デコボコな僕ら

天渡清華

文字の大きさ
上 下
28 / 32
その4

☆☆☆☆☆☆

しおりを挟む
 大沼が俺の手を引く。俺は麦茶のコップを半分以上空けてから、大沼に従った。絡みあう指が、緊張のせいか熱く汗ばんでいる。
 大沼がベッドルームのドアを開ける。左奥の壁際にブルーのカバーで統一されたベッド。ベッドが目に入った途端、俺は興奮しすぎて頭がカーッとなっちまった。
「大沼、大沼、好きだよ」
 ベッドにもつれこみ、大沼を押し倒す。
「清文って呼んで」
 カーテンが閉めっぱなしで薄暗い部屋。押し倒した勢いで乱れた前髪。俺を見上げる瞳が、薄闇を吸いこんでしっとり輝く。色っぽいを通り越して、ヤバいくらいエロい微笑み。
「……き、清文、好きっ」
 大沼を見れず、思いっきり目をつぶって力んだ言葉になっちまった。いざ名前で呼ぶとなると、むちゃくちゃ照れる。
「……かっ、かわいい……」
 つぶやきに目を開けると、大沼は口に手を当てて、露骨にしまったという顔をしていた。
「俺かわいいって言われるの、やなんだよ」
 興奮に冷水を浴びせられたような気になり、俺は身体を起こし、唇をとがらせた。
 かわいいって言われる時は、だいたいからかうニュアンスで。俺はそれが嫌だった。ちっちゃくて悪かったな、好きでこんな身体に生まれたんじゃねえよ、って。
「知ってるよ。だから俺も遠慮して言わないようにしてたんだ」
 大沼も身体を起こし、乱れた前髪を指で梳く。すねたような声と表情。
「でも、もう無理。俺はかわいい樹が好きなんだもん」
 ぎゅっと右手を握られる。薄暗いせいもあってか、俺の顔をのぞきこむようにする大沼。
「がっかりした? でも俺は内定式の時、ちっちゃくて元気いっぱいって感じの樹に一目惚れだったんだ」
 お互い内定式で一目惚れ? 大沼の方から話しかけてくれた記憶があるけど、そんなバカな。
「こんな俺に一目惚れとか、嘘だろ」
 俺がつぶやくと、途端に大沼の表情が険しくなった。あんまり見たことのない表情。
「嘘じゃないよ。かわいいもんはかわいいんだよ。心からそう思ってるのに、言っちゃダメなの? 言わせてよ」
 眉間にしわを寄せて、まっすぐに俺を見る。痛いほどの視線。
 そんな真剣な顔でかわいいって言わせろとか言われてもな……。俺はむっつりと黙り込んだ。
「俺、樹のそういうとこは好きじゃない。人と比べても仕方ないよ。身体のことは、生まれつきだからどうにもならないじゃん。そんな自分じゃどうにもならないこと気にして、どうすんの? 俺は、ちっちゃい身体で元気にパワフルに頑張ってる樹が好きなんだよ」
 大沼には珍しく、まくし立てるように言う。真剣に怒ってるようだ。確かに俺は、よく他人と比べちまうし、うらやんじまう。悪いクセだ。でも大沼は俺の悪いとこもしっかり見てて、それでも好きだって言ってくれるのか?
「樹が味わってきたつらさとは比べものにならないだろうけど、俺もルックスのことはいじられてきたし、好きで老舗の家に生まれたわけじゃない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

寝不足貴族は、翡翠の奴隷に癒される。

うさぎ
BL
市場の片隅で奴隷として売られるゾイは、やつれた貴族風の男に買われる。その日から、ゾイは貴族の使用人として広大な館で働くことに。平凡で何の特技もない自分を買った貴族を訝しむゾイだったが、彼には何か事情があるようで……。 スパダリ訳あり貴族×平凡奴隷の純愛です。作中に暴力の描写があります!該当話数には*をつけてますので、ご確認ください。 R15は保険です…。エロが書けないんだァ…。練習したいです。 書いてる間中、ん?これ面白いんか?と自分で分からなくなってしまいましたが、書き終えたので出します!書き終えることに意味がある!!!!

悪役王子の幼少期が天使なのですが

しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

堕ちた父は最愛の息子を欲に任せ犯し抜く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

処理中です...