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第九話 月に泣く凶牙

帰還

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~☆~☆~☆~☆~☆~

 その後タイガスでフローレンスと別れ、ケンガと二人で馬車に乗って帰ってきた。深夜帯なので町はほとんど真っ暗だ。
「ふぁあ……では俺様は帰る。さらばだナガレ」
「おう……じゃあな……」
 そう言えばケンガはこの町にやって来てからどこへ住んでいるんだろうか? タイガスからこちらへ出張してきたのだから、家は向こうにあるはずだが……。
 そう思ったナガレだが、ケンガは相当疲れていそうなので聞くのは辞めておいた。……大した活躍はなかったはずだけど、頑張ってくれたのは間違いない。

 と言う訳で賃貸の階段を登り、物音ひとつしないサキミの部屋を通り過ぎて、自宅のベッドに倒れ込んだ……が、すぐに立ち上がる。
「しまった……体洗わなきゃだし鎧も脱がなきゃ……」
 そう言って起き上がったところで、ふと扉の郵便受けに手紙が入っているのが見えた。
「……なんだろ?」
 手にとって読んでみる。つらつらつらーーーー……そのうちナガレの表情が、どんどん明るくなっていった。
「これ、タネツさんからだ! 帰って来たのか!」
 
『ナガレ君へ
 しばらく留守にしてたが、やっと帰って来たぜ! 
 ちょいとターショの一件でエンペリオン地方まで行っててな、ずっと馬車に乗りっぱなしで関節が痛え……。
 てな訳でちょいと尋ねて来たんだが、返事が来ねえから多分寝てるんだろう。
 この手紙を伝言がわりに置いておくぞ!
 お土産に王都の美味い酒を買ってきたんだ。バーのマスターに預けてるから、明日みんなで飲もうぜ!
 タネツ(とヒズマ)より』

「美味い酒かぁ……成り上がると決意した日から酒なんか飲んでないけど……ま、たまには良いよね。オレも話したいし……」
 今から楽しみで、思わず独り言が溢れる。……すると郵便受けの奥にもう一つ手紙が入っているのを見つけた。ハートのシールで止められた、ピンク色の可愛い便箋だ。
「ん、なんだなんだ?」
 ペラッ……。

『ナガレへ
 スキル鑑定屋のドロシーだよ(笑)
 ここ一ヶ月、一度も店に来てくれなくて寂しいです(泣)
 スキル鑑定したくなったら、いや、用がなくてもたまには顔出しに来てください(哀)
 会って話せるだけでも、とっても嬉しいです(照)
 
 ……的なことをドロシーちゃんが愚痴ってたから、私が代わって手紙にしといたわ。
 最近ナガレちゃんの怪我が多いから、ウチの可愛い部下が心配してるのよ。
 たまには挨拶しに来なさいよね、あと遊ぶ用事があるならぜひ、ドロシーちゃんも誘ってあげて?
 イチコ』

「……ドロシーか。なんだか久しぶりに名前聞いたな。……これって友達としてマズイかも?」
 最後に話したのは多分一ヶ月も前だ。その後もすれ違った時に軽く挨拶するくらいだし……ちょっと疎遠かもしれない。最近スキル鑑定もしてないし、そろそろ見ておくべきだと思ったナガレ。
「それもそうだな、明日行ってみよう。オレが成長してるのか知りたいし。あと変なところ怪我してないか一応マディソンの病院にも行って、タネツさんとの飲み会もあるし、マスターにも依頼協力したってこと報告して、特訓もして、アリッサとルックとも話したいし……」
 やりたいこと、やるべきことが多すぎる。だが、悪い気持ちではない。
「ま、いいや。体洗いたいし、ひとまず水浴びてこよっと!」
 という訳で、着替えを持って町の大浴場(とは言っても都会のものと比べたらかなり見劣りするが……)へ向かうナガレ。フローレンスに言ったように、生きるか死ぬかという問題でなければ気の向くまま行動すれば良い。

「明日はどんな日になるかな。……ま、明日になんなきゃ分かんないよね」
 中身のない独り言を呟いて、ナガレは一人笑うのだった。
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