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第3章 少年期 学園編

129話 深まる悪意の影 第三者 視点

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  第三者 視点

ーーー・・・時間は少し遡り、アトリーが女の子と会話をしている最中の事・・・・・

アイオラト「ジル、これは・・・」

ブルージル「あぁ、アトリーが、何が聞きたいのか分かってきたぞ・・・、今現在この子は、誘拐犯に狙われている可能性があるな・・・ラト、こっちでこの子供に護衛をつける、申し訳ないがこの子には囮になって貰う。アトリーとの取引が終わり次第すぐに俺達はここを離れよう、1人になったこの子に接触してくる奴を全て追尾させるように手配する」

 アトリーの質問の意図が読めて来たことで、ブルージルは領主として、またこの国の諜報機関の影騎士の長として、この目の前にいる子供を囮としてこの国に蔓延る、犯罪組織を一網打尽にすると言う決断を素早く決めた。その決断にアイオラトは反対する事はなく、ただ厳しい顔で考え込んでいた。

アイオラト(囮にするのはいいが、これをアトリーが知ったら、どう思うだろうか・・・、だがこの子供を狙った誘拐犯、何故か既視感を覚えるな・・・以前どこかで・・・・・‼︎ま、まさか!)

夜月『アトリーの父君、そして王弟ブルージル。こちらを見ずにそのまま話を聞け』

ブルージル&アイオラト「「⁉︎」」

夜月『今、私の声はお前達にしか聞こえていない、アトリーに気づかれないようにしろ、返答は頭の中で強く考える事でこちらに伝わる、ここまでは良いか?』

アイオラト(はい、大丈夫です)

ブルージル(これで、良いでしょうか?)

 急に夜月からの念話で戸惑ったものの、すぐに対応する2人、何事かと不思議に思いつつも夜月の次の言葉をまった。

夜月『あぁ、しっかり聞こえている、其方達の意識もこちらで一時的に繋げているので会話の不便はないはずだ。では本題に入る、先程アトリーと私達がこちらに注目する怪しい視線と嫌な気配を感知した。その気配は今アトリーが会話している子供に関係しているようだと判断した、今はまだ、動いてはいないが嫌な気配はごく最近感じた嫌な気配と酷似している。((!!そ、それは⁉︎))
 以前にも説明したと思うが、私達はアトリーに対しての悪意や執着のような思念を感じることができる。それは不快感として感じるのだが、それをこちらを注目している気配達から感じる。直近ではコミス領であった、呪詛事件のあの子供達から感じたのが記憶に新しいが、ここ最近あの邪教が活発に動いているのが感じられる。
 この子供もその邪教が何か企んでいる事に関係しているだろう、早急に関係者の捕縛とすでに捕まっているかもしれない子供達の救出を開始しろ。
 その子供達を使った大規模な儀式をしていたなら何かしらの大きな被害に繋がりかねん』

アイオラト&ブルージル((っ!!))

 夜月から告げられた情報で、邪教が関わったことだと知り、心の中で驚きを隠せずにいた2人は言葉に詰まった。

アイオラト(・・・やはり、ここ最近の身寄りのない子供の失踪事件は邪教の仕業だったのですか。今年に入ってからの領内で子供が行方不明になったと言う報告が徐々に増えてはいたのです。公にはしていませんが以前にも似たような現象があったので、警戒はしていたのですが、子供の攫い方がこのように巧妙化しているとは・・・、これでは9年前の子供達の被害を上回る事になりそうですね・・・)

 邪教の暗躍と聞いた、アトリーの父アイオラトは先程まで考えていた既視感の正体に思い当たり、我が子が狙われた9年前の事件を思い出した。

ブルージル(9年前というと、アトリーが邪教の標的なった時の事件か・・・あの時は平民や貴族、関係なく魔力の高い子供達が標的となっていて、子供の被害が我が国で確認できるだけでも50人は行方不明になっていた・・・
 あれを考えると今回の被害数はまだ確認が取れてないからな、うちの領内でも相当な数になりそうだ・・・
 はっ!、こうしてのんびりはしていられない、すぐにその男達を追尾するように指示を出します。あの子供の護衛もこちらで出す、ラト、君の騎士達は自分の子供達と屋敷に残った子供達を優先して守らせろ。領内の誘拐に関連した犯罪者どもは“今日中に一網打尽“にする、だから今夜は屋敷の警備に協力してくれ)

