22 / 31
王子さま、ともだちを助ける
22
しおりを挟む
「金色の髪は洞窟の中でみつけた金塊なんかよりもずっと輝いていた。女は名前を明かさなかったが、天から落ちてきた男神を探している、と言っていた。俺たちはまだ、そのころは何のことだか分からなかった。地中奥深いこの世界に、天から落ちてくるようなおっちょこちょいの神さまがいるもんかと思っていたからさ。
だが彼女はひどく消耗している様子だったので、一族の家で休ませてやり、暖かいスープをふるまった。その人はスープを呑んで、母のちいさなベッドで休み、また旅に出ようとした。とても急いでいる様子だった。
『天から落ちてきた男の神さま』ってのはあとから知ったんだが冥王のことだったんだな、つまりあの女の人は、冥王を探して降りてきた女神だったんだ」
王子さまは胸が熱くなりました。
とびとびの伝え話で聞かされてきたお母さまの消息を、まさか矮人族から聞くことになるとは思わなかったのです。
「急いでいる様子だったので、おれのおっ父が地下道の入り口まで案内してやり、その短剣をゆずってやったんだ。大きな剣はとてもじゃないが、非力で持てないと言うのでな。
だが、そこまでは普通の短剣だ。女神が、短剣に命を吹き込んだ」
「命を? どうやって?」
王子さまは尋ねました。
「女神は剣に加護を与えたんだ。どうやるかってのは、あんたのが詳しいんじゃないのかい? 俺らには説明できない。
そうすると短剣は、青白い神気につつまれた。ちょうどほら、さっきあんたが握ったときのように」
ベンツァーは王子さまの手元を指さしました。
「精霊の宿った短剣で、女神は腐樹界の森を抜けたんだろうな。じゃなきゃ、女の足で、あの食人樹が数百体はいる腐樹界の森を抜けられるわけがない。その後の消息は知らない。けれどそれからずいぶんと経ってから、魔族たちの王、冥王と名乗る神が現れた。やがて冥王の城ができ、冥府の都は精霊たちの盾壁で覆われるようになった。
都ができてから、一度王宮に招待されたことがあるんだ。
冥王様は女神を助けてくれた礼を言って、おれたちに王宮付きの刀鍛冶にならないかと誘ってきた。だがおっ父は穴ぐらから出て暮らすのはいやだと断り、断ったお詫びに、後日あの短剣とおそろいの柄で作った長剣を献上した。冥王様は、その場で長剣に加護を与えた。
お妃が亡くなり、王子が生まれたと聞いたのはそのあとぐらいだ」
「じゃあ、この短剣は、母上が持っていたものだったのかな」
王子さまは自分の手の中の短剣を見つめてつぶやきました。
「そういうことだな。それがあんたの持ち物である証拠に、俺が握っても何の光も発さなかった。あんたが握ったときだけ、効力を発するんだ。きっとお父上が、母上から預かって、あんたのために大切にしまっておいてくれたんだろうさ」
自分が王子だということもばれていたようです。王子さまは、照れくさそうに、あらためて世話になった礼を述べました。
「だが、少々刃が研ぎ足りないみたいだ。研ぎなおしてやるから、ちょっと貸しなさい」
王子さまから短剣を預かったベンツァーは、職人の目つきになりわずかな刃こぼれに目を光らせはじめました。
「おかしいな。最初に拾ったときよりも、剣に宿る力が弱い…」
「どういうこと?」
「分からない。小さい刃こぼれと関係あるのかもしれない。とりあえず研いでみよう」
そのとき、急に王子さまのおなかがぐるると鳴りました。ぱっと赤面した王子さまを見て、アルヴィスが笑いました。
「おれも腹が減った! 父ちゃん、先に飯にしよう」
だが彼女はひどく消耗している様子だったので、一族の家で休ませてやり、暖かいスープをふるまった。その人はスープを呑んで、母のちいさなベッドで休み、また旅に出ようとした。とても急いでいる様子だった。
『天から落ちてきた男の神さま』ってのはあとから知ったんだが冥王のことだったんだな、つまりあの女の人は、冥王を探して降りてきた女神だったんだ」
王子さまは胸が熱くなりました。
とびとびの伝え話で聞かされてきたお母さまの消息を、まさか矮人族から聞くことになるとは思わなかったのです。
「急いでいる様子だったので、おれのおっ父が地下道の入り口まで案内してやり、その短剣をゆずってやったんだ。大きな剣はとてもじゃないが、非力で持てないと言うのでな。
だが、そこまでは普通の短剣だ。女神が、短剣に命を吹き込んだ」
「命を? どうやって?」
王子さまは尋ねました。
「女神は剣に加護を与えたんだ。どうやるかってのは、あんたのが詳しいんじゃないのかい? 俺らには説明できない。
そうすると短剣は、青白い神気につつまれた。ちょうどほら、さっきあんたが握ったときのように」
ベンツァーは王子さまの手元を指さしました。
「精霊の宿った短剣で、女神は腐樹界の森を抜けたんだろうな。じゃなきゃ、女の足で、あの食人樹が数百体はいる腐樹界の森を抜けられるわけがない。その後の消息は知らない。けれどそれからずいぶんと経ってから、魔族たちの王、冥王と名乗る神が現れた。やがて冥王の城ができ、冥府の都は精霊たちの盾壁で覆われるようになった。
都ができてから、一度王宮に招待されたことがあるんだ。
冥王様は女神を助けてくれた礼を言って、おれたちに王宮付きの刀鍛冶にならないかと誘ってきた。だがおっ父は穴ぐらから出て暮らすのはいやだと断り、断ったお詫びに、後日あの短剣とおそろいの柄で作った長剣を献上した。冥王様は、その場で長剣に加護を与えた。
お妃が亡くなり、王子が生まれたと聞いたのはそのあとぐらいだ」
「じゃあ、この短剣は、母上が持っていたものだったのかな」
王子さまは自分の手の中の短剣を見つめてつぶやきました。
「そういうことだな。それがあんたの持ち物である証拠に、俺が握っても何の光も発さなかった。あんたが握ったときだけ、効力を発するんだ。きっとお父上が、母上から預かって、あんたのために大切にしまっておいてくれたんだろうさ」
自分が王子だということもばれていたようです。王子さまは、照れくさそうに、あらためて世話になった礼を述べました。
「だが、少々刃が研ぎ足りないみたいだ。研ぎなおしてやるから、ちょっと貸しなさい」
王子さまから短剣を預かったベンツァーは、職人の目つきになりわずかな刃こぼれに目を光らせはじめました。
「おかしいな。最初に拾ったときよりも、剣に宿る力が弱い…」
「どういうこと?」
「分からない。小さい刃こぼれと関係あるのかもしれない。とりあえず研いでみよう」
そのとき、急に王子さまのおなかがぐるると鳴りました。ぱっと赤面した王子さまを見て、アルヴィスが笑いました。
「おれも腹が減った! 父ちゃん、先に飯にしよう」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
【1章完】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
無人島サバイバル〜修学旅行に行くはずだったのに無人島ってどういう事ですか!?〜
アキラ
児童書・童話
主人公の栗原世衣加ちゃんは修学旅行に行くはずだったのに、無人島に横たわっていた。
修学旅行は諦めて、無人島サバイバルの始まりだ! とテンションの高い世衣加ちゃんだが、他のクラスメイト達の様子と、この世界がおかしいことに気が付き……。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる