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第十八話 記者会見その二

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 画面越しにも伝わる熱気の中、記者会見は続いていた。
 
 この盛り上がりは、ちょっと他の記者会見では見られない。
 御剣グループの次期総帥による会見ってことや、今回の成果のインパクトもちろんあるんだろうけど……やっぱり、未だ続くダンジョン探索への世間の期待ってのは大きいんだよな。
 視聴率や記事の閲覧数なんかも伸びるんだろうし、記者たちがやたらと前のめりになるのも分かる。

『それで……そのチームのメンバーは、どんな人たちなのですか!?』

『ふふふ。まぁ、そう急くな』

 もう、質疑応答の時間もへったくれもない。興奮した記者たちが、次々に会長へ質問を投げている。
 関心が一番集中していたのが、会長が組織したチームメンバーの顔ぶれだ。

『良かろう。教えてやる。まず、本プロジェクトの副リーダーからいこうか。……ふふ。お前たちもよく知っている人物だ』

『よく知っている人物……?』

 

『覚えているだろう。――【氷剣姫】を』

 会長の言葉と同時、会場のスクリーンに、ナナミさんの写真がデカデカと映し出された。


 一瞬、会場の時間が止まった。

 そして……
 
 
『お、お、お』

『おおおおおお』

『『『うおおおおおおおおおお!!!!』』』

 
 ――この時の盛り上がりはまるで、スーパースターのサプライズ復帰会見かのようだった。思わずテレビの音量を下げたほどだ。

 実際、当時の氷剣姫の人気は本当に凄まじかった。探検者関連の雑誌はどれもこれも彼女が表紙を飾り、テレビでは何度特集を組まれていたか知れない。
 
 きっと記者の中には復帰を待ち望んでいた人たちが大勢いるのだろう。……服の袖で目元を拭っている人すらいる。

 そんな中ナナミさんは、会場の様子を大変に冷ややかな様子で見つめていた。当時もアイドル扱いされるのを嫌がっていたという話は聞いたことがあるけど。
 うう、空気が冷たい。俺もファンでした!とはとても言えない。
 

『明日の一面は決まったな……』

 感極まった様子で呟く記者の声が聞こえた。
 いや、まだリーダーの発表をしてないんですけど。

 でも、実際この盛り上がりの後に発表されるのは苦しいな。「誰だコイツ?」って言われるのが目に見えてるし。

 顔を真っ赤にした記者の一人が、スゴい勢いで手を上げた。

『では、リーダーは、誰なのでしょうか?!』

 ……来た。

『ふふふ。よかろう。よく聞くがよい!その名も……』

『『『その名も!?』』』

 

 
『ミスターK!!』


 

「……え?」
『……え?』

 思わず記者たちと声がそろってしまう。

 ナナミさんの写真と入れ替わりに、スクリーンに映し出されたのは……某探偵漫画の犯人のような真っ黒なシルエットと、『ミスターK』という文字列。

 ……誰だコイツ?

 一切手がかりとなりそうな情報が無い発表だった。
 会場も、水を打ったように静まり返っている。

『えと……?』

『当面はこの二人を中心に、ダンジョン探索を進めていく!!皆のもの、成果を楽しみに待っているがいい!!以上!!』

『え……終わり!?』

 会長と鈴村広報部長は、同時に立ち上がり、颯爽とその場を立ち去った。
 一様にポカンと口を開けた記者たちを残して。


 ――こうして、特大の疑問符を記者と視聴者に残したまま、会見は終了した。


 ナナミさんがピッとテレビの電源を切った後も、俺はしばらく黒くなった画面を見つめていた。

「あの……ナナミさん、あれはどういう……?」

 ナナミさんはくるっと俺の方を振り返ると、はて?というような不思議そうな顔をした。

「あれ?伝えていませんでしたか?ソータさんは、探検者として活動する際にはミスターKと名乗っていただきます」

「えええっ!??」

「探検者ライセンスも、ちゃんとその名前で登録しておきましたよ」

「ライセンスの登録名がミスターK!?めっちゃ恥ずかしい!!全然聞いてないですよ!?」

 合格通知は受験番号だけしか書いてなかったから気付かなかった……!!

「ランセンス証にはちゃんとミスターKと記載されてるはずですから、届いたら確認してください」

「すごいダサい!!……なんでまた、そんなこと……?」

「簡単なことです。ソータさんの身の安全を確保するためですよ」

 へ?身の安全?
 またなんかヤバそうなこと言ってるぞナナミさん……。

「それはアレですか。パパラッチ的な付きまといを回避するためですか?」

「それもありますが……どちらかというと、正体を隠して、他国による拉致を回避するためですね」

 ……は?なんだって?拉致??

「ソータさんの【真眼】は、大変貴重なものです。私も実感しましたが、あの力は本当にダンジョンの謎を解き明かす可能性を秘めている。……それが知られてしまえば、世の権力者たちが放っておくわけがありません」

「ちょ、ちょっと待ってください!話が急にでかくなり過ぎです!なんですか、拉致だのなんだのって!スパイ映画の観過ぎですよ!」

「私は動物映画しか観ません」

「あ、もふもふ系ですか?いいですよね……じゃなくて!」

「ダンジョンの中には、人知の及ばぬ宝が眠っています。でもそれは、早い者勝ちなのです。自らの野望を叶えるために、彼らはありとあらゆる手を使うでしょう。ソータさんも、日本から離れたくなければ正体は隠しておくに越したことはありませんよ」

 ちょっと待ってくれ……。そんなの、マジで怖すぎるんだけど。

「……少し脅かしすぎましたね。大丈夫ですよ。会長の力があれば、多少の相手なら捻り潰せますから。小さければ国ごと」
 
 なんと頼もし……いや、それはそれで怖いわ。

「と、いうわけで、今後ともよろしくお願いしますね、ミスターK」

「はぁ……」

 返事とため息をまぜこぜにして、俺は再び力なく机に突っ伏すのだった。



 

 



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