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第3章 少年期 学園編
203話 新たなる歴史2・・・ リトス教 神官 視点
しおりを挟む(まぁ、枢機卿や大司教様達がパーティーに参加している間にも私達は引き続き“儀式”の準備だけどね・・・)
最近の忙しさのせいか少し僻みっぽくなったが、王城に向かう大司教様達の馬車を笑顔で見送り、私は“儀式の場“となる礼拝堂に戻り、作業を続けることに…、だが少しして、他の留守番組の神官達と礼拝堂で作業をしていると、礼拝堂の最奥に飾られている主神様の神像が強い光を放った。一瞬のことだったのだが、その光を浴びた私達はあまりにも強い神気に、心臓を握り締められたかのような錯覚に陥り、息苦しさからその場で床に手をついて膝まづくほどだった。
(!!、っ、な、なんだ今の光は・・・な、何が起きたんだ!?)
周囲でも同じ状況に陥った神官達が胸を押さえ息を荒くし、座り込んでいる様子が見える、だが私は何が起きたのかと原因を探ろっと必死だった。結局その時は何が原因だったのか分からずじまいだったが、その原因も大司教様がパーティーから帰ってきてすぐに判明した・・・
「なっ!?枢機卿がデューキス子息と聖獣様を侮辱したと!?しかも、デューキス子息の加護が本当は“主神様の愛し子“だったと!?」
(“主神様の加護“と“主神様の愛し子“では、立場も恩恵も全く違ってくるじゃないか!その“主神様の愛し子“であるデューキス子息を枢機卿が侮辱したというなら、あの時の光は主神様から我々リトス教の神職達への警告だったのか!)
自分の中で今まで感じていたデューキス子息の加護の違和感の正体が今やっと分かった。
(確かに“愛し子“の加護だったのなら、これまでの主神様の神罰の件や聖獣様などの恩恵に納得がいく。だが、“洗礼と祝福の儀“の時のあの表示はどいう事だろうか?あの表示は私達のような人が細工などできはしない、と言う事は神々が自ら意図的に加護の隠蔽をしたと言う事。神々がデューキス子息、いや、あの“お方“の身を案じて隠蔽を施したと・・・・多分、この国の上層部だけではなく他国からも、あの“お方“を自国代表として祭り上げようとする者達が出てくるのは分かっていたのだろう、私達に読めない文字の神々の加護の件もそんな無粋な者達の目を欺くための処置だったか・・・その神々の加護も、もしかしたら“愛し子“なのかもしれないな・・・)
神々の意図をやっと理解できて納得がいった私達は、まだ更なる驚きが待っていた。
驚きの事実の後にさらに大司教様が今日の出来事を細かく話してくださった。枢機卿の画策に対した神罰の後、元聖女の神官の件で迷惑をしていたあの“お方“を、“慈悲と豊穣の女神アナトフローラ様“が不憫に思われ“加護“を授けたと、諸々の確認のために“神器の鑑定魔道具“を使用してみたら、何故か“精霊王の愛し子“の加護まで付いていたそうだ、それと“加護“だけではなく“称号“にも“神々の愛し子“とあったと。その話しであの“お方“の加護の数が5つにもなり、称号に“神々の愛し子“とあったと聞いて、私は、どの国の王侯貴族も、どの種族もこの世界の全てが、あの“お方“を蔑ろにはできなくなったと理解し、心底驚き、畏敬の念を抱いた。
(やはり、あの読めない文字の加護は“愛し子“の加護だったのか、その上、神々や聖獣様の意思を伝える事ができる“神託スキル“まで所有している言うことが判明し、聖獣様方がご自身と同等の存在だと認めたのだ、そうなると、どの国もあの“お方“を侮辱する事はできない、してはいけない、それほどまでにあの“お方“は神々に愛されているのだから・・・そう思うと今回あの“お方“を侮辱した枢機卿への神罰はまだ慈悲があった方だろう。枢機卿の最終的な処罰を教皇様に任せたのがいい証拠だ)
あの“お方“は神々から何かの使命を与えられた“使徒“ではなく、神々から、ただ一心に寵愛されている存在である。神々は自分の愛する者が侮辱されるのを極端に嫌う、だからあの“お方“を侮辱してはいけない、束縛してはいけない。その話を聞いていた他の神官達も驚きだけではなく納得の表情も見えた。何故なら今までの異例な恩恵の数々の意味を理解したから・・・
