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第十六話 進化の道
ステキなステーキ
しおりを挟むそうして二人は、テーブルを挟んだ席に座った。
「…… へぇ~、それがハツモーデとかいう奴か。コウヨウ地方では『ジンジャ』がたくさんあるって聞いたことあるよ」
「私もこっちに来てから、お寺とか神社とか道場もなくてびっくりしました……」
「あ、ドージョー! 聞いたことある! 武闘家を育成する施設のことだよね」
向かい合って他愛もない雑談をするなんてことない時間だが、ナガレの脳内で幸福感が出まくっていた。
(これっておデートだよな! しかもサキミから……ふわぁ~)
好きな異性と一緒にご飯。それだけで青年&乙女は浮き足たつものである。
「お待たせいたしました。スラガンビーフの霜降りステーキです。冷めないうちにお召し上がり頂くと、閉じ込めた肉汁を堪能できるでしょう。ごゆっくり、お召し上がり下さいませ」
ウェイターが結構多い料理を持ってきてくれても、ニヤニヤ笑いを隠すのに必死で返事できない。
「ナガレさん、食べないんですか?」
「え! あ、あぁ、頂くよ。もぐもぐ…….う、うまぁーっ⁉︎」
一口かじっただけで、叫んでしまうほどの美味さ! ジューシーな肉汁が口の中で弾ける。塩加減の効いたコショウも良い。こんなに美味しいステーキがこの世にあったとは!
ほっぺに手を当てうっとりするナガレを見て、ウェイターやシェフたちはホッと安堵のため息をついた。その後方で腕を組んで立っていた彼らの上司ウルズは、表情一つ変えずに頷いた。コック棒に白いエプロンをした、カイゼル髭の、目つきが鋭い三十代のシェフである。
(ホッ……良かった……)
(ありがとう、銀髪のお姉ちゃん)
(ウルズさんに怒られないで済む……)
ウルズは怒る時、決して怒鳴ったり暴言を吐いたり威圧したりしない。だが最初に評価点を言った後、ぐうの音も出ない指摘点をズバズバ言い放って来る。その指摘は非常に的確、言い返すことが出来ないというタチの悪さがあり、シェフの心をズタズタにしてくる。料理を極めようとする道は厳しい。
「美味い! 美味しいよサキミ!」
「はむっ……分かってますよ。一緒のを食べているんですから」
「そ、そっか。へへへ……」
「ふふっ、喜んでもらえて良かったです。婆やに予約してもらった甲斐がありました」
「え、婆やって?」
少し気になることを言ったサキミ。しかしナガレが言及する前に「それにしても美味しいですね……」と話題を逸らしてしまった。
「むー、むほふ!」
「食べながら喋っちゃダメですよ、マナー悪いです……」
「…………。(ゴクン)す、すいません」
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