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第十二話 猛き冠、森林の蹄

潜入開始

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~☆~☆~☆~☆~☆~

 場面変わって、タイガスの街。もう夕暮れで、夜の闇が遠くの空から迫っている。
 そんな中、ナガレは単身タイガスギルドへ乗り込むこととなった。生活用品をはじめ色々な物を詰め込んだ、大きなバッグを背負っている。
「我々もサポートしますので、どうかご安心ください」
「この作戦はナガレ君にかかってるわ~!」
「頑張ってこいよ! 俺たちはいろいろ作戦を考えておくからなっ」
「……アンタら、楽しんでないか? まったく人ごとだと思いやがって……」
 そんな風に激励されてから、橋を渡る馬車に乗せてもらう女装ナガレ。

 ヒヒーン!
 ガタゴト、ガタゴト……。

 馬車の中、ナガレはルックから渡された一枚のメモ書きを見る。アリッサとルックで相談して、アイドルとしての立ち回りを考えてくれたようだ。

『いいか、ナガレ!
 お前は今女性なんだ。だから立ち振る舞いから女性らしさを意識するんだ。
 マイノリティがどうとかいう言い訳は聞かないぞ! お前は今から潜入捜査するんだからな。今は性別がどうこうとかいう話はナシだ!
①一人称に気をつけろ! 
 もしうっかり間違えたら、地方の方言がうっかり出てしまったとか言えばいい。だが普段は注意しろよ!
②服の露出は少なめに! 
 ナガレはヒゲとか体毛とかあんまり無いから大丈夫だが、あんまり露出が多いと思わぬところでバレるかもしれない。
③何をするにも平常心で! 
 不安だろうが、ナガレは可愛い顔なんだ! 堂々としてりゃ、誰も気づかないさ。
④どうしても困ったら……。
 ピンチに陥ってもパニックを起こすなよ! コツは女性として振る舞うことだ。お前の周囲にいる娘を演じてみせろ! アリッサねーちゃんならどうするか、ヒズマさんならどう動くか、サキミさんならどう切り抜けるか……そう考えるのがコツだ!
 色々言ったが、頑張れよ!』

 ……と、あることないこと書かれてある。きっとナガレを想って一生懸命考えてくれたのだろうが、本当にこれで大丈夫なのだろうか……?

~☆~☆~☆~☆~☆~

 そしてギルドに辿り着き、先日門前払いをくらった廊下へ向かう。普通の平日なので、たくさんの冒険者がいた。大きなテーブルを囲んで作戦会議する者、クエスト用紙が貼ってある看板に群がる者、一緒にクエストへ行く即席パーティの募集を呼びかける者……。
 だが、道ですれ違った冒険者がみんな振り向いてくるのが気になる……。
「こ、こんにちは……」
「お! そのオシャレでキュートなアーマー……もしかしてラストハーレムズへの加入希望かな?」
 この前のグラサンをかけたノッポなセキュリティの兄ちゃんが、片手を上げて迎えてくれた。どうやら見かけだけで加入希望だと分かったのだろう。大した観察眼である。
「そ、そうです。オレ……じゃなくてワタシも歌って踊って戦えるアイドルになりたいんです」
「イイネイイネ、顔も可愛いし素質もありそうだ。だけど運が良かったねぇ。先月二軍の娘が一人抜けちゃったから、今ちょうど募集してたんだ」
「……えと……きゃっ、嬉しい♪」
 大袈裟にぶりっ子リアクションを取ると、セキュリティの兄ちゃんはうんうん頷いた。
「萌えポイントも抑えてるな。いいじゃんすごいじゃん可愛いじゃん!」
「えぇ~っ、ホントですかぁ~? ワタシぃ、全然可愛くないからぁ……」
「いやいや自信を無くすことはないよ! ただ面接では、もう少し素で行ったほうが良いかもね。アイドル冒険者たるもの、礼儀もわきまえなきゃ」
「は……はい、そうですね……」
 確かにその通りだと、平静を取り戻すナガレ。しかしこのセキュリティの兄ちゃん、ナガレを加入希望者と瞬時に見破ったり、正確なアドバイスなど、ただ物ではない……もしかすると、若く見えてベテランなのかもしれない。
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