5 / 61
1
1-5
しおりを挟む
ありがとう、と言いながら店長の肩をたたき、すれ違いかけて、シュウは振り返った。
「きのう新しいシェフの料理食べたけど、すげえうまいね」
店長は笑顔でうなずいた。これだけで、意図は伝わったはずだ。
シュウはそのまま、地下の厨房の方へ回った。きのうの料理を作ったシェフの顔を見てみようと思ったのだ。
厨房は広いが、新入りのシェフがどこにいるのか、すぐに分かった。入ってすぐの隅の方で真新しい白衣とコック帽を身につけて、魚をさばいている。
鼻筋が通った、真剣な横顔。仕事に集中し、きつく結ばれた薄い唇。細い首。腰から下はステンレスの厨房用什器に隠れて見えないが、やせて背が高く脚も長い。年は五歳以上は上だろうか。
まるで魚を愛おしむように丁寧に、しかし手早く作業する姿を、シュウは入口を数歩入った所に立ち止まったまま眺めた。なんとなく目が離せない。いい仕事をする人は仕事をする姿もきれいなのか、と思う。長い指の動きも、なんだか優雅だ。
「シュウさんっスよね? うちの師匠、かっこいいでしょ?」
いきなり、横からなれなれしい声。見ない顔だ。透き通るような茶髪に、よく整った顔立ち。スマートでしなやかそうな身体。年は二十代になったばかりというところか。かっこいいのはお前もだろ、と言いたくなる。
そっと見ていたのを邪魔されて、シュウは少し不機嫌に言った。
「お前、あの人の弟子なの? ならなんで白衣着てねえんだよ?」
視界の隅のシェフは、シュウ達に気づいていないのか作業を続けている。
新入りのシェフを「うちの師匠」と呼んでおきながら、目の前の若い男はウエイターの制服を着ていた。しかもつけているのは、男女どちらにも身体を売るという目印の、赤いタイ。
「こっちの方が金がよかったんで」
タイを指でたたきながらさらりと言い、男は微笑んだ。数歩進んで、作業台を挟んでシェフのそばに立つ。
「きのう新しいシェフの料理食べたけど、すげえうまいね」
店長は笑顔でうなずいた。これだけで、意図は伝わったはずだ。
シュウはそのまま、地下の厨房の方へ回った。きのうの料理を作ったシェフの顔を見てみようと思ったのだ。
厨房は広いが、新入りのシェフがどこにいるのか、すぐに分かった。入ってすぐの隅の方で真新しい白衣とコック帽を身につけて、魚をさばいている。
鼻筋が通った、真剣な横顔。仕事に集中し、きつく結ばれた薄い唇。細い首。腰から下はステンレスの厨房用什器に隠れて見えないが、やせて背が高く脚も長い。年は五歳以上は上だろうか。
まるで魚を愛おしむように丁寧に、しかし手早く作業する姿を、シュウは入口を数歩入った所に立ち止まったまま眺めた。なんとなく目が離せない。いい仕事をする人は仕事をする姿もきれいなのか、と思う。長い指の動きも、なんだか優雅だ。
「シュウさんっスよね? うちの師匠、かっこいいでしょ?」
いきなり、横からなれなれしい声。見ない顔だ。透き通るような茶髪に、よく整った顔立ち。スマートでしなやかそうな身体。年は二十代になったばかりというところか。かっこいいのはお前もだろ、と言いたくなる。
そっと見ていたのを邪魔されて、シュウは少し不機嫌に言った。
「お前、あの人の弟子なの? ならなんで白衣着てねえんだよ?」
視界の隅のシェフは、シュウ達に気づいていないのか作業を続けている。
新入りのシェフを「うちの師匠」と呼んでおきながら、目の前の若い男はウエイターの制服を着ていた。しかもつけているのは、男女どちらにも身体を売るという目印の、赤いタイ。
「こっちの方が金がよかったんで」
タイを指でたたきながらさらりと言い、男は微笑んだ。数歩進んで、作業台を挟んでシェフのそばに立つ。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
【完結】終わりとはじまりの間
ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。
プロローグ的なお話として完結しました。
一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。
別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、
桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。
この先があるのか、それとも……。
こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる