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7話目!灰冶の章 夢境の栞
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急いで街から離れた僕らは、人気のない森の開けた場所で足を止めた。僕は小脇に抱えていたゴブリンを地面に降ろし、痛くないようにゆっくりと寝かせた。
そんな僕を腕を組んで灰冶さんが見下ろす。
「全くもう。あまり後先考えずに行動しちゃダメよ」
仰る通りだ。僕はまた、考え無しに行動してしまった。このせいでみんなにいつも迷惑掛けているのに……。
「貴方の優しさは長所でもあるけど、時には少し冷静になって考えないといけないわよ」
「すいません……」
「別に責めているわけじゃないのよ。今言ったように長所でもあるんだから。ただ、少し気をつけなさいってこと」
「はい……」
あからさまに落ち込む僕に、灰冶さんは苦笑した。
「ただ、あの時、灰冶さんも言っていたように、僕らがこのゴブリンを見かけた時にうまく対処していれば、ゴブリンもこんな目に遭わなかったのになって思って……。そう思うと居ても立ってもいられず、咄嗟に体が動いていつの間にかゴブリンの前に立っていました……」
「……そうね。これは今回私たちの責任でもあるわね。と、言うか、まだ世界のことをあまり知らない貴方に、私が大丈夫と言ったのがいけなかったわ。こちらこそ本当にごめんなさい」
「そ、そんな!」
苦笑しながら謝る灰冶さんに、僕は慌てて否定した。悪いのは灰冶さんじゃないのに。彼に責任を押し付けようとしたわけではないし、謝ってほしいわけでもなかった。
「灰冶さんのせいじゃないです! 僕ももう少しゴブリンに気をかけていれば……」
「本当に優しいのね。ありがとう」
灰冶さんは僕の頭を優しく撫でると、地面に横たわっているゴブリンに近付き、その場にしゃがみ込んだ。
「今回は私の責任でもあるわ。特別にこの子の怪我も治してあげる」
「ほ、本当ですか!?」
灰冶さんは僕にニッコリと微笑んで、ゴブリンの体に手を当てた。すると、手から温かい光が溢れ出し、ゴブリンの体を包み込んでいく。その光はゴブリンの体に流れ込んで、やがて消えていった。
「う……」
ゴブリンが呻き声を上げる。僕と灰冶さんはゴブリンの様子をじっと見守った。
「オ、オデ……」
ゴブリンはパチリと目を開けて、ゆっくりと上半身を起こすと、体の違和感に気付いたのか、自分の体をまじまじと見ていた。
「オデ、怪我してたハズなのに……」
不思議そうに自身の体を見渡した後、僕らの存在に気付き、ゴブリンは僕らを凝視した。
「オマイらがオデを助けてくれたのか?」
「えぇ、そうよ。体を張って助けたのはこっちの子だけれどね」
僕は灰冶さんに紹介されて、少し照れ臭くなり、目を泳がせて話を変えた。
「だ、大丈夫?」
ゴブリンに体の調子を聞いてみれば、ゴブリンは立ち上がって、色んな風に体を動かしてから、質問に答えてくれた。
「大丈夫! オデ、元気! ありがとうニンゲン!」
「どういたしまして」
「オデ、キース・ギース! みんなオデのことギィって呼ぶ!」
「そうなんだ、よろしくね、ギィ」
ゴブリンは特に敵意も悪意もなく、とても友好的で明るかった。自己紹介してくれたから、僕も自分の名前を名乗った。
「僕は拓斗だよ」
「タクト! タクトよろしく!」
ギィは人懐っこそうに僕の手を小さな手で掴んでブンブンと手を縦に振った。そして、なかなか名乗らない灰冶さんの方をつぶらな瞳で凝視した。
「…………」
「…………」
お互い無言で見つめ合い、変な間が流れた。
「オデ、ギィ! オマイは!?」
「……名乗らなきゃダメみたいね」
灰冶さんは観念したようにため息を吐き、名を名乗った。
「私は灰冶。好きに呼びなさい」
「ハイジ? ハイジはオトコ? オンナ?」
「さぁ? どっちでも良いでしょう?」
「???」
ギィには灰冶さんの存在が奇妙に見えているらしく、不思議そうに何度も首を傾げて灰冶さんを見詰めていた。ギィは四方八方から灰冶さんのことを観察して、あるひとつの物に目が付いた。
「ねぇ、ハイジ、その帽子かっこいい。良いなー」
どうやら、灰冶さんの被っている中折帽子が気に入ったようだ。
「ギィも欲しい!」
届きもしない灰冶さんの帽子を取ろうとして、ギィは手を伸ばしてぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「だーめ。貴方にはまだ早いわ」
「早い? なんで?」
「貴方はまだお子様だからよ」
灰冶さんは口元に人差し指を当てて、桜のようにウィンクをした。ウィンク=桜の法則になってるの、どうにかしないといけないかもしれない。
灰冶さんは深く帽子を被ると、ギィに改めて向き合い、僕も気になっていることを彼に聞いてくれた。
「ところでギィ。貴方はどうして人の街に入ってきたの? 一人で入れば、あんな目に遭うのは分かりきってたことでしょう?」
灰冶さんの質問に、ギィは少し耳を下げてしょぼくれてしまった。
「ギィ、友達に会いに行ってた」
