55 / 492
第三話 誇りとプライドを胸に
死戦
しおりを挟む~☆~☆~☆~☆~☆~
「皆さん、なるべく静かに避難を! 騎士様の後に続いてください!」
崖上では、すでにルーカスの指示で町民が避難を始めている。しかしアリッサたちはまだ動かなかった。
「お、おいアリッサちゃん! 早く逃げねえと! ほら、みんな避難はじめてるぞ!」
「でもナガレ君が! あ、あたしほっとけないよ!」
アルクルの声にも聞く耳を持たず、少し離れたところのナガレたちを見守るアリッサ。すぐ横で身を乗り出すルックも離れようとしない。
「ああもう、お前らに何が出来るってんだよ……! どうせ勝敗なんか分かりきっているだろうが……!」
イライラを隠せないアルクルだが、彼自身も避難しないようだ。おぶっていたレンを下ろし、自分も腕を組んで崖下を見つめている。
「アルクル……無理することはないぞよ。お前には辛いことになるかも知れぬ」
「……うるさいですよ、マスター」
レンの忠告に、アルクルはそっぽを向いた。その表情から、感情を窺い知ることはできない。
崖下では、ナガレが駆け出したところだった。
「だりゃあぁぁぁっ!」
一番槍はナガレだ。舞うようにマルチスタッフを振り回し、ガラガラマムシの太いお腹をぶっ叩く!
ドスッ!
「ぐ……硬い!」
少し入っても跳ね返される感じはまるで、巨木を殴りつけたようだ。分厚い筋肉に阻まれ攻撃が通らない。その時ガラガラマムシが頭を振り上げ、ナガレに向けてヘッドバット!
ズガァン!
「ぐわぁっ!」
強烈な一撃に、ナガレの体が宙を舞った。
「ナガレッ! 大丈夫か!」
「く……大丈夫! オレに構うなっ!」
しかし特訓の賜物か、咄嗟にマルチスタッフを構えガードしていたようだ。ダメージを抑えて空中で態勢を立て直し、受け身を取って立ち上がった。
「ちょっとタネツ! こいつって弱点とかないの⁉︎」
「俺が知るか! とりあえず叩けるところをぶっ叩け! うぉぉぉっ!」
続いてタネツとヒズマが同時ジャンプで飛びかかる。タワーシールドとロングソードを同時に振り上げ、渾身の一撃を叩き込む!
「うぉらぁっ! シールドバッシュ!」
「居合斬りっ!」
バキッ! シャキーン!
その二撃は、振り下ろされたガラガラマムシの頭部にクリーンヒット。するとガラガラマムシが少しだけ怯む!
「ギシャッ!」
「は、入った!」
手応えのあった攻撃に、タネツが感情を上げる……が、ガラガラマムシの素早い反撃!
「ギシャアーッ!」
ガキン!
「きゃあっ⁉︎」
顎を大きく開き、空中のヒズマに噛みついた! 空中で体を逸らし直撃を避けたヒズマだが、少し掠っただけで軽々と吹き飛ぶ。器用に着地したが、キバの攻撃をくらった左手を押さえている。
「く……左手の動きが鈍いわ。ガラガラマムシの麻痺毒ね……!」
「キシャーッ!」
続いて敵はタネツを狙い頭を振り下ろす。だが素早く着地したタネツは、間一髪でガードが間に合う!
「ふんぬっ!」
ガキィン!
大人の体が隠れるほどの巨大盾、タワーシールドを掲げるタネツ。分厚い金属の防御は非常に高い……はずなのだが、ガラガラマムシのパワーはそれ以上! 強烈な頭突きをくらったタネツは、数メートルも後ずさった。
ズザザザザーッ!
「く……なんてパワーだ! 俺とタワーシールドの重さを合わせりゃあ、どんだけの体重が分からんぞ!」
「それを吹き飛ばすほどの攻撃ってことか……! こんなところで負けるかよっ、絶対に勝つ! はぁぁぁぁぁっ!」
再び走り出すナガレ。今度は大地を蹴って高く跳躍、大きな頭を叩く!
バキッ!
「ギギッ⁉︎」
軽いナガレの攻撃でも、明確にガラガラマムシが怯む。
「やっぱり! 弱点は頭かっ!」
明らかに手応えが違う。しかし相手は突然頭を下ろし、勢いよくタックルを放つ!
「ギシャーッ!」
ガンッ!