アイオラト(あぁ、分かった、ジル、ここは君の領地だ、私は君の指示に従おう。だから“今日中に一網打尽“にすると言った約束、必ず果たしてくれよ、じゃないと・・・)

 9年前の事件の詳細を細かく覚えていたブルージルは、今回の子供の引き渡し方法での被害がどれほどになるかと懸念し、手早く役割を決め提案した。自領の問題は自分で解決すると言った強い意思が伝わる采配にアイオラトは、その提案に全面的に協力をする事に決め、ブルージルの言った“今日中“、ようは早期解決に念押ししてきた。

ブルージル(おう、分かってるよ、子供達がこのことで明日からダンジョンに行けないと知ったらガッカリするからな)

 アイオラトが早期解決にこだわり、念押ししてくる理由をよく分かった上で“今日中“という期限を自ら課したのだった。

・・・アトリー達の初めての夏休みを楽しい思い出にするために・・・

夜月『ふむ、これなら其方達に任せても問題はないな・・・、では、私達が感じた不快感な気配を放つ男達のいる場所と人数を教えよう。あと、任せっきりと言うのも心苦しい、屋敷に戻るまでで同じ気配を感じたら逐一教えよう、そしたら今日中に、と言う約束は簡単に果たせるだろう?』

 夜月は2人の心意気に感心して、自分達もこの事件の早期解決に手を貸す事を約束したのだった。

ブルージル(!、ご協力頂けるなら、これほど心強いことはありません、ヤヅキ様の期待に必ずお応えします)

夜月『期待している、この事は天華やジュールも聞いているので、私だけではなく、他2人からも不快感を感じる場所や人物の報告が入るだろうから、急に声を掛けられても驚くなよ・・・それと、アトリーの父君には私達がやりとりをしている間、アトリーの気を紛らわせてくれるとありがたい』

アイオラト(はい、お任せください、アトリーに気づかれないように致します)

*この時すでに周りの精霊達が不審者を見つけようと自主的に動き始めていた。その報告を春雷達がまとめる役をしているので春雷達もアトリーに話しかけることが出来ずにいた。

夜月『よろしく頼む、それでは奴等の位置だが・・・・・ーーー』

 こうして、夜月に不審者の居場所を教えてもらったブルージルが素早く、自分の警護をしていた影騎士達に専用の合図を送り、不審者達の追尾を指示。それと同時に自分の屋敷に連絡をいれ追加の人員と、子供の警護の手配も済ませた。他に諸々指示を出して、完全に隙の無い捜索網を敷いた。だがそのおかげでアトリーがあんな風に拗ねるとは誰も思っても見なかったのだった・・・

アイオラト「ほら、アトリー、そう拗ねないで、もうすぐ冒険者ギルドに着くよ」

アトリー「はーい」

 少し拗ねた様子で返事を返した我が子に苦笑いしたアイオラト。つい先程ダンジョンを出る際に、アトリーが自分も誘拐犯の捕縛に協力すると言って聞かなかった時はすごく焦ったのだった。激しく駄々をこねるかと思われたが、なんとかその場はブルージルに説得されて引き下がってはくれた。
 だが、我が子の有能さは分かっているので、ブルージルが密かに進めている捜査や夜月達との会話に気づかれないようにするのに、手間取るかと思い覚悟したが、その懸念は外れ自分の出番が無くなったと拗ねているアトリーの機嫌をとる事になったので、いまだにその事に気づかれてはいない。拗ねているアトリーは以外と大人しく馬車の外を眺めているので、アイオラトはその様子をニコニコ笑い見ながら別のことを考えていた・・・

アイオラト(ふふっ、珍しくゴキゲン斜めが続いているね。あのアトリーがこんなに駄々を捏ねるなんて、ソルの“忠誠の誓い“の時以来じゃないか?ふふっ、あの時もあんな可愛い膨れ方してたね。ふふっ、うちの子は本当に可愛いなぁ)