「友達?」
「友達?」
ギィの言葉に、僕と灰冶さんの疑問の声が重なった。
「うん。オデ、ニンゲンの友達がいる。ニンゲンの街とギィの住んでる場所の間に綺麗な花畑がある。ソコにそのコはいた――」
そんな僕を腕を組んで灰冶さんが見下ろす。
「全くもう。あまり後先考えずに行動しちゃダメよ」
仰る通りだ。僕はまた、考え無しに行動してしまった。このせいでみんなにいつも迷惑掛けているのに……。
「貴方の優しさは長所でもあるけど、時には少し冷静になって考えないといけないわよ」
「すいません……」
「別に責めているわけじゃないのよ。今言ったように長所でもあるんだから。ただ、少し気をつけなさいってこと」
「はい……」
あからさまに落ち込む僕に、灰冶さんは苦笑した。
「ただ、あの時、灰冶さんも言っていたように、僕らがこのゴブリンを見かけた時にうまく対処していれば、ゴブリンもこんな目に遭わなかったのになって思って……。そう思うと居ても立ってもいられず、咄嗟に体が動いていつの間にかゴブリンの前に立っていました……」
「……そうね。これは今回私たちの責任でもあるわね。と、言うか、まだ世界のことをあまり知らない貴方に、私が大丈夫と言ったのがいけなかったわ。こちらこそ本当にごめんなさい」
「そ、そんな!」
苦笑しながら謝る灰冶さんに、僕は慌てて否定した。悪いのは灰冶さんじゃないのに。彼に責任を押し付けようとしたわけではないし、謝ってほしいわけでもなかった。
「灰冶さんのせいじゃないです! 僕ももう少しゴブリンに気をかけていれば……」
「本当に優しいのね。ありがとう」
灰冶さんは僕の頭を優しく撫でると、地面に横たわっているゴブリンに近付き、その場にしゃがみ込んだ。
「今回は私の責任でもあるわ。特別にこの子の怪我も治してあげる」
「ほ、本当ですか!?」
灰冶さんは僕にニッコリと微笑んで、ゴブリンの体に手を当てた。すると、手から温かい光が溢れ出し、ゴブリンの体を包み込んでいく。その光はゴブリンの体に流れ込んで、やがて消えていった。
「う……」
ゴブリンが呻き声を上げる。僕と灰冶さんはゴブリンの様子をじっと見守った。
「オ、オデ……」
ゴブリンはパチリと目を開けて、ゆっくりと上半身を起こすと、体の違和感に気付いたのか、自分の体をまじまじと見ていた。
「オデ、怪我してたハズなのに……」
不思議そうに自身の体を見渡した後、僕らの存在に気付き、ゴブリンは僕らを凝視した。
「オマイらがオデを助けてくれたのか?」
「えぇ、そうよ。体を張って助けたのはこっちの子だけれどね」
僕は灰冶さんに紹介されて、少し照れ臭くなり、目を泳がせて話を変えた。
「だ、大丈夫?」
ゴブリンに体の調子を聞いてみれば、ゴブリンは立ち上がって、色んな風に体を動かしてから、質問に答えてくれた。
「大丈夫! オデ、元気! ありがとうニンゲン!」
「どういたしまして」
「オデ、キース・ギース! みんなオデのことギィって呼ぶ!」
「そうなんだ、よろしくね、ギィ」
ゴブリンは特に敵意も悪意もなく、とても友好的で明るかった。自己紹介してくれたから、僕も自分の名前を名乗った。
「僕は拓斗だよ」
「タクト! タクトよろしく!」
ギィは人懐っこそうに僕の手を小さな手で掴んでブンブンと手を縦に振った。そして、なかなか名乗らない灰冶さんの方をつぶらな瞳で凝視した。
「…………」
「…………」
お互い無言で見つめ合い、変な間が流れた。
「オデ、ギィ! オマイは!?」
「……名乗らなきゃダメみたいね」
灰冶さんは観念したようにため息を吐き、名を名乗った。
「私は灰冶。好きに呼びなさい」
「ハイジ? ハイジはオトコ? オンナ?」
「さぁ? どっちでも良いでしょう?」
「???」
ギィには灰冶さんの存在が奇妙に見えているらしく、不思議そうに何度も首を傾げて灰冶さんを見詰めていた。ギィは四方八方から灰冶さんのことを観察して、あるひとつの物に目が付いた。
「ねぇ、ハイジ、その帽子かっこいい。良いなー」
どうやら、灰冶さんの被っている中折帽子が気に入ったようだ。
「ギィも欲しい!」
届きもしない灰冶さんの帽子を取ろうとして、ギィは手を伸ばしてぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「だーめ。貴方にはまだ早いわ」
「早い? なんで?」
「貴方はまだお子様だからよ」
灰冶さんは口元に人差し指を当てて、桜のようにウィンクをした。ウィンク=桜の法則になってるの、どうにかしないといけないかもしれない。
灰冶さんは深く帽子を被ると、ギィに改めて向き合い、僕も気になっていることを彼に聞いてくれた。
「ところでギィ。貴方はどうして人の街に入ってきたの? 一人で入れば、あんな目に遭うのは分かりきってたことでしょう?」
灰冶さんの質問に、ギィは少し耳を下げてしょぼくれてしまった。
「ギィ、友達に会いに行ってた」
「友達?」
「友達?」
ギィの言葉に、僕と灰冶さんの疑問の声が重なった。
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