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「まったく、心配したぞシュウ。さすがに驚いたよ」
まだ少し傷跡が目立つ首をストールで隠したシュウの肩を抱いて、キヨヒトは本当にほっとしたらしく、大きく息をついた。
ストールありきのコーディネートで、シュウは以前キヨヒトに買ってもらったジャケットにジーンズ姿で帽子をかぶっていた。そのままステージにも立てるだろう。
「すみません、キヨヒトさんが出た番組やネットの記事は寝ながらできる限りチェックしてました」
シュウの傷は大したことはなかったが、身の安全を確認する時間も必要で、二週間ぐらいは静養しなければならなかったことにした。「静養」を終えて動き始めたシュウには、念のためケンの部下が一人、ついてきている。
シュウとキヨヒトがデュエットした曲「たった一つの」は無事リリースされた。シュウの正体を隠し、顔をいっさい映さずに作られたミュージックビデオもインターネット上で公開され、すでに百万回を超える再生数をたたき出している。これまでずっとソロでやってきたタダキヨヒトが初めて他人と組んだと、メディアの注目度も高い。
あまりに曲への反響が大きいので、熱が冷めないうちにシュウのデビューを早めようという話が出ており、今日はその打ちあわせだった。
キヨヒトの個人事務所の、明るく清潔なミーティングルーム。モノトーンでまとめられた部屋に、事務所のスタッフやレコード会社のスタッフなどが集まっている。
熱心にシュウを口説いただけあって、キヨヒトはシングル候補の曲だけではなく、アルバム一枚はゆうに作れるだけの曲をストックしていた。そのデモ音源を聴かせながら、キヨヒトが熱っぽく語る。これからどうするのか、具体的に話が詰められていく。
打ちあわせ中にポケットでスマートフォンが震えたが、シュウは誰からの着信かも見なかった。今後を決める、大事な打ちあわせ中だ。しかし電話は、何度もかかってくる。
予感があった。ケンからか。それとも、組織の誰かからか。胸が冷えるような感覚。
「ちょっと休憩しよう」
不意にキヨヒトが言った。肩をたたかれる。電話してこいということだろう。不意だと思ったのは、たぶん電話を気にしてしまっていたからだ。シュウはさっと頭を下げ部屋を出た。
廊下の隅でスマートフォンを取り出す。やはりケンからだった。折り返そうとすると、また着信。背後には、シュウを護るべくさりげなく男が立っている。男は、盗み聞きも見張ってくれるはずだ。
『今日会えないか?』
電話が繋がるなり、ケン。切羽詰まった声だ。なにがあったのか。
「いいけど、どうした?」
あの日から約二週間。そばにいてくれないか、と言ったケンにまだ返事はしていない。
『あとどのぐらいで会える?』
シュウは白い天井を仰いだ。首の傷が引きつれるのか、かすかに痛む。長くかかっても、二、三時間というところだろう。そう告げると、ケンはある有名ホテルの名前を口にした。
『待ってるから、終わり次第来てくれ』
固く締まった声でそれだけ言うと、電話は切れた。
もしかすると、抗争に決着がついたのか。いっさい余計なことを言わないのは、よくない結果に終わったのか。
まだ少し傷跡が目立つ首をストールで隠したシュウの肩を抱いて、キヨヒトは本当にほっとしたらしく、大きく息をついた。
ストールありきのコーディネートで、シュウは以前キヨヒトに買ってもらったジャケットにジーンズ姿で帽子をかぶっていた。そのままステージにも立てるだろう。
「すみません、キヨヒトさんが出た番組やネットの記事は寝ながらできる限りチェックしてました」
シュウの傷は大したことはなかったが、身の安全を確認する時間も必要で、二週間ぐらいは静養しなければならなかったことにした。「静養」を終えて動き始めたシュウには、念のためケンの部下が一人、ついてきている。
シュウとキヨヒトがデュエットした曲「たった一つの」は無事リリースされた。シュウの正体を隠し、顔をいっさい映さずに作られたミュージックビデオもインターネット上で公開され、すでに百万回を超える再生数をたたき出している。これまでずっとソロでやってきたタダキヨヒトが初めて他人と組んだと、メディアの注目度も高い。
あまりに曲への反響が大きいので、熱が冷めないうちにシュウのデビューを早めようという話が出ており、今日はその打ちあわせだった。
キヨヒトの個人事務所の、明るく清潔なミーティングルーム。モノトーンでまとめられた部屋に、事務所のスタッフやレコード会社のスタッフなどが集まっている。
熱心にシュウを口説いただけあって、キヨヒトはシングル候補の曲だけではなく、アルバム一枚はゆうに作れるだけの曲をストックしていた。そのデモ音源を聴かせながら、キヨヒトが熱っぽく語る。これからどうするのか、具体的に話が詰められていく。
打ちあわせ中にポケットでスマートフォンが震えたが、シュウは誰からの着信かも見なかった。今後を決める、大事な打ちあわせ中だ。しかし電話は、何度もかかってくる。
予感があった。ケンからか。それとも、組織の誰かからか。胸が冷えるような感覚。
「ちょっと休憩しよう」
不意にキヨヒトが言った。肩をたたかれる。電話してこいということだろう。不意だと思ったのは、たぶん電話を気にしてしまっていたからだ。シュウはさっと頭を下げ部屋を出た。
廊下の隅でスマートフォンを取り出す。やはりケンからだった。折り返そうとすると、また着信。背後には、シュウを護るべくさりげなく男が立っている。男は、盗み聞きも見張ってくれるはずだ。
『今日会えないか?』
電話が繋がるなり、ケン。切羽詰まった声だ。なにがあったのか。
「いいけど、どうした?」
あの日から約二週間。そばにいてくれないか、と言ったケンにまだ返事はしていない。
『あとどのぐらいで会える?』
シュウは白い天井を仰いだ。首の傷が引きつれるのか、かすかに痛む。長くかかっても、二、三時間というところだろう。そう告げると、ケンはある有名ホテルの名前を口にした。
『待ってるから、終わり次第来てくれ』
固く締まった声でそれだけ言うと、電話は切れた。
もしかすると、抗争に決着がついたのか。いっさい余計なことを言わないのは、よくない結果に終わったのか。
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