 と、珍しく年相応の反応をしている我が子を見て、脳内で親バカを炸裂させているのだった・・・

 ギルドに入って色々用事を済ませて帰るタイミングでサブマスに呼び止められ、応接室にまで連れて来られた。早く帰って捜査の指揮を取りたいブルージルが苛立ちを隠せない様子で話すが、サブマスはサブマスでそれを無視して真剣んな表情で“子供失踪事件“の話題を出した。一瞬にして剣呑な雰囲気になった室内でアトリーと聖獣達以外の者達が身構えたが、サブマスの簡単な説明で誤解は消えた、それでもブルージル的には気が気でない様子だ。

アイオラト(一瞬、影騎士が情報漏洩かと思ったが、冒険者ギルドという組織の情報網も馬鹿にできないのは確かか・・・)

 サブマスに呼び止められた理由は、ただ単に事件の発覚の元となったアトリーに話が聞きたかったようだ。

 アトリーの話を聞くうちに大人達はこの理論立てられた説明に目が点になっていた。その説明を聞いたサブマスはもうアトリーを子供扱いしていない様子で、聞いた事を言葉に出し反芻しているようだった。この手口の巧妙さに賞賛をあげたと思ったら、不意に自分の持っていた情報から、同一犯を特定したらしく、大きな声で“あの野郎“と犯人を罵った、それを聞いたサブマス以外の全員が驚きの声をあげ、ブルージルに至ってはその“野郎・男“の事についてサブマスを問い詰めた。

 有力な情報を聞いたブルージルは冒険者ギルドと共同で捜査をすることに決めたようで、サブマスと2人で色々と段取りを詰め出した。その2人を呆れた様子で見ていた子供達とは反対に、アイオラトは険しい表情で考え事をしていた。

アイオラト(路上生活をしていた子供達にも行方不明者が出ているということは、相手は魔力の質などは関係無しに子供達だけを集めているのか・・・これがこの領地だけではなく、我が領にも及んでいるとなると、国全体で子供失踪が相次いでいるはずだ・・・それが今まで問題視されてないかったのは、消えた子供が路上生活者や孤児であった事が原因だろう。これはもっと子供を守る政策が必要だな、今回の件も含め陛下にいち早く連絡を入れねば・・・)

 そんな事を考えていると、子供達が退屈している事に気づき、自分達だけでブルージルの屋敷に戻ると提案。ブルージルもそれが良いだろうと反対もせず快諾したので、ギルドを出て馬車にゆっくり揺られながら戻った。途中アトリーに色々質問されたがあらかじめ用意していた返答をし、自分が考えている事をアトリーには気づかれずに済んだ。

 帰り着いた屋敷は物々しい警備となっていたが、子供達は今日は色々あった事のせいだと思っているようなので、あえて説明はせずに着替えが済んだら親元に行くように指示した。子供達がそれぞれ自室に向かっているのを見送ったアイオラトは、自分も妻が待っている部屋に帰った。

アイオラト「今戻ったよシリー」

シトリス「!、ラト、お帰りなさい、子供達は?」

アイオラト「子供達は今部屋で着替えをしている所だ、後でアトリーとソルはこちらに顔を出すだろう、その前に、シリー達に話しておかなければならない事がある」

シトリス「?何かあったのですか?」

アイオラト「あぁ、先にきた知らせには書いては無いことだ。この事はデューキス家の身内、大人以外には他言無用だと約束してくれ・・・」

 真剣な表情のアイオラトの様子に室内にいたシトリスとソルドアの母親のセラス、それとシトリスの専属メイドのリアに一緒に帰ってきた自分の専属執事のカイル、その4人は表情を引き締め深く頷いた。

