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初陣 赤炎郎との闘い1

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「おはようございます」

 帳千哉とばりせんやはそう言って、まださほど強くない朝日の光線の中で、湖ノ音茉莉の、新しい家のチャイムを鳴らした。
千哉はTシャツの上にもう一枚前開きの白いシャツを羽織っているが、すでに汗がにじみ出している。裾の広いズボンはねまでの丈なので多少は涼しいものの、今日も真夏日になることは容易に想像できた。
 戸が開き、中から茉莉の母親のかおるが出てくる。ノーメイクのまま、ショートカットの髪を適当にピンで止めており、カーキ色の飾らないすとんとした上下と合わせて、飾り気のない様子が強調されている。

「わあ、千哉くんね? 大きくなって」
「お久し振りです。僕ももう高校生ですから。祖父の言いつけで、ご挨拶に。ところで、こんな朝早くにお邪魔したのは……」

 にこやかにしていた二人の顔が、厳しくなった。

「茉莉のことね? お察しの通り、さっき家を抜け出していったところ。気配を読んで、止めようとしてくれたの?」
「ひとまず、状況を聞き出すくらいはできればと思ったんですが、遅かったですね。祖父とも話したんですが、本人の状態を見て、どんな処置にするか決めようと。霊力の一切を断つことも考えてはいますが、かなり難しいだろうとは思っていました。あの呪物が体内にある限り……」

 馨が苦笑する。

「そうね。そうできたら、よかったんだけど。あたしも多少は霊力があるから、分かるのよ。怪異を感じ取る才能を持った者は、怪異と無関係ではいられない。無理矢理にあやかしとの関係を断てば、そのほうが不幸を招くことになる……」
「おばあさん――八澄やすみさんの遺言でもあったそうですね。いずれ、茉莉の中に封じられた牙の持ち主と、茉莉が出会うことがあれば、本人たちの好きにさせてやれと。きっと悪いようにはならないからと」

「一応、茉莉を生むまではあたしの中にあの牙宿ってたんだけどね。茉莉に託したような形になって、よかったのか、悪かったのか」

 馨は、朝日のほうに目を向けた。
 突き刺すような眩しさに、直視はできない。太陽は肉眼ではしかとは見えない。反対に、暗がりやこの世界の裏で起きているせいで、目には見えないものもあまたある。

「あたしの母さんのころとは時代が違うし。今なにが起きていて、あたしたちはなにをしてやればいいのか……どうか、娘には幸せになってほしいのだけど」
「もちろんです。そのために僕は、一度茉莉のもとを離れ――」

 千哉は馨とは別の方向、裏界線のある地域のほうへ目をやった。

「今、この町で彼女を迎えるのですから」

 家の奥から、「千哉くんかい?」とやや間延びした声が聞こえた。
 馨と千哉は苦笑して、「そうです」「そうよ」と、茉莉の父親である東司に答えた。



「あと五分ってとこかな。しくじるなよなー、みんな」

 切風のそれは、独り言だった。
 眷族はすでに全員配置についており、木々の狭間に隠れた切風の横には茉莉だけがいる。

「茉莉、見える? あれがおれの家で、犬神屋敷ってやつ」

 切風が茂みの向こうを指さした。茉莉がうなずく。
 五十メートルほど離れているのでよく見えない部分もあるが、木造の家屋が建っている。門の前や屋根の上に、人間ではない影がいくつかうごめいていた。この建物を占拠しているという敵の一団だろう。

「はい。平屋にしては大きいというか、高いですね……二階建てに近いような」
「一部だけなんだけど、天井高くしたくってさ。居心地いいっしょ、そのほうが」

「あ、みなさんが集まりやすいようにですか」
「あー、それもあるけど。おれ、あそこで菓子屋やろうと思ってたんだ」

 犬神屋敷に出入りしている者の動向を見つめていた茉莉が、思わず切風のほうを振り向く。

「お菓子屋さん……ですか?」
「そう。人間でも妖怪でも、おれが茶を入れて菓子を出して、おいしく楽しく幸せになってくれる場所な。作りたかったなー。人間なら、也寸志と八澄には来て欲しかったな。死んじまうんだもんなー」

