43 / 61
4
4-8
しおりを挟む
「……病院の方はどうだったんだ?」
喉が乾き、声も出しづらい。ケンはペットボトルの水を勢いよく飲んだ。いつでも、ボスとして毅然とあらねばならない。ムカイの気遣いの前では、なおさらだ。
「カズキの傷はわりと浅かったので、数日中には消えちまうんじゃないでしょうか。カワカミは、本当にカズキのことを心配しているように見えました。感動的でしたよ、カズキも師匠に心配されて泣き出しやがって」
皮肉げに言い、ムカイは片方の口の端を上げた。
ダイスケはその後自分の身に起こることを、知っていたのだろうか。カズキはおそらく、察していただろう。その涙には、本当の情も多少は混じっていたか。
「シュウが撃たれたのは、報復だと思うか?」
「まだどこがやったのかも分からねえですが、警告じゃねえかと。カズキがどうこうされた程度で、報復はねえと思います」
確かにそうだ。気を引き締めてかからなければ。ケンはペットボトルの残りを一気に飲み干し、大きく息をついた。
社長室のドアがノックされ、ムカイが応える。
「ボス、シュウさんの傷はそんなに大したことはないそうです」
声に目をやると、少し黒ずんだ赤が飛びこんできた。頬から首元、着ているジャンパーの胸のあたりまでべっとり血で汚れた若い部下。
「お前はバカか、着替えてから来いや!」
ムカイが大声で怒鳴る。
「すんません! 診察も終わったので早くボスにお知らせしようと思って……」
「おうそうか、ごくろうさん。これで新しい服でも買え」
ケンは動じていないふりで、血まみれの部下に財布から適当に数万出して渡した。シュウの血のにおいを感じながらその脇を通り抜け、ゲストルームへと急ぐ。動悸が激しい。ムカイはついてこないようだ。
ボスでいることは時に苦しい。最近はなおさらだ。それでも、命ある限りは常にボスとしてあり続けなければならない。シュウに嫌がられようが、自分がボスでいたからこそ贅沢をさせることも、ひそかに守ることもできていたのだから。
事務所の奥にあるエレベーターで三階に上がる。三階には1DKの部屋が三部屋ほど並び、来客やなにかあった時に泊まれるようになっていた。
廊下にいた部下達がケンを見てさっと脇に避けながら、シュウがいる一番奥の部屋へと導く。
「お前らは出てろ」
部屋の入り口で部下の一人から診察結果などの報告を聞いた後、ケンは一言そう言うと、拳を握りしめながら奥のベッドルームに入った。
ベッドのそばに、血で汚れたシュウの服が丸められて袋に入れた状態で置かれている。ダブルベッド以外にめぼしい家具がない部屋は殺風景で、手当の時に使ったらしいダイニングの椅子が二つ、ベッドの横に置かれたままになっていた。椅子の一つにはシュウのスマートフォンやスポーツドリンクが置かれている。
喉が乾き、声も出しづらい。ケンはペットボトルの水を勢いよく飲んだ。いつでも、ボスとして毅然とあらねばならない。ムカイの気遣いの前では、なおさらだ。
「カズキの傷はわりと浅かったので、数日中には消えちまうんじゃないでしょうか。カワカミは、本当にカズキのことを心配しているように見えました。感動的でしたよ、カズキも師匠に心配されて泣き出しやがって」
皮肉げに言い、ムカイは片方の口の端を上げた。
ダイスケはその後自分の身に起こることを、知っていたのだろうか。カズキはおそらく、察していただろう。その涙には、本当の情も多少は混じっていたか。
「シュウが撃たれたのは、報復だと思うか?」
「まだどこがやったのかも分からねえですが、警告じゃねえかと。カズキがどうこうされた程度で、報復はねえと思います」
確かにそうだ。気を引き締めてかからなければ。ケンはペットボトルの残りを一気に飲み干し、大きく息をついた。
社長室のドアがノックされ、ムカイが応える。
「ボス、シュウさんの傷はそんなに大したことはないそうです」
声に目をやると、少し黒ずんだ赤が飛びこんできた。頬から首元、着ているジャンパーの胸のあたりまでべっとり血で汚れた若い部下。
「お前はバカか、着替えてから来いや!」
ムカイが大声で怒鳴る。
「すんません! 診察も終わったので早くボスにお知らせしようと思って……」
「おうそうか、ごくろうさん。これで新しい服でも買え」
ケンは動じていないふりで、血まみれの部下に財布から適当に数万出して渡した。シュウの血のにおいを感じながらその脇を通り抜け、ゲストルームへと急ぐ。動悸が激しい。ムカイはついてこないようだ。
ボスでいることは時に苦しい。最近はなおさらだ。それでも、命ある限りは常にボスとしてあり続けなければならない。シュウに嫌がられようが、自分がボスでいたからこそ贅沢をさせることも、ひそかに守ることもできていたのだから。
事務所の奥にあるエレベーターで三階に上がる。三階には1DKの部屋が三部屋ほど並び、来客やなにかあった時に泊まれるようになっていた。
廊下にいた部下達がケンを見てさっと脇に避けながら、シュウがいる一番奥の部屋へと導く。
「お前らは出てろ」
部屋の入り口で部下の一人から診察結果などの報告を聞いた後、ケンは一言そう言うと、拳を握りしめながら奥のベッドルームに入った。
ベッドのそばに、血で汚れたシュウの服が丸められて袋に入れた状態で置かれている。ダブルベッド以外にめぼしい家具がない部屋は殺風景で、手当の時に使ったらしいダイニングの椅子が二つ、ベッドの横に置かれたままになっていた。椅子の一つにはシュウのスマートフォンやスポーツドリンクが置かれている。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
【完結】終わりとはじまりの間
ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。
プロローグ的なお話として完結しました。
一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。
別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、
桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。
この先があるのか、それとも……。
こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる