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第十一話 さらば、アタカンの子息
気まずいデート?
しおりを挟む「あむあむ……美味しいです! ナガレさんはサーモンを食べたことありますか? 生で食べるのも、コウヨウ地方ではご馳走なんですよ」
タコのスシをぱくりと頬張って、サキミが解説してくれる。ちなみに醤油やガリなどの類いは、さすがに準備できなかった。
「う……うん、そうなんだ……」
しかしナガレはちょっぴり浮かない表情。サキミと初めてお食事デートなんて、ナガレなら嬉しさで飛び上がりそのまま星になりそうだが、俯きがちで元気がない。スシもかなり余っている……。
(まるで普段と逆だな……サキミが何とか盛り上げようとしてるぞ)
(あー……ナガレのやつ、まだあの話引きずってんすよ! あんのメス男子、ウジウジしやがってほんと女心がわかってねーんだから……)
(仕方ないよ、ナガレさんには考えなきゃいけないことがいっぱいあるんだから……)
エディ店長とヴァレリーちゃんが小声でコソコソ話している。
彼の言う通り、ナガレは最近悩みが多い。ギルドを存続させるには『継続的な資金支援』『メンバー集め』『スラガン地方の異変原因調査』の三つが必要……だが、どれもほとんど進歩無し。幸運なことにメンバー集めは、サニーと言う素晴らしい人材が来てくれたのだが、後の二つはてんでダメだ。
しかし、それよりもナガレが思い詰めているのは……ケンガの存在だった。
(オレたちのあの態度が、ケンガを傷つけていたなんて。……オレはなんて酷いヤツなんだ)
ケンガは確かに、そこまで強くはなかった。それどころかナガレよりも弱かったかもしれない。だがそんなことは、彼にとってどうでも良かった。
だが、その悪意の無い行動が、逆にケンガを傷つけていた……この事実はナガレを凹ませるのに十分なハプニングだった。
「ナガレさん……やっぱり、ケンガさんの事考えてるんですか?」
サキミが同情するような目でナガレを見つめる。見下している訳ではなく、心からナガレを案じている目だ。
「う、ん……まあそれもあるけど、他にもイロイロね。たはは……せっかくご飯奢ってもらってるのに、こんなんじゃダメだな」
「いろいろって……お金ですか? それなら私が代わりに払ってあげますよ! 武器ですか、防具ですか! あ、家でも買うんですか⁉︎」
「いやいやいや急に何言ってんのサキミぃ⁉︎ そんなの受け取れないよ! それに三百、四百ダラーくらいで何とかできる問題じゃ無いんだ……」
ナガレは「とほほ……」と困ったように笑う。それを見たサキミは、手に持ったスシを二ついっぺんに口へ放り込んだ。
「ナガレさん……あなたがどんな悩みを持っているのか、私から深くは聞きません。でも私でよければいつでも相談に乗りますよ」
そう言ってサキミはナガレの手をぎゅっと握った。少し驚いて顔を上げるナガレ。
「私は……私だけは絶対に、ナガレさんの味方ですから」
「……ははは、そこまで言われちゃ参ったなぁ。少しだけ元気が出てきたよ」
またも笑うナガレ。だが先ほどのような困った笑顔ではなかった。瞳に希望を灯したいつものナガレだ。
「そうだよな! オレはやれる事をやってみる! そんじゃ……改めていっただっきまーーす!」
そう言ってスシを三貫同時に口へ放り込む。
「う~ん、美味い!」
「えへへ、元気になってくれて良かったです」
本調子に戻ったナガレを、ホッとしたように見つめるサキミだった。
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