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第五話 荒野のスカベンジャー!

フルーツバスケット

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「あ、これ良かったらどうぞ」
 ナガレは家奥に引っ込んで、山盛りのフルーツバスケットを持ってきた。自分で食べようと思ってたのは内緒である。そのまま手渡そうとしたが……杖で両手が使えないサキミが持つことは出来なさそうだ。
「すごいっ、ありがとうございます! 味が濃いものはほとんど食べられないので、うれしいですっ!」
 サキミは素直に喜んでくれた……直後、あろうことか杖を手放し両手を差し出そうとする!
 あんなに震えていたのに杖無しで立てるわけがなく、速攻で膝から崩れ落ちた。
「あ!」
 咄嗟にナガレがバスケットを放り出し手を伸ばす。とにかく体を支えようとして……。

 ガシッ!
「だ、大丈夫ですか……あ」
「きゃっ……」

 ……そのままサキミを抱きしめてしまった。
「あ……ありがとう……ございます……」
「……わぁぁぁぁぁぁっ!? ごっ、ごめんなさい!」
 顔を赤くして俯くサキミ。ナガレはパニックを起こしそうになったが、ふと体に異変を感じた。
(あ、あれっ? サキミさんの体、すごく冷たいぞ?)
 なぜかサキミから体温が感じられない。流石に氷ほど冷たくはないが、温かみが全く感じられない。触れた腕がひんやりしていた。
「あ、あの……そろそろ離してくれませんか?」
「あ、す、すんません」
 ひとまずサキミを抱えたまま杖に寄って持たせてやる。また腕をプルプルさせながらなんとか立ち上がった。
「ごめんなさい……助けてくれたのに、失礼なことを言ってしまって。というか杖を離しちゃうなんて私ったらホントにドジですね」
「と、とんでもないっ! 初対面の女性をいきなり抱きしめるなんて、ビンタされてもおかしくないですよ! むしろこっちが謝らなきゃいけないです! すいませんでしたっ!」
 必死で謝った後、勇気を出してナガレは体について聞いてみることにした。
「あ、あの……その、さっき体に触れたとき、すごく冷たかったんですけど……それはどうしたんですか? いや言いたくなかったら大丈夫なんですけど」
 するとサキミの表情が、一瞬真顔になった。やはり言いたくなかったのだろうか……とナガレが感じた頃にはすぐ戻っていたが。
「その……ナガレさん、でしたよね。じゃあ今日はこれで。よろしければフルーツを家に運んでくれませんか?」
「あ、そうだった」
 ぶん投げたフルーツがあちこちに転がっている。洗えば大丈夫だろうが、サキミは拾うことが出来なさそうだ。全部バスケットに入れると、サキミはにっこりして部屋の扉を開ける。
「そこのテーブルに置いといてくれたらうれしいです」
「お邪魔しまーす……うわ、立派なベッドですね」
 思わず率直な感想が漏れた。テーブルやら椅子やらが置いてある、少なからず多すぎずの普通の部屋だった。しかし窓際に巨大なベッドが置いてあったのだ。
「わざわざありがとうございます。今後ともよろしくおねがいしますね」
「はい!」
 元気よく答えたナガレ。結局冷たい体について教えてはくれなかったが、黙っておいた。
(仲良くなったらまた聞けばいいか!)
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