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第3章 少年期 学園編
111話 会議 第三者 視点
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引き続き 第三者 視点 (大人達サイド)
仁達から呪詛に使われたペンダントに関して興味深い情報を貰った、アトリーの父アイオラトは父親勢と自分達の跡取りになる子供達を連れ、コミス伯爵邸にある会議用の大広間にやって来ていた。
アイオラト「・・・・・、早速、本題に入りますが疑問や気づいた事がありましたら遠慮なく発言して下さい・・・」
会議室内に全員が揃い着席し、使用人がお茶を置いて出て行ったのを確認し終わって、アイオラトは重々しく口を開いた、彼の言葉に緊張感を漂わせながら頷く面々、会議は今回の内通者問題と、アトリーの呪詛事件に関しての情報共有と、今後の対応を決めるための話し合いの場となる、それを前提として開示は始まった・・・
アイオラト「では、今回の我が末息子が呪われそうになった件に関しての、簡単な概要と今わかっている情報を確認していきましょう、カイル説明を頼む」
カイル「はい、畏まりました、現状を簡単に纏めた報告をさせて頂きます。
まず本日、デューキス公爵家の奥様とソンブラ家の子爵夫人が保護者となり、そのお二人のご子息アメトリン様とソルドア様、そして現在こちらにご出席のヴィカウタ子爵家、ダンロン男爵家、バロネッカ准男爵家の三家の末のご子息、ご息女様達が観光のため、領都で最も規模の大きい美術商が運営する画廊で美術品鑑賞のご予定で、当初は問題なく画廊での美術鑑賞が終了。
事件は次のご予定のため画廊入り口付近にて、馬車の準備が整うのをお待ちの間に、件のご令嬢達が画廊に訪問予約もなしに来店、アメトリン様を見て接近して来ました護衛騎士に道を阻まれると、アメトリン様の知り合いだと言って押し通ろうとし、次々訳の分からない事を並べ立て、その際にご友人方を酷く侮辱くされた事でアメトリン様がお怒りになり魔力威圧を発動なさいましたが、ソルドア様の静止によりことなきを得ました、その後すぐに奥様がご令嬢の対応の意見をアメトリン様にお聞きになられ、これ以上取り合わないとアメトリン様がお決めになられたので、お引き取り頂こうとしましたが話を聞いて欲しいと抵抗、最終的には自分の話を聞かないと後悔すると、脅迫めいた事を言い出し、せめてこれだけでもお受け取り下さいと投げてきたのが、こちらのペンダントでした・・・」
そう言って、テーブルの上に素手で触れないように木箱に入れられたペンダントを置いた。
カイル「そして、投げられてきたペンダントから、異様な気を感じたアメトリン様が神の加護の結界を全員を包むほど広げた事で、どなたにも当たる事はなかったのですが、結界に当たり床に落ちたペンダントから、大音量で金切り声が鳴り出したとのことです。
この時アメトリン様には他の方々とは別のものをお聞きになっていたようだと、ソルドア様からご報告が入っています。
多分ですが、呪詛の標的がアメトリン様であったことから、標的となったご本人だけに呪詛の本来の効果が現れたものだと思われます、そして、最後に発動された呪詛をアメトリン様が聖魔法の“ディスペル・カース“で解呪、呪詛の影響はすぐに治ったととの事です、その後、奥様方は当初のご予定通り昼食をお召し上がりになられた後、領都内を散策してお戻りになられました、その間これといった問題は発生しておりません。
以上で説明を終了させていただきます」
アイオラト「カイル、説明ご苦労、では、何か気づいた事、気になる点はありますか?」
ヴィカウタ子爵「宜しいでしょうか?」
アイオラト「どうぞ、ブラーブ殿」
ヴィカウタ子爵「気になっていたのですが犯人達の素性はすでに判明はして、捕らえているのは分かりますが、今回、コミス伯邸で行った使用人の大掃除で処罰対象の使用人の中の1人が、先程の犯人と繋がりがあったとの事ですが、その使用人と犯人達との接点はどのようになっていたのでしょうか?」
ヴィカウタ子爵のもっともな疑念に、全員が注目した。
アイオラト「その事ですが、どうやら、犯人達に情報提供していた使用人は、以前、犯人の1人“ぺドロス・トント“の専属使用人だった時期があり、その時の失態を弱みとして握られ脅されたことで、彼らの内通者として動いていたみたいですね。
