デコボコな僕ら

天渡清華

文字の大きさ
上 下
9 / 32
その1

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

しおりを挟む
 俺は頭をかきながら、デザートを前にうれしそうな大沼を見る。こいつは下戸で甘党だ。食うことが好きで、本当にうまそうに食う。でもガツガツ食うんじゃなくて、ゆっくり楽しく味わうって感じだ。四人兄弟で、食いもんに関しては早いもん勝ちや騙しあい、弱肉強食だったうちとは、全然違う世界で育ったんだろう。
 さすがは日本橋育ちか。それとも好き過ぎて、もうなんでもよく見えるのかな。もしこいつとつきあえても、俺達は見た目も育ちも、全然釣りあわねえんじゃねえか? そんな今さらな不安が俺を包む。
「仕事で疲れちゃった?」
 アイスやケーキ、フルーツなんかがちょっとずつ、きれいに盛りつけられた皿。生クリームを一口食べて、大沼が言う。
「いや、営業は足で稼いでなんぼだろ。そんなんじゃなくて、その……」
 かっこいいって言われて妙にドキドキしてるなんて、言えねえよ。俺は背の高いグラスの中のアイスコーヒーを、やたらとストローでかき回す。
「その、なに?」
 大沼はフォークを皿に置き、少し俺の方に身を乗り出した。キャンドルの光が、揺らめきながら大沼の顔を照らす。
「……俺のことかっこいいとか言ってくれんの、お前だけだよ」
 壁の方を向いてぼそっと言うと、大沼がなんか言った。声が小さすぎて、聞き取れない。なに? と聞き返すと、あわてて手を振る。照れたような顔。
「なんでもないよ」
 少しは脈ありだって、思ってもいいのかな。でも大沼は誰にでも優しいし、同期だから仲よくしてくれるだけかも知れねえし。俺のこと好きかも、なんてうぬぼれてコクって玉砕したら、会社で気まずくなるどこじゃねえ。確実に地獄だ。それならこのまま、仲よくやってた方が絶対いい。
「やっぱりこの店、いいよね」
 満足そうにアイスコーヒーを飲みながら、大沼が言う。この笑顔をずっとそばで見ていたいから、俺の気持ちはきっと言わない方がいい。これからもあの会社で一緒に働きながら、こんなふうに時々アフターにはうまいもん食って、仕事の話やらなにやらしながら、楽しくやっていければそれでいい。それがいい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋をしたから終わりにしよう

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 毎日をテキトーに過ごしている大学生・相川悠と年上で社会人の佐倉湊人はセフレ関係 身体の相性が良いだけ 都合が良いだけ ただそれだけ……の、はず。 * * * * * 完結しました! 読んでくださった皆様、本当にありがとうございます^ ^ Twitter↓ @rurunovel

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

魂なんて要らない

かかし
BL
※皆様の地雷や不快感に対応しておりません ※少しでも不快に感じたらブラウザバックor戻るボタンで記憶ごと抹消しましょう 理解のゆっくりな平凡顔の子がお世話係で幼馴染の美形に恋をしながらも報われない不憫な話。 或いは、ブラコンの姉と拗らせまくった幼馴染からの好意に気付かずに、それでも一生懸命に生きようとする不憫な子の話。 着地点分からなくなったので一旦あげましたが、消して書き直すかもしれないし、続きを書くかもしれないし、そのまま放置するかもしれないし、そのまま消すかもしれない。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...