王子の船旅は多難につき

佐宗

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第一章 乳兄弟、旅の資金をスられ金策に走る

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「んじゃあ何とかするけどさ、質に入れられそうな貴金属、他に持ってない?あ、そのでかい青い石の嵌まってる指輪とかさ。むちゃ高く売れそうじゃね」
「これはだめだ(ち、父上とお揃いのやつだし……)」
「何でだよ。危機的状況なんだからお前も協力しろってーの。金がなかったら新大陸に着くなり吟遊詩人のまねごとでもして二人で路銀稼ぐしかねーんだぜ。いや下手したら船の上で稼ぐハメになるかも?」
 渋るナシェルからほとんど無理矢理、青い宝石の輝く指輪を提供させ、ヴァニオンはふたたび陽の落ちた街へ出かけた。そして自分の持っていた金の首飾りも合わせて質に入れ、まあまあまとまった額の(当初の額には及ばないが)紙幣を手に入れた。

 これを元手に、一日のうちに何とかして当初の資金額に近づけねばと考えたヴァニオンがとった行動――これが、ナシェル殿下を激怒させるに至ったのである。



  ひと晩経って、朝焼けの射しこむ賭博場の通りに立っていたのは、元手をほぼ全額巻き上げられ、ほとんどミイラのようにひからびた表情の彼なのだった。




「 今度はカジノで負けただと……!!? 私のやった指輪も質に入れて、全部!?」
 早朝、特等船室の寝台で入眠しようとしていたナシェルは、悪夢のような報告を受けるなりガウン姿でヴァニオンに掴みかかり制裁の一撃を見舞った、というわけなのだ。

「お前のような馬鹿にはついぞお目にかかったことがない! なぜ!? なんでそのまま博打バクチにつぎ込む!? もうこうなったら夕刻の出港時までにスリの子供を探して金を取り返して来い! さもなくばお前とはここでお別れだ。ここに置いていくからな!」
と、ナシェル王子は流れる黒髪を逆立てるほどの剣幕で宣言したのだった。


「痛ってぇー! お、置いてくってそんな! お前ひとりでこの船乗ったって、金がなきゃ何にもなんないだろ。どうすんだよぉ」
「いざとなれば私ひとりで何とでもなる。おまえの乗船券を売っぱらって換金すれば今までの飲み食い代ぐらいは払えるしな。それにそもそもお前と違って私は『神族』だからな。船旅の間中ぐらい食わなくても、基本生きていける」
「それならオレ自分の飯代ぐらいは何とかするからさァ、船旅のあいだだけメシ食うの我慢してくれよ」
「ば、馬鹿者……お前、自分の犯した失敗を棚に上げて主君に我慢を強いながら、自分ひとりだけ今後も饗応にありつこうというのか!?」
「だって、メシ食わなくても基本生きていけるって今自慢げに言ったのナシェルのほうじゃん」
「……とにかく! これ以上お前といると足を引っ張られるのみならず、尻まで拭わされるはめになりそうだ! ここで叩っ殺されなかっただけでも光栄と思え。さあ出港まではあと何時間だ? さっさとスリ犯を探しに行ったほうがいいんじゃないのか?」
「ああ、そんな。この通り、悪かったってば……謝るよ。だからスリを探せっていうならナシェルも手伝ってよぉ」
「……なんで私が!? もういい、お前の顔など見たくない。3秒以内に出て行かなかったら神剣エイルニルの錆にしてくれるぞ。1,2」

 ほとんど逡巡する暇も与えずナシェルが寝台の脇の神剣を掴んだので、ヴァニオンは一目散にVIP船室を飛び出した。

「こ、殺す気まんまんだ危ねぇ……っ」
「もういちど云っておくが、金が戻ってこなかったら、お前も戻ってくる必要はないからな!」

 脱兎のごとく廊下を走るヴァニオンの背中に、船室の扉から首だけ出した主君の追い打ちが、矢のように突き刺さった。



◇◇◇



「はぁーも~ナシェルのやつ……。横暴だし凶暴だしよ……」
 ヴァニオンはナシェルの剣幕を思い出し、ずきずきする頬を押さえた。
「スリの子供を探して取り返せったってよぉ……どこをどう探していいものやら」
 とぼとぼと、昨日の繁華街への道を歩く。
「たしかこの辺りで掏られたんだよな……どんな子供だったっけ?」

 思い出してみる。背丈は、たぶんヴァニオンの肘ぐらいまでだろう。昔は白かったのだろうと思われる薄汚れた黄土色のチュニックに、茶色のズボン。茶色のつばに赤い継ぎ布をあてた帽子をかぶっていた。貧民窟の子供が誰でもしていそうな服装だ。参考にはならない。

 『おっと、旦那、ごめんよ』

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