 その後はアイオラトから夜月と話した内容を軽く聞かされ、女性陣は青ざめ、行方不明になった子供達の安否を心配した。

シトリス「ラト、行方不明の子供達の事はジル様にお任せして来たと言うことは、貴方はこちらの子供達、いえ、アトリーの安全のためにこちらに戻ってきたのよね?」

アイオラト「そうだよ、あの邪教が関わっている事が判明した時点で、ジルも私も聖獣様方もアトリーの身の安全確保を優先させた。今回この領地に来ることは知られていたかは分からないが、ダンジョンでアトリーの存在は確認されたはずだ。
 だから我が家の騎士達は全員この屋敷の警備につく事になった、その代わりにジルの統括している影騎士達は誘拐犯の捜査に全て駆り出される。アトリー自身は聖獣様方が居られるので心配はないが、他の滞在者達の安全確保は私達に掛かっているから、今警備は厳重にしている。その事をブラーブ殿達に説明するためには、子供達を先に寝かせるか別室に連れ出さなきゃならない。それをシリー、君にお願いできるかい?」

シトリス「えぇ、分かったわ、なんとかしてみます。ラト、それとは別に、アトリーのことで、聖獣様方との間に何かあったと聞いたわ・・・」

アイオラト「あぁ、それなんだが・・・」

 アイオラトはカイルに着替えを手伝ってもらいながら、獣人族の王子とあったいざこざの件を話し。その際にアトリーに起こった異変の詳細も全て語った。

シトリス「・・・それは、アトリーの体に影響はないのかしら?ふらついたと言っていたけど、その後は普通にしていたの?」

アイオラト「その後は普通だったよ、気分が悪くなるとか言った症状は出てない。だがダンジョンの探索もしていたから、疲れは出ているかもしれないけどね」

シトリス「そう、なら良いのだけど・・・」

 着替えも済み、話終えるとシトリスはアトリーの体調を心配していた。そんな彼女の肩を抱き安心させるため、その後のアトリーに体調の変化はなかったと話した。そうして互いに今日会った事を話していると、アトリーとソルドアが着替えを済ませ部屋を訪れた。

アトリー「父様、母様、失礼します」

シトリス「アトリー、お帰りなさい、今日は大変だったわね」

 部屋に入ってきたアトリー達を手招きして、近くに来るとシトリスとセラスは自分の子供を抱きしめた。

アトリー「母様、僕は大丈夫ですよ」

シトリス「どこも怪我はしていない?気分が悪くはない?」

 と、色々と心配して質問するシトリス、その返答を抱かれたまま丁寧に答えるアトリー。自分の腕の中で我が子の無事を確信するまで抱きしめ、可愛がったシトリスは最後に今日は早く休むようにと念押しして、アトリーの頭を撫でて離した。

シトリス「アトリー、そう言えば、今日はジン君達のパーティー用の正装の採寸をしていたのだけど、貴方達の採寸も後でしましょうね。今抱きしめて分かったのだけど、貴方、少し身長が伸びているわ。もしかしたら来月のパーティーに用意した正装が合わなくなっているかもしれないから・・・」

アトリー「えっ!本当ですか?身長伸びてるかな?」

シトリス「ふふっ、えぇ、絶対に伸びてるわ」

 我が子の身体的な成長を敏感に察したシトリスの言葉に、身長が伸びた事を無邪気に喜ぶアトリー。その光景を微笑ましそうに見守る大人達、そこにソルドアの母セラスも我が子ソルドアの頭を撫でた。

セラス「貴方もね、ソル、大きくなってると思うわ。今のうちに採寸し直して貰って、手直しをしてもらわないとね」

ソルドア「僕もですか?」

 母親にそう言われてもピンと来ないような表情をしたソルドア。最終的にはアトリーとソルドアだけではなく、イネオスやベイサン、ヘティや他の子供達まで巻き込んで夕食をとる時間になるまで、仁達が採寸するために使っていた部屋でパーティーの正装の相談を、各家庭の母親達を交えて皆んなで着せ替えショーをする羽目になったのだった・・・

アイオラト(これは、夕食を食べ終わった後もヘトヘトになってすぐに寝てしまうだろうね。頼んだ通りとは言え子供達には申し訳ない気がしてきたよ・・・・)

 心の中で子供達に謝罪しながら、今日起こった事の説明を父親勢に説明したアイオラトだった・・・・











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