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第八話 最強の銃
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「これが……私の最強の武器?意味が分かりません」
櫻井さんは戸惑う、というよりは、抗議するような口調だった。
「私は、銃は未経験です。それに……私はもう、探検者ではありません」
「櫻井さんは、才能が無いんじゃない。あの剣が、櫻井さんに合わないんです」
俺のその言葉に、櫻井さんはキッと表情を強張らせた。
「あの剣は、私が父から貰ったものです!私はずっとあの剣で戦ってきた!それを……!」
いつもの冷たい無表情から一転、感情を露わにして櫻井さんは怒り出した。
……いや、ちょっと話を聞いてくれ。切り出し方が唐突だったか?ううむ、相変わらず自分の口下手が嫌になる。
その時、横でキョトンとしていたジュンコさんが、突如大声を上げた。
「ええぇ!?櫻井って……もしかして貴女、【氷剣姫】の櫻井ナナミ!?やだ、ホンモノ!?凄いわ、有名人じゃない!!」
「え?いや……」
「そっか、【氷剣姫】だものねぇ。剣で闘うイメージよねぇ。それがいきなり銃とか言われたらびっくりしちゃうわよねぇ~……でも」
ジュンコさんは、豪快な態度とテンションを切り替えて、突如優しく微笑んだ。
「ソータちゃんがそう言うんだったら、間違いないわね。貴女の最強の武器は、この銃よ」
「……は??」
櫻井さんが意表をつかれたように動きを止める。
「この界隈では知る人ぞ知るって感じだけど……ソータちゃんの目利きは、『絶対』なのよ。ねぇ?」
そう言って、ジュンコさんは俺に重量級のウインクをくれた。
ジュンコさん、ナイスフォローだ。これで少しは聞く耳を持ってくれるといいんだけど。
俺はコホンと咳払いをして、話を続けた。
「櫻井さんはさっき、身体がうまく動かなくなった、と言っていましたけど……本当は、あの剣を、うまく扱えなくなってきてたんじゃないですか?前より重く感じたり、切れ味が悪化したり」
櫻井さんは、俺を軽く睨んだまま、無言だった。俺は、それを肯定と捉えて次へ進む。
「俺からすれば、一目瞭然でした。櫻井さんと、あの剣は……持っている『色』が、全く違いましたから」
俺の眼を通して見える『色』が近いほど相性が良く、遠いほど悪い。これは、俺の経験則であり……先程のジュンコさんの言葉を借りれば、『絶対』の法則だ。
「そんな……そんなはずは有りません。私はずっとあの剣を使っていました。使いこなせていた!相性が悪いなんて、そんなこと……」
「前の仕事では、いろいろな探検者の人と、アフターサービスという形で付き合いがありました。その経験から言うと……『色』は、変動するんです。大きな怪我や、病気にかかった人は、回復後、色が大きく変わっていることがよくありました」
「私は、別に怪我などしていません!」
「俺が『色』に気づいてからそんなに長い時間は経っていないので、推測にはなりますが……多分、『身体の成長』でも、同じことが起こるんだと思います」
「……成長?」
「櫻井さんは中学生のころ、あの剣で活躍されていました。きっと、当時は剣に近い色だったんです。でも、高校生になって――身体が成長するにしたがって、色が変化してしまった。剣との相性が、変わってしまったんです」
櫻井さんは黙って、俺の話を聞いている。
「事実、僕の目に映る櫻井さんの『色』は、深い青。あの剣は、純粋な赤でした。色はちょうど虹の色のような順番になっていて……青と赤の距離は、とても遠い。相性は、最悪に近いです」
「……っ!そんなこと……信じられません」
「俺のことは信じなくてもいいです。でも、あの会長が、あれほど推す、俺のギフトのことは信じてくれませんか?」
俺の言葉を聞いて、俺を睨みつつも櫻井さんは少し逡巡を始めたようだった。
それから彼女は視線をゆっくりとショーケース内の【蛇】に向けた。……少し、手応えがあったかな。
「まぁ、ものは試しよぉ。ほら、弾薬サービスしちゃうから、ちょっと試し撃ちしてみなさいって!」
ジュンコさんが、ガチャガチャとショーケースを開け、【蛇】を取り出して櫻井さんの手に握らせた。
櫻井さんは一瞬ビクッと身体を震わせていたが、すぐに手元の銃をまじまじと見つめ始める。
「ほらほら、ここの更に奥で試し撃ちできるから、入った入った~」
