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第十一話 さらば、アタカンの子息

ナガレ・ウエストの心配

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「ううむ……まぁその、なんだ。元気出せよ」
 流石にいたたまれなくなったジョーは、ケンガの肩にポンと手を置いた。そのまま連れて行こうとしたが……。

「くぅっ!」
 パシッ!
 ケンガはその手を勢いよく振り払う。
「……おいケンガ聞け! 気持ちは分かるが……」
「黙れっ! お前に分かるわけがない! お前なんかに、分かられてたまるかっ!」
 ジョーに耳を貸さず、腕で目を覆ってそのまま駆け出してしまう。
「おい……!」
「あっ、け、ケンちゃん! 待って!」
 我に帰ったカナとジョーの止める声も虚しく、そのまま遠くへ走り去ってしまった……。

~☆~☆~☆~☆~☆~

 その後の数日間、ケンガはずっと一人で見張りをしていた。誰とも話そうとせず、ただひたすらに高台でじっとしている。
 ナガレやタネツが「代わってやる」と言っても、無言で首を振るだけだ……。
「参ったなぁ。アイツちゃんと寝てるのか?」
「……分からん。だが思い詰めていると、人間はずっと起きていられるからな。……俺も復讐の旅をしている途中、七日くらい寝ずに過ごした事がある」
「そりゃ重症だなぁ……」
 今日も見張り台に立つケンガを物陰から覗いて、ナガレは頭を掻いた。
 カナとダンケのせいと言えばそうだが、流石に責任を押し付けることはできない。何か自分達にできることがあっただろうか……?
 

 そして、遂に帰還の日が訪れる……。

 
 いつも通り最後の作業を終えて、ナガレたちバッファロー組は帰りの準備を始めた。出張帰還の一ヶ月は今日で終了だ。
 大きな夕陽が遠く沈もうとしている。そろそろ十月になるころだ。ここを過ぎれば寒い冬がやってくる……。
 タイガスギルドが準備してくれた馬車に荷物を積み込んでいく。ヤングさんとセンチアが見送りに来てくれた。
「ご苦労さん! あたしらはまだまだ作業を続けるよ。機会があれば、またよろしくねぇ」
「ウチらはまだ期間残ってるから、ここでサイナラ! ばいびーナガレっち! オッサンたちもまたねー!」
「ああ、またなセンチア! イーターズのみんなにもよろしく言っといてくれ」
「ナガレっち、またダンスやってよね。ウチがあげぽよなコスチューム準備しとくから」
「うっさい忘れろ!」
 などと言い合っていると、ヒズマが辺りを見回して何かに気づく。

「ねぇ~、ケンガはどこ~? 一人で帰るのかしら~?」
「おや、どこにもいらっしゃいませんね」
 サニーの言う通り、どこにも姿が見えない。荷物もないからまだ来ていないだけと思えるが……。
 それを聞いたヤングさんは「え、そうなのかい?」と頭を掻いた。
「あのオトコならさっき、でかいバッグを背負って反対の出口から出てったよ。なんだいアンタら、事前に話して無かったのかい?」
「なんだって⁉︎」
 嫌な予感がする……ナガレは血相を変えて、馬車から飛び出した!
「ナガレ君! どこいくんだよ⁉︎」
「オレ、ケンガを呼びに行って来ます!ちょっと待ってて! ヤングさん! その反対の出口ってどこにある⁉︎」
「え、ええと、あっちだよ」
「分かった! ありがとう!」
 ヤングさんが指差した方へ、ナガレは全力で走っていく。
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