トント家は密輸や密入国者の手引きなどを犯し、爵位剥奪されまだ未成年だった子供達以外は逮捕され処罰を受けています、残された子供達は爵位の降爵処分を受けて男爵位になった、“アビドス“家に引き取られたと聞いています、
ですが、その使用人の紹介状を書いたのはタキトゥス侯爵です、タキトゥス侯爵がコミス伯に何か悪意を持って送り込んできたわけではないでしょう、彼は寡黙で真面目な性格ですので…、・・・でも、こちらのコミス伯邸で雇われたのは全くの偶然とは言い難いのですよ・・・、タキトゥス侯爵家の屋敷で雇われている使用人の半分は、以前から“前領主一家“や、その“分家筋のトント家“の屋敷に勤めている人間だったようですから・・・」
疑念の答えをアイオラトは事前に集めておいた情報を話すと、デューキス家以外の跡取り達はその情報収集の素早さに息を呑んだ。
ヴィカウタ子爵「・・・タキトゥス侯爵が治めている領の“前領主“と言うと・・・“アロガイン家“ですか…、そこでもう1人の犯人である“ミッシェル・ノービレ・アロガイン“に繋がるのですね?ですが、何故あのご令嬢はコミス領におられたんでしょうか?」
アイオラト「それなのですが、あのご令嬢はアロガイン家没落前、アロガイン侯爵と離縁した母親の生家のボージェ伯爵家に母親と共に身を寄せ、母親が離縁したと同時に家名を“ボージェ”に戻したので、ご令嬢も“ミッシェル・ノービレ・ボージェ“と名を変えています。
母親の前アロガイン侯爵夫人が、娘の彼女を王都の学園に入学させるのを強く反対したそうで、ボージェ領の隣にあるここ、コミス領が運営している“アルモニア領立学校“に入学させたそうです、そこは全寮制なので夏期休暇中もボージェ家に戻らずコミス領に留まっていたと思われます・・・」
ヴィカウタ子爵「だから、うちの子供達がご令嬢を王都の学園で見かけてなかったのですね・・・」
アイオラト「そうですね、うちのアトリーなんて、彼女のことなんてすっかり忘れていたぐらいです、なので、私も今回の事は本当に予想外の出来事でした…、
あぁ、それと、例の使用人がなぜタキトゥス侯爵家で雇われたという経緯ですが、前トント伯爵家の屋敷で働いていたのは確かで、トント家が没落後、新たな家主がトント家で働いていた使用人を全て解雇、その際にタキトゥス侯爵が行き場の無い解雇された使用人数名を下働きとして雇用、運よく雇われた数名の下働きの1人が例の内通者の使用人だったと、
今回こちらのコミス家の求人を聞いて、その使用人が自ら転職願いを出したので、タキトゥス侯爵はその時、何の疑問も持たずに紹介状を書いて送り出したそうです」
ヴィカウタ子爵「コミス伯が求人を出されたのがここ1、2ヶ月のことだとお聞きしましたから、その時はご令嬢はもうすでにコチラの学校に通っていたという事ですよね?・・・そうなると、ご令嬢達との接触はこの領地に来た後の話となるのか?・・・」
少し考えたヴィカウタ子爵はこの説明の中での不自然な箇所に気づき推測を呟いた。
コミス伯爵「・・・ではあの使用人は、“自らの意思“で領地を一つ跨いだ我が家の求人に応え、“わざわざ“生まれ故郷を離れ、こちらに移ってきた後に、“偶然“に以前の雇い主の犯人達に会い、脅されて内通者になったと・・・・、ですが話ができすぎている感じがしますね・・・」
コミス伯爵もその使用人が何故、自身の公募した求人に答えたのか、不審に思い疑念を募らせた、あまりにも不自然、タキトゥス侯爵家での待遇が悪かったわけでもないのに、そして複数人いる前領主時代からの使用人の中から、なぜ“ミッシェル・ノービレ・ボージェ“の知っている使用人ではなく、“ペドロス・トント“が弱みを握っている使用人がコミス家にやって来たのか・・・求人に関して何の理由もなく急に故郷を離れるとは思えず、子供達ではない別の誰かしらの指示があったと全員が感じた。
アイオラト(ここまでの話を聞けば、その使用人を送り込んだのが前領主の娘の指示だと思うだろうが、未成年しかもまだ学園に通い始めた10歳の子供が、こんな周りくどい真似をして、いつここを訪れるかも分からないアトリーの情報欲しさに、内通者をわざわざ送り込んでくるだろうか?ただでさえ、そんな小細工ができるとは思えないほど短略的で衝動的な子供達なのに・・・
だが、この送り込んできた者が別にいて目的がアトリーだけではなく、もっと別のところにもあったのなら?例えば、今回の件で使用されたペンダントが関わっていたりすれば?あんな物がコミス領で出回ったとされれば、コミス伯爵領の評判に大打撃をもたらす可能性だってある、使用人を送り込んできた者の目的が秘密や弱点を探るのではなく、“弱みそのものを作り出し“に来ているかもしれない。