ジュンコさんに背中をぼんぼん押されてつまずきそうになりながら、櫻井さんは奥へと連れて行かれてしまった。ジュンコさんはいつも無自覚に強引だけど、今日はとてもありがたい。
部屋の奥には、屋内だが弓道場のような作りの試射場がある。俺が中に入ると、櫻井さんはすでにスーツの上着を脱がされて構えを取らされていた。
「あ、あの……」
背後に仁王立ちで陣取るジュンコさんを、櫻井さんは戸惑った様子でチラチラ見ている。
「弾薬はもう詰めといたわよ。最高級の銃石を使った逸品だから安心してねぇ~」
真装具の銃は、通常の銃と違い、火薬は使わない。代わりに、弾の後部に銃石という、ダンジョン素材を用いる。この石は、装填された真装具銃のエネルギーを爆発力に効率良く変換するという不思議なアイテムだ。これを弾の推進力として放つ仕組みなので、銃のエネルギーが大きいほど破壊力のある弾が撃てるわけだ。
そして銃のエネルギーというのは……素材と、加工技術と……そして使用者との相性で決まる。
「相性なんて、そんなもの……」
櫻井さんがぼそっと呟いたのが聞こえた。
確かに、相性というとせいぜい「使いやすい」「手に馴染む」とか、そんな程度のことを皆が想像する。
だけど、こと真装具においては……理由は分からないけど、相性というものが強烈に作用するんだ。
「的は【鉄亀獣】の甲羅で作ってあるわぁ~。知っての通り、ゴーレム以上に防御に特化した二十階級の真獣ね。メッチャ硬いから、気の済むまで試し撃ちしていいわよ~」
……あ。
ジュンコさんも、俺の眼を絶対だと言ってくれた割には認識が甘いんじゃないかな。
――本当に相性バツグンの人間が使った時、真装具が果たしてどんな威力を見せるのか。
直後。
櫻井さんの握る銃が、レーザーのような閃光を放った。
目が眩むような光景の中で、耳をつんざく爆音が聞こえたのは、着弾地点のほうからだった。
咄嗟にかざしていた手を降ろしながら確認すると、【鉄亀獣】を素材とした丸い的は、真ん中にぽっかりと拳大の穴を穿たれていた。
間も無く全体にひび割れを生じ、粉々に崩れ落ちていく。
弾は的の後ろの金属壁にまで到達しており、壁の形状を大きく変形させながら、辛うじて止まっていた。
「「……は?」」
目を丸くした櫻井さんとジュンコさんの声が、重なった。
櫻井さんは戸惑う、というよりは、抗議するような口調だった。
「私は、銃は未経験です。それに……私はもう、探検者ではありません」
「櫻井さんは、才能が無いんじゃない。あの剣が、櫻井さんに合わないんです」
俺のその言葉に、櫻井さんはキッと表情を強張らせた。
「あの剣は、私が父から貰ったものです!私はずっとあの剣で戦ってきた!それを……!」
いつもの冷たい無表情から一転、感情を露わにして櫻井さんは怒り出した。
……いや、ちょっと話を聞いてくれ。切り出し方が唐突だったか?ううむ、相変わらず自分の口下手が嫌になる。
その時、横でキョトンとしていたジュンコさんが、突如大声を上げた。
「ええぇ!?櫻井って……もしかして貴女、【氷剣姫】の櫻井ナナミ!?やだ、ホンモノ!?凄いわ、有名人じゃない!!」
「え?いや……」
「そっか、【氷剣姫】だものねぇ。剣で闘うイメージよねぇ。それがいきなり銃とか言われたらびっくりしちゃうわよねぇ~……でも」
ジュンコさんは、豪快な態度とテンションを切り替えて、突如優しく微笑んだ。
「ソータちゃんがそう言うんだったら、間違いないわね。貴女の最強の武器は、この銃よ」
「……は??」
櫻井さんが意表をつかれたように動きを止める。
「この界隈では知る人ぞ知るって感じだけど……ソータちゃんの目利きは、『絶対』なのよ。ねぇ?」
そう言って、ジュンコさんは俺に重量級のウインクをくれた。
ジュンコさん、ナイスフォローだ。これで少しは聞く耳を持ってくれるといいんだけど。
俺はコホンと咳払いをして、話を続けた。
「櫻井さんはさっき、身体がうまく動かなくなった、と言っていましたけど……本当は、あの剣を、うまく扱えなくなってきてたんじゃないですか?前より重く感じたり、切れ味が悪化したり」
櫻井さんは、俺を軽く睨んだまま、無言だった。俺は、それを肯定と捉えて次へ進む。
「俺からすれば、一目瞭然でした。櫻井さんと、あの剣は……持っている『色』が、全く違いましたから」
俺の眼を通して見える『色』が近いほど相性が良く、遠いほど悪い。これは、俺の経験則であり……先程のジュンコさんの言葉を借りれば、『絶対』の法則だ。