「ぐあっ!」
空中では踏ん張りが効かず、ナガレはまるで木の葉のように軽々と吹っ飛んだ。硬い地面に叩きつけられ、そのままゴロゴロ転がっていく。
「はぁはぁ……そ、そうか。あいつの頭は確かに弱点だけど、それはあいつの武器でもある。下手に狙えば、確実に反撃をもらってしまうのか」
空中では踏ん張りが効かない都合上、防御でダメージを軽減できない。それに頭部付近に行けば、ガラガラマムシにとってヘッドバットや噛みつき攻撃など強い攻撃を喰らわせるチャンスだ。
「くそっ、厄介だな。……だけど裏を返せば、胴体への攻撃は反撃をもらいにくい。回復のタイミングをしっかりすれば……!」
ナガレは腰のポーチに入っている回復薬の数を手探りで確かめる。個数は……五つ。タネツとヒズマが何個持っているのかは知らないが、数には限りがあるため大切に使わなくてはいけない。
「ヒズマ! あんた回復する魔法とか使えないの⁉︎」
「あいにくだけど、魔法なんて全く使えないわ。でも仲間を回復するなら、こうよ! はいナガレ、パスっ!」
そう言うとヒズマは回復薬のビンをナガレに投げつけた!
「うわ!」
パシッ!
「ナイスキャッチ! お互いピンチの時は、こうやってアイテムを投げ渡しましょう」
「よし、わかったぜ! おいっ、ヒズマ! シビレ取り薬だ!」
続いてタネツがヒズマに薬を投げ渡す。
「ありがとタネツ~! でもあんな強い攻撃、数発でもくらったらヤバいわよ! 回復薬の数にも限りがあるから、回復のタイミングに気をつけて!」
「ごくごく……ぷはっ! よーし、体力回復! まだまだこれからだっ!」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
苺月の受難
日蔭 スミレ
恋愛
髭面強面のおっさんに白々としたムキムキマッチョのハゲ頭……。
日々お見合い写真を渡される宝石商の令嬢、ストロベリーは非常に鬱屈としていた。「女として生まれたからには、政略結婚の道具になる。だけどこれは流石に、ありえない」そう思ったストロベリーは「もっとしっかり淑女教育を受けたい」と学院転入を申し出て逃亡を図る事にした。
目標はいい所の坊ちゃんを捕まえて学院ロマンス! からの婚約破棄! だが到着早々、共学制ではなく女子校と知りストロベリーは自分の早とちりを呪う事になる。それでもルームメイトになったレイチェルは親しみやすい少女で一安心。
しかし初日早々……シャワー浴中の彼女に鉢合わせて、ストロベリーはレイチェルの重大な秘密を転入初日に知ってしまう事となる。
そう、彼女は男だったのだ。
可愛い女装令息とおしゃまで元気な女の子の青春ラブコメ×ファンタジーです。
※制作者の友人達を登場人物のモデルとして使用させて頂きました。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
【完結】イケメン旦那と可愛い義妹をゲットして、幸せスローライフを掴むまで
トト
児童書・童話
「私も異世界転生して、私を愛してくれる家族が欲しい」
一冊の本との出会いが、平凡女子をミラクルシンデレラに変える
錬金術師カレンはもう妥協しません
山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」
前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。
病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。
自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。
それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。
依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。
王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。
前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。
ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。
仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。
錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。
※小説家になろうにも投稿中。
~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女
にせぽに~
ファンタジー
何処にでもいそう………でいない女子高校生「公塚 蓮」《きみづか れん》
家族を亡くし、唯一の肉親のお爺ちゃんに育てられた私は、ある日突然剣と魔法が支配する異世界
【エルシェーダ】に飛ばされる。
そこで出会った少女に何とプロポーズされ!?
しかもレベル?ステータス?………だけど私はレベル・ステータスALLゼロ《システムエラー》!?
前途多難な旅立ちの私に、濃いめのキャラをした女の子達が集まって………
小説家になろうで先行連載中です
https://ncode.syosetu.com/n1658gu/
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移
龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。
え?助けた女の子が神様?
しかもその神様に俺が助けられたの?
助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって?
これが話に聞く異世界転移ってやつなの?
異世界生活……なんとか、なるのかなあ……?
なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン?
契約したらチート能力?
異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな?
ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない?
平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。
基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。
女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。
9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。
1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる