……ん?…あ、起きたのか!」
おっさんはすっと腕を俺から離した。
「す、すまない。君が落ちそうになっているのかと思って……あ!その、…一応言っておくが、俺からここに横になった訳じゃないぞ…?」
俺は仰向けになって、おっさんの顔を見た。
心配そうな顔をしている。ちょっと笑いそうになった。
髭を剃ってあるから、一度起きたあとここに来たんだろう。
「君が…起きてこなかったから…。あ、学校は大丈夫なのか?君は学生かと思ったんだが…。」
「ああ、学校。…問題ねぇよ。おれ、今休学してっから…。一応、今年で22になる。」
「そうか、良かった。…未成年だったらどうしようかと。」
「そんなに若く見えねぇだろ。」
「いやいや。君はまだ制服が着れる顔してる。童顔って訳じゃないが…なんだろうな。雰囲気かな?」
「はっ、なにそれ…。」
制服が着れる顔ってなんなんだ。そんなこと言われたことがない。
まあ、おっさんは制服の着れない顔だろうけど…。
おっさんの顔をみて、制服を着ている姿を想像してみる。
違和感がすごい。
少し笑ってしまった。
「おい。いま俺に対して失礼なこと考えただろ。なんで笑ってるんだ。」
「んんん、なんでもねぇよ。…っく。」
「やっぱりなんか考えただろう。そんなに笑うなよ…俺だって好きでこの顔に生まれたわけじゃない。」
「ああ?」
「たとえ若返っても、制服とか絶対似合う顔じゃねぇって思ったんだろ?」
「ちげぇよ。っふふふはは。マジで…マヌケな顔だな、おっさん。ははは、あー。朝から疲れた。…なんか食おうぜ。腹減ってきた。」
「マヌケって酷いな…!ははは。まあ、いいか。…よし、何が食べたい?」
「作ってくれんの?」
「いや?買う。」
「なんだよ。」
ははは、と笑いながら、おっさんは起き上がってリビングに戻った。
俺もついていくようにリビングに入ると、改めて、何が食べたいか聞かれた。
パン、出来れば焼きそば、と答えると、似合うなぁと言われた。なんなんだ。
リクエストを聞いたおっさんは財布をポケットに突っ込んで、出ていってしまった。
俺留守番かよ…。まあ、パジャマだし、…ノーパンだし、外に出たかった訳じゃないが。
……静かだな。
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