「そんな……そんなはずは有りません。私はずっとあの剣を使っていました。使いこなせていた!相性が悪いなんて、そんなこと……」
「前の仕事では、いろいろな探検者の人と、アフターサービスという形で付き合いがありました。その経験から言うと……『色』は、変動するんです。大きな怪我や、病気にかかった人は、回復後、色が大きく変わっていることがよくありました」
「私は、別に怪我などしていません!」
「俺が『色』に気づいてからそんなに長い時間は経っていないので、推測にはなりますが……多分、『身体の成長』でも、同じことが起こるんだと思います」
「……成長?」
「櫻井さんは中学生のころ、あの剣で活躍されていました。きっと、当時は剣に近い色だったんです。でも、高校生になって――身体が成長するにしたがって、色が変化してしまった。剣との相性が、変わってしまったんです」
櫻井さんは黙って、俺の話を聞いている。
「事実、僕の目に映る櫻井さんの『色』は、深い青。あの剣は、純粋な赤でした。色はちょうど虹の色のような順番になっていて……青と赤の距離は、とても遠い。相性は、最悪に近いです」
「……っ!そんなこと……信じられません」
「俺のことは信じなくてもいいです。でも、あの会長が、あれほど推す、俺のギフトのことは信じてくれませんか?」
俺の言葉を聞いて、俺を睨みつつも櫻井さんは少し逡巡を始めたようだった。
それから彼女は視線をゆっくりとショーケース内の【蛇】に向けた。……少し、手応えがあったかな。
「まぁ、ものは試しよぉ。ほら、弾薬サービスしちゃうから、ちょっと試し撃ちしてみなさいって!」
ジュンコさんが、ガチャガチャとショーケースを開け、【蛇】を取り出して櫻井さんの手に握らせた。
櫻井さんは一瞬ビクッと身体を震わせていたが、すぐに手元の銃をまじまじと見つめ始める。
「ほらほら、ここの更に奥で試し撃ちできるから、入った入った~」
ジュンコさんに背中をぼんぼん押されてつまずきそうになりながら、櫻井さんは奥へと連れて行かれてしまった。ジュンコさんはいつも無自覚に強引だけど、今日はとてもありがたい。
部屋の奥には、屋内だが弓道場のような作りの試射場がある。俺が中に入ると、櫻井さんはすでにスーツの上着を脱がされて構えを取らされていた。
「あ、あの……」
背後に仁王立ちで陣取るジュンコさんを、櫻井さんは戸惑った様子でチラチラ見ている。
「弾薬はもう詰めといたわよ。最高級の銃石を使った逸品だから安心してねぇ~」
真装具の銃は、通常の銃と違い、火薬は使わない。代わりに、弾の後部に銃石という、ダンジョン素材を用いる。この石は、装填された真装具銃のエネルギーを爆発力に効率良く変換するという不思議なアイテムだ。これを弾の推進力として放つ仕組みなので、銃のエネルギーが大きいほど破壊力のある弾が撃てるわけだ。
そして銃のエネルギーというのは……素材と、加工技術と……そして使用者との相性で決まる。
「相性なんて、そんなもの……」
櫻井さんがぼそっと呟いたのが聞こえた。
確かに、相性というとせいぜい「使いやすい」「手に馴染む」とか、そんな程度のことを皆が想像する。
だけど、こと真装具においては……理由は分からないけど、相性というものが強烈に作用するんだ。
「的は【鉄亀獣】の甲羅で作ってあるわぁ~。知っての通り、ゴーレム以上に防御に特化した二十階級の真獣ね。メッチャ硬いから、気の済むまで試し撃ちしていいわよ~」
……あ。
ジュンコさんも、俺の眼を絶対だと言ってくれた割には認識が甘いんじゃないかな。
――本当に相性バツグンの人間が使った時、真装具が果たしてどんな威力を見せるのか。
直後。
櫻井さんの握る銃が、レーザーのような閃光を放った。
目が眩むような光景の中で、耳をつんざく爆音が聞こえたのは、着弾地点のほうからだった。
咄嗟にかざしていた手を降ろしながら確認すると、【鉄亀獣】を素材とした丸い的は、真ん中にぽっかりと拳大の穴を穿たれていた。
間も無く全体にひび割れを生じ、粉々に崩れ落ちていく。
弾は的の後ろの金属壁にまで到達しており、壁の形状を大きく変形させながら、辛うじて止まっていた。
「「……は?」」
目を丸くした櫻井さんとジュンコさんの声が、重なった。
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