そしてジン君達が言うゲーム内で、呪詛のペンダントを販売していたのが、あの“タンユ商会“だったとは…、名前が偶然に一致するとは考えられない、以前の“宝石の違法取引事件“を起こしたのもこの“タンユ商会“だった、あの事件で“タンユ商会“は摘発されて経営を停止、商業ギルドからも除名処分になったはず、なのにここに来てあの商会の名を聞くことになるとは・・・、
もし“タンユ商会“の関係者が再び違法な商品を取り扱い、販売し出したとしたら、これはもっと深く調べてみないといけないな・・・)
アイオラト「えぇ、私もそう思います、裏で糸を引いている者がいる可能性がある、なのであの使用人から“詳しく“話を聞くことをお勧めします」
今までの情報は事前にデューキス家の“影“達や精霊達が収集してきたものや、タキトゥス侯爵本人からの情報提供で得られた情報を総合した結果、事の経緯は分かったがこんな事件を起こした肝心の動機が明確ではない、その事がアイオラトの疑念を膨らませていく、あまりにも不審な点が多すぎる・・・もしかしたら“あの邪神教が動き出したのかもしれない“と・・・
(それに、あのペンダントの意匠、2匹の蛇が形どられていた・・・、あの邪教の象徴としても使われていたのも、1つの樹木に2匹の蛇だった・・・、気にし過ぎかもしれないが、用心に越した事はないはずだ)
コミス伯爵「・・・分かりました、使用人からの“詳しい“聞き取りはお任せください」
アイオラト「頼みます・・・、では次にこのペンダントの入手経路の調査に関してですが・・・・ーーーーーーーー
ーーーーーー・・・・数時間後、主に父親達を中心に全ての問題が話し合われ、それぞれの対応と対策を検討し指示を出し終えた時は、すでに日が暮れ始めていた。
今回の使用人、内通者問題の後始末はほぼ完了し、後はアトリーの呪詛未遂事件の継続的な調査は、デューキス家とコミス家が合同で行うことになった、主にコミス家が自領の衛兵隊を使い今回の事件の調査をしたり、犯人の子供達の親達と連絡をとり、刑罰や謝罪などの表面的なやり取りをして、デューキス家の影騎士達が仁達から得た情報も考慮し、裏で色々な情報を集めサポートする形で進められる。
この事件は早急に王城に知らされ、王都内でも呪詛に使われたペンダント、“呪物“の捜査が始められたと、知らせが来た。
そして、この事件がマルキシオス領での襲撃事件と関係があるか、詳しく調べることになり、各所が連携して大々的な捜査網が敷かれた、この件に関してアトリーには何も知らされる事なかったが、常に騒動の中心にいた事もあり、より一層アトリーの警護が厳しくなったのは言うまでもない・・・
ダンロン男爵「ふぅ、コレで大体の方針は決まりましたね、私達ができることは少ないですが・・・」
アイオラト「ふふっ、そうでもないですよ、オネスト殿達の経営している事業関連での情報は、私達でも中々手に入りずらいですから、とても助かってます」
バロネッカ准男爵「お役に立てているのなら嬉しいです」
ダンロン男爵「やっている事はただのしがない農家ですので、たいした情報はないですけどね、はははっ」
頭に手を置き申し訳なさそうに笑っているダンロン男爵に、苦笑いを浮かべているバロネッカ准男爵とヴィカウタ子爵、彼らの寄親のマルキース侯爵が治めている領地は、王都がある王領地帯から川を挟んだ北側にあり、広い平原で大規模な穀倉地帯になっていることで有名なのだ。
特産は農業で得られる作物や牧場で育てられた家畜など、他にも安定的で気候変動が少ないマルキース領で育つ、綿や麻など平民の衣服に欠かせない布地の原料なども育ているので、国内でも重要な場所である。
そのマルキース領でダンロン男爵家は代々、領都からほど近い中規模の街の管理を任せれており、その街の周りで牧場や農園を経営している。
バロネッカ准男爵家はマルキース領と王領の境の基準になっている川沿いの漁村を管理していて、村の農業を支援しつつ、川を使った運送業を経営していた。
ヴィカウタ子爵家はマルキース領全体の安全を守る騎士団員を務めている、今は騎士団の副長をしているが時期、騎士団長に指名されるとの噂もあるぐらいの傑物だ、そんな3人は今回の旅行はただの休暇ではなく、デューキス公爵家と縁が深い国外との交易が盛んな港町の領主に、自領の農作物の売り込みに来ていたのだった、できれば国外との交易の伝手ができればいいなぁ、と言った具合の緩いものではあるが目的はあった・・・、一応、他にも細々理由はあるが、ただの家族旅行ではない・・・