*この時、あの“お方“の存在は歴史上初の“神々の愛し子“と言った称号を持ち、数多くの神々から“愛し子“の加護を得た人物だと、リトス教の記録に残ったのだった・・・
そこでさらに驚きなのはデューキス公爵家の家族全員に“慈愛の祝福“も与えたということだ。この国で神々が興味を抱いた者が増えたことは喜ばしいが、それより神々の加護が欲しくてたまらない他国の者達からすれば、“祝福“と言った軽い加護であっても、神々の加護を持ったものが一国に複数存在するのは面白くないと感じる者達が出てくる。それに“精霊王の愛し子“の加護に関して、エルフ族は人族が精霊王の加護を持ったことで怒り狂うのではないかとの事で、この先の外交的問題が発生するかもしれないと言う懸念も出てきた。
(確かに、エルフ族は精霊様至上主義だからな、神々の神罰など恐れずにあの“お方“に突っかかっていきそうだ…)
なのでこの事は内密にと強く釘を刺された私達は、“そう言って釘を刺すぐらいなら、私達にその話をしなくても良かったんじゃないか“と、密かに思ったのは仕方ない事だと思いたい。
(しかし、大司教様はその場で聖獣様や神々のお力と、あの“お方“に加護が与えられる瞬間を目にしたのか、私も見てみたかった・・・・)
歴史的な瞬間であったであろう光景を見る事ができた大司教様を少し羨ましく思ってしまった。
(・・・それにしても、今日一日だけで一生分驚いた気がするな…“儀式“の準備も大詰めだし、今日は早めに寝るか・・・しかし、その“儀式“にはあの“お方“は参加するのだろうか?会う事があるならよくよく気をつけなければならないな…)
色んな出来事が起きた日だったが、私達はやらなければならない事は変わらない、ただ、今度あの“お方“に会う事があるなら、失礼の無いようにすることは理解した。それとは別に少し思った事が、枢機卿とパーティーに出た元聖女のことだった・・・
(うーん、しかし、あの元聖女はどこであの“お方“が自分に気があると思ったんだろうな?)
ただ、これだけは流石に理解ができなかった・・・
後日に聞いた話だと、例の枢機卿が異性の好意を勘違いしやすい元聖女の神官に、あの“お方“が彼女に気があるようだと、でたらめな嘘を吹き込んで勘違いを助長させていたと言うことを聞いた。その話を聞いた私は、彼女を使いあの“お方“を自陣に引き込もうとした枢機卿の意図があったとしても、明確に好意を示されたわけでもないのに自分に好意があると勘違いをするのは、やはりその元聖女であるあの神官はどこか常識の無い変人だなっと思った。
(でも、その神官はこれと言った罰は降ってないのは、本当に心の底からあの“お方“を思っていただけだからか?)
そして、枢機卿の処罰はこの話を聞いた教皇様の判断により、聖教国で最も重い罰である強制労働施設での終身刑となった。その強制労働施設の場所ははディアマンディ大陸の5大山脈の一つに数えられる大山脈で、“イエロザーパト聖教国“、“ズューウス王国“、“ヴェステ王国“の3国の間を隔て、国境として聳え立つ“ジャウハラ山脈“の麓にある施設だ。
そこは数十年前からこの3国合同で交易通行トンネルを作るための公共事業を進めている場所だ、岩盤を掘り進める労働者などを常に募集しており、常に人不足の場所だ。
なので、国が罰した犯罪者を送り込む、刑罰所としても有名な所で。そこは様々な仕事があるが基本的に受刑者は魔法の使用は原則禁止、と言うより、魔力封印の魔道具の着用が義務づけられているので使用できない。そんな中で今回のような終身刑に処された者や無期懲役に処された者達などは、その数ある労働の中で最も危険とされる、“魔物狩り部隊“に配属されるのだ。
その施設自体がかなりの山奥にあり周囲は鬱蒼とした森林地帯で、そこには強力な力を持った魔物が多数生息している。施設の防衛も兼ねて作られたのがその“魔物狩り部隊“であり、そこに配属された人達はかなりの武術の腕前を持っていないと生き残ることはできないと聞いている。
(そこにあの枢機卿は配属が決定された。要は事実上の死刑宣告と同等の刑罰だ。あっさり死ぬのではなく、多少なりと人の役に立ってから死ねと言っているんだろうな・・・)
そんな色んな驚きと問題もあった日の数日後の深夜、大司教様が王城での緊急会議に招集された。
(こんな夜中に何があったんだ?)
