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5・白雪姫と毒リンゴ

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 手を下げることができない……これが魔法とかいうやつなのだろうか。
 現れた人影は、どこかで見た暗い茶色の羽織りのフードを深々とかぶっていた。
「……ごめんなさい。ここはあなたの森だったんですね。すぐに出て行きます。」
 人影から返事はない。変わりに返ってきたのはナイフだった。
「っ!!」
 顔に飛んできたナイフを反射的に避けた。今思えばよく避けられたなと思うぐらい速かった。あの人は……
突如吹いてきた風が沈黙を破った。人影のフードが風に煽られて脱げた。目に映った顔に見間違いは無かった。あの時ぶつかった人だった。やっぱりどこからどう見ても白雪姫だった。
「……教えてください。あなたは…白雪姫ですか………?」
 ……やはり返事は無かった。いつまでこの繰り返しか。そう考えていると、森の奥から誰かが走ってくる音がした。
「メア!離れて……!」
 シャナとライが慌てたようにここまで来てくれた。
「いや、腕が下がらなくて!逃げるに逃げられないの!」
「っ……」
 黙り込んでしまったシャナ。キッと前の白雪姫に向かってヒュンッと針を投げた。あれはきっと当たると痛いよ…まっすぐ飛んで行った針は白雪姫の腕に刺さった。うぅ…痛そう。血は出ていない。けど、刺さって暫くしたら白雪姫はその場に座り込み、倒れた。と、そこに駆け込んだシャナ。
「…大丈夫なの……?」
「ええ。少し動けなくなる薬が入ってただけよ。すぐ良くなるから。…さ、私の家に戻りましょう。」

 ライは白雪姫をお姫様抱っこをして、シャナはさっき走って来たときの速さが嘘みたいにゆっくりと歩いていて、私の後ろを歩いていた。
「シャナ?具合悪いの…?」
「………」
 無視をしたわけじゃない……多分。何か言いたげにこちらをちらりと見て、また目を背けてしまった。
「先行ってる」
 そう言って、まだ速いとは言えない速さで足を少し引きずりながら歩いて行った。
「……足……痛めたのかな?」
 私たちは見兼ねてゆっくりと歩いた。もう声は木々に遮られるであろう場所まで来て、ライに尋ねた。すると、突然ライはその場で止まってしまった。少し話すのをためらったようだったけど、決意したように話し始めた。
 まるでおとぎ話のような悲劇を。
「……シャナはね、先代…あ、シャナのね。先代に魔法をかけられたままなんだ…。」
 いつものおちゃらけている様子からは想像もできないほどに、辛そうな顔をしてライはその場で俯いた。
 そこで私はひとつのことにやっと気がついた。
「あ………実験体って……」
「そう……先代の実験体は自分の子孫なんだ。祖母から母に。母は子に。でも、シャナのお母さんはその苦しみを知っていたからシャナに魔法をかけなかったんだ。理解のある人で本当良かったよ。」
「?……でも、その魔法はかかっているんだよね?お母さんがかけていないなら誰が……?」
「………歴代の魔法使い」
 どんな人間でもどうしても忘れられない苦い過去があるはず。それを他人に打ち解けるとなると、これほどにない苦痛がうまれる。だが彼の表情は…他人のことのはずなのに、自分がされたことのように苦痛に顔を歪めていた。
「大分研究が進んでいたらしいんだ。魔女狩り対策にずっと石化の薬をつくっていたんだ。………シャナはその実験体にされた!自分で治すこともできない!………結局、魔女狩りの人間には危険と感じて使われなかった……!」
  ライの瞳から大粒の涙がこぼれた。涙が白雪姫のドレスのスカートを濡らす。
「僕は一度シャナに助けられたことがあるんだ。だから、シャナを苦しめた奴ら……先代を許せない……。それに、僕もルキも実験体にされたことがある。」
「ルキ……白雪姫さんのこと?」
「そう。……シャナとルキは幼馴染みたいで。シャナのにかかった魔法を軽減できるのが、ルキしかいなくて…。だから、今日も魔法を軽くしてもらいに行ったら、メアちゃんがいたんだ。」
 そして冒頭に戻るということか……

 帰り道の途中、木の実をたくさん拾い、エレンとアレンに渡した。
 …「実験体」の言葉が、なぜか私の心に刺さったままだった。でも……何も思い出せない。

 

 空には紅い月。お城を目指して歩いた。
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