デューキス公爵家は宝石や金属鉱石などの取り扱いをしているので、金属加工や鍛治氏、国外との交渉などその分野の情報では抜かりがないが、どうしても、国内の農業関係には手が足りていないのが現実だ、農作物の知識や農家の常識は、やはりその専門家にお願いするのが1番だと言う事で、アトリーが状況を説明していた時に言っていた、聖獣達が感じた“嫌な匂い“の元だった“お香“に心当たりがないか探って貰うことになり、以前の“イーヴィル・ドラック“の件でもお世話になった、薬草を研究し専門に育てている農家さんに、今回彼らが呪詛の媒体に自分の念をこめる儀式の際に供物を捧げると共に使用した、“お香“のサンプルを渡し原料の特定をお願いしたのだった。
*サンプルとなる“お香“はご令嬢達を捕まえた時に没収した、手荷物の中に入っていた物で、本人達にもその“お香“の使用目的をきちんと確認した現品である。
今回の件でも、その分野で1番頼りになる3人が今回の旅行に参加してくれていて助かったと、アイオラトは思っている。
アイオラト「そう謙遜しないでください、今も例の“危険薬物委員会“でも貢献いただけてますし、陛下も大変助かっているそうですよ、もちろん今回の旅行でも、あの薬物を見分ける検査方法の指導なども受け持っていただいてますし、私達も十分助けて貰ってます」
優しい笑顔で溢れんばかりの感謝を示した。
ヴィカウタ子爵「そ、そう言って頂けると、お手伝いした甲斐がありますね、マルキース侯爵様にも顔向けができるという物です…、しかし、今回の事件で呪詛による突発な襲撃の可能性が高まるとは、思いもしませんでした、それにアメトリン様の呪詛に対しての知識の多さには驚きましたね」
頼られて役に立ったという事に照れつつも嬉しそうに笑うヴィカウタ子爵達、照れ隠しで話題をそらしアトリーの知識の豊富さに移る。
ヴィカウタ子爵(前々から、聡明なお方だと知ってはいたが、呪詛と言う専門的な分野においても、あれだけの知識を持っているとは、いつもながら凄いお方だ・・・)
コミス伯爵「あぁ、それは私も思いました、まだ、学園にご入学なさったばかりなのに、魔道具の構造にもお詳しいようで感服いたしました」
アイオラト「そうですね、私も驚きました…、以前、領地の屋敷にある本を全部読んだと聞いてはいましたが、他国語で書いてある呪詛に関しての専門考察本を読んでいたとは知りませんでした、それに、疑問に思った事を聖獣様方に細かく聞くほど興味を示していたのにも、今回初めて気づきましたよ、あの子の好奇心を甘く見ていました、ですが今日はそのおかげで皆が無事だったので良かったですが、今回のように自分が標的になっていても、身体的に無事ならすぐ知らせてくれないのは親としては心配がつきませんがね、・・・妻があの事を聞いて憤慨していましたから・・・」
長く一緒にいても知らない事はある、今回はその言葉がしっくりくる出来事だった。
ダンロン男爵「・・・呪詛の効果の内容を黙っていた事ですか?」
アイオラト「確かに黙っていた事には少し怒ると言うより、あの子が自分の安全より、周りを気遣うことを優先して自身を蔑ろにしまう事が悲しいですね…、
まぁ今、妻が憤慨しているのは、それを仕掛けたご令嬢に対してです、妻は自分の子供達を害されるのが何より許せないですから、呪詛の効果の内容が“精神を操ること“に特化していたと聞いて、あのご令嬢に対して怒り心頭の様子なんですよ・・・、人の自由意志を奪うような呪術を用いた事は決して許される事ではない、その事は私も妻と同じ気持ちです、なので未成年だからと言って許すつもりもないです、あのご令嬢達には十分その事を解らせてあげるつもりです・・・」
アイオラト(うちの可愛いアトリーに手を出しといてタダで済ますわけにはいかないよ・・・)ニッコリッ
最初は少し寂しそうに話していたアイオラトが、急に言い知れぬ雰囲気でニッコリッと笑った、会議に同席していた全員が背筋に冷たい物を感じた瞬間だった・・・
冷静に怒っていたアイオラトを誰もが恐怖した、“絶対にこの人を怒らせたらダメだ“と、本能的に感じたと会議参加者が言ったとか言わなかったとか・・・?
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