この時ちょうど夜の見回り中だった私も侍従代わりに付いて来るようにと言われ、王城からの使者が乗ってきた馬車に一緒に乗り込み、王城へとやって来た。この国の権力の象徴である優美で広大な王城の一角にある大会議室に通された大司教様と私、そこにはすでにこの国で重大な役職に付いている人物達が椅子に座って待ち構えていた。
(!、前国王ご夫妻までいらっしゃられている⁉︎急な招集だったが、この方達までお越しになる程の緊急性を持った議題とはなんだ⁉︎)
思った以上に豪華な顔ぶれに驚きを隠せない私だったが、室内の他の重鎮達は気にする様子もなく、大司教様が席につくのを黙って待っていた。大司教様が王城の使用人に誘導され用意されていた席に座ると同時に、私は他の重鎮達が連れてきたであろう副官や補佐官などがいる壁際に、同じように気配を断ち立った。
椅子に座った重鎮達の軽い自己紹介の後に、この国の宰相が司会役として話を進めていく。議題は最近起こっている王立学園内への侵入者の話から、今日の午前中に起きた呪詛いよる事件の話になった。
(警備の厳重な学園内への侵入者の件も大事だが、その学園内で白昼堂々と呪詛による傷害事件が起こるとは…、しかもその標的があの“お方“だと言うことは、もしや最近活動が活発になってきているあの“邪神教“と関わりがあるのか?)
話が進み、今回の“呪詛事件“で判明した、奇襲可能な“呪詛媒体“で来週に迫った学園である“公開実技授業“での警備や、“勇者送還の儀式“の警備に影響は出るのか?そもそも学園内の侵入者と呪詛事件との関連性はあるのか?その関連で“勇者候補“達やあの“お方“が狙われているのでは?など、様々な話しがなされた。
結論は来週に行われる“公開実技授業“でヴェステ王国がしてきた提案で、あの“お方“が槍玉に挙げられたのは、あの“お方“に対して何かしらの一方的な私怨を持った“ヴェステ王国の王女“があの“お方“に危害をつもりがあり、その王女の私怨を利用しようとする何者かが、あの“お方“に近づき危害を加えたい、もしくは手に入れようとして、守りが硬いあの“お方“の周囲で故意に事件を起こし、あの“お方“の加護の“恩恵の弱点“を探っていたのではないか?と、重鎮達はそう推測を出した。
その話題の中で大司教様はあの“お方“の安全を考え“公開実技授業“の取りやめを提案されたのだが、その提案は会えなく却下される。
その“公開実技授業“自体に政治的しがらみがあり、そもそもの話し、ご自身が狙われていると理解しているあの“お方“が、今後のことを考えて早めに問題を解決したいとお考えである事と、あの“お方“自身の強い意思を神々も尊重している為、誰にも止めることはできないと言われたからだ。
このやり取りの中で誰も口には出さないがあの“邪神教“の影がチラついている事もあり、あの“お方“が自分自身を囮にすることで“邪神教“のしっぽを捕まえられるのでは無いかとも、思っているのだろう。
その事も察した大司教様は、せめて自身がその現場であの“お方“の側にいてできる事は何でもしたいと申し出た。
(大司教様は高度な回復魔法と神聖魔法の使い手なのは勿論だが、それ以上に得意な魔法が結界魔法でらっしゃる、大司教様があの“お方“のお側に居られるのなら、安心ではあるな・・・)
その代わり、神殿の守りが手薄になると懸念した陛下が代わりに軍の派遣を申し出てくれたことで、神殿内の守りも問題はなくなった。
その後は諸々の議題があったものの、概ね話が纏まる頃にはもう既に太陽が登ろうとしている時だった。私は多少の眠気を感じながら神殿に帰りつき、その日は一日を睡眠にあて、また翌日の“儀式“の準備のためにゆっくり休む事になった・・・
数日後・・・・
今日は例の“公開実技授業“の日だ、私はいつも通り、神殿内で“送還儀式“の準備に従事していた。
(・・・はぁ、やっと全ての魔法陣が描き終わった・・・)
“勇者送還の儀式“の準備と言う名称の苦行にやっと終止符が打たれた瞬間が来た。この神殿の広い礼拝堂の中心に大きな二つの魔法陣を、教会総本部から持ち込まれた資料を元に、数人の神官達が神聖魔法の“ピュリフィケーション・浄化“を発動させながら、特殊なインクを使い、手書きしていたのだ。
(神聖魔法を使える神官が私以外ではあと4、5名ほどで、その人数で交互に休憩をとり、時間を決めながらして、魔力切れの症状に苛まれながらもなんとか完成させた。この作業を苦行と言わずしてなんと言えばいいのだろうか・・・)
その内、魂が抜けるのではないかと思いながらも完成させた魔法陣を、やり切った表情で見渡した担当の神官達はその後、そのまま気絶するように寝ていて、その日に起こった大事件の事を聞いたのは翌日のお昼過ぎだった・・・
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