上 下
32 / 116
名称継承編

終劇

しおりを挟む
 ニチーダの結界が解かれる。

「殿下!」

 ロルフが伸びて床にへばりついている僧侶の近くで片手を挙げた。

「ロルフ」

 ナギサが苦言を呈す。
 ロルフは肩をすくめてセスに目をむけてきた。

「よくやったの」

 ロルフに労いの言葉をかけて、勇者の繭を僧侶の近くに投げ捨てた。

「これで、ナギサは魔法使いヘクセ・カルカサールを、ロルフは僧侶イルザ・ピトリスを。変則的ではあるがニチーダが勇者エイキム・フチラヴェークを一対一で討ち取れたことになるの」

 セスは蜘蛛を沼から呼び出し、僧侶の首筋を噛ませた。

「四天王としての箔は、十分と言えるのではないか?」

 セスの言葉にナギサは目を閉じて深く頭を下げ、ロルフは好戦的な笑みを浮かべた。ニチーダは小さく二度、三度と頷いている。シルヴェンヌは相変わらずな様子でセスに寄り添ってきた。
 セスは顔を上げて、玉座の間に続く扉を見た。

「ロルフ、僧侶に勇者の治療と戦士の復活をさせろ。その後、地下牢に繋ぐ。ニチーダは援護に当たってくれ。そもそも、勇者の切れ端を持っているのはそなただしの」
「りょーかい」
「はい」

 ロルフとニチーダが返事をして、自分で抱え上げようとするロルフを制し、ニチーダの人形が勇者と僧侶と、沼から引き出したダインスレイヴとエフタハの多用で死んだ戦士を持ち上げた。
 二人が離れ始めるのと同時に、セスは玉座の間の扉へと歩を進めた。重い扉を押し開ける。未だに破壊痕の残るこの部屋で、玉座に続く道のみが綺麗になっていた。絨毯も敷かれなおされ、優しくセスの足を受け止める。玉座に着いた血はそのままだ。ひじ掛けに触れると、かさりとした感触があった。破け、所々に血と皺の着いた写真である。笑い方を忘れた男が必死に思い出そうとしているような、そんな歪な笑みを浮かべた父親が、セスの肩に手を置いている写真だ。

「なんと……何と、お呼びすれば?」

 ナギサの声が聞こえた。
 シルヴェンヌが一歩離れる音が鼓膜に届く。

「…………陛下だ」

 セスは写真を片手で折りたたむと、懐にしまった。

「これより、我、セス・サグラーニイが父アンヘル・サグラーニイの後を継いで魔を統べる王となる。無論、名ばかりの王で終わるつもりはない。ナギサ・クノヘ、我が右腕として、一層の忠勤を期待している」

 ナギサの目を見て言う。
 ナギサが膝をついて、頭を垂れた。

「我らが王、セス・サグラーニイ陛下とシルヴェンヌ・サグラーニイ王妃陛下に、永遠の栄光を」

 そしてセスは玉座に腰かけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ミギイロハナレ

neonevi
ファンタジー
運命に連れられるのはいつも望まない場所で、僕たちに解るのは引力みたいな君との今だけ。 ※この作品は小説家になろうにも掲載されています

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

追われる身にもなってくれ!

文月つらら
ファンタジー
身に覚えがないのに指名手配犯として追われるようになった主人公。捕まれば処刑台送りの運命から逃れるべく、いつの間にか勝手に増えた仲間とともに行き当たりばったりの逃避行へ。どこかおかしい仲間と主人公のドタバタ冒険ファンタジー小説。

南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。 (全32章です)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...