「わ、私が行きますよ! もしお菓子屋さんができたら!」
「お。ほんと?」

「はいっ。祖父母の代わりにはならないかもしれませんけど、人間でもお邪魔していいんですよね?」
「はは。いいとも」

 切風が破顔した。いつものへらへらした顔とは違った、素直な笑顔に、茉莉の目が引きつけられてしまう。
 気を散らすな、と茉莉は自分に言い聞かせて、視線を再び犬神屋敷に向けた。
 しかし、この話題についてはもう少し触れたい気持ちになったので、

「私、お小遣いとかアルバイト代を工面して通いますからね」

 と声を潜めて言う。

「んん。それなら、おれの店でバイトすればいいじゃん」

 茉莉は、またも切風に向き直ってしまった。

「切風さんの、ところで」
「そ。もちろんバイト代は人間の金で払うから。まかないに菓子をつけてやろう。お、時間だ」

 その最後の一言で、茉莉は集中力を取り戻した。
 犬神屋敷は、森の中を切り開いたようにしてぽっかり空いた平地に建てられている。
 屋敷の周囲ぐるりは、今茉莉たちがいるのと同じくらいの五十メートルほどの距離を空けて、うっそうとした木々に囲まれていた。
 屋敷からは一本道が伸び、これが唯一のまともな往来で、森の中へと続いている。
 茉莉たちが奇襲をかけるとして、もちろん素直にその道を使って攻め込むわけはない。……のだが。
 切風の眷族が五人ほど、人間形態で、まさにその一本道を、弓に矢をつがえながら犬神屋敷へ向かって突進していった。

「我らは信州妖怪、切風党! 卑しき『赫の王』とやらの手下ども、いざ尋常に出会え!」

 その宣言を受けて、屋敷の中にいたのだろう妖怪たちがわらわらと出てきた。
 その形は様々で、猿や鹿に似たもの、二足歩行しているもの、蛇のような細長い体躯のものなど、いかにも表の世界とは別種の種族たちだった。
 敵は全部で三十匹ほどと茉莉は聞いてはいるが、もっと増えている可能性もある。それを言えばもっと少ない可能性もあるのだが、あまり期待を抱くようなことは控えたほうがいいだろうと、五十匹程度を相手取る覚悟はしていた。

 表に出てきた敵は、石つぶてや、切風たちに比べればお粗末な出来の弓矢を携えている。
 そこへ、犬妖たちが最初の攻撃を射かけた。
 しっかり敵を引きつけて放たれた矢は、数本が命中し、いきなり敵妖怪を三体ほど屠った。
 彼らの矢は、切風によると、金属の矢じりがついていない、先のとがったただの木の矢らしい。
 しかし材料にしているのはナンテンやエンジュなどの霊木で、刺されば妖怪には効果充分だという。

「おのれ、まだ残党がいやがったか。おいみんな出ろ、犬どもの奇襲だ!」

 その声を機に、さらに犬神屋敷から増援が現れた。
 多い。
 茉莉がざっと数えただけでも、二十匹はいる。それらが、五人の犬妖に向けて一気に駆け出した。猿や人型の妖怪の手には、鉄製らしい刀や槍などの武器を持っている。

「あれ。あいつら思ったより統制が取れてんだな。見なよ茉莉、つぶてを投げる後衛部隊と、突っ込んでいく前衛とがいる」
「はい。それに、屋敷の中には多分、今出てきたのと同じかそれ以上の人数がいますよね……。妖怪の数え方って、匹なのかにんなのか分かりませんけど」

「適当だよ、そんなの。お、こっちの五人は引き返すね」

 二三度矢を放った犬妖たちは、反撃を受ける前に、さっと引き返して道を逆に走り始めた。
 二十匹の敵はそれを追って、森の中へ消えていく。

「うし、あの二十匹はこれでよし。残りはどんだけいんのかな」
「そうですね。では、第二隊が攻撃を」

 その茉莉の言葉と同時に、ガアアアア、とカラス――頼蘭の大きな声が空に響いた。
 敵の先発隊が、充分犬神屋敷から離れた合図だった。

「第二隊、出たぞ」
「はい」

 一本道とは屋敷を挟んで反対側の茂みから、五匹ほどの犬妖が現れた。やはり弓矢を持っている。
 やあ、やあ、と声をあげながら屋敷に突っ込んでいった。それに応じて、屋敷からは新手が現れてくる。
 これも二十匹程度はいるように見えた。当初の三十匹というのを、少なく見積もっておいてよかったと茉莉は思う。

 五人の犬妖は、また多少矢を射かけたが、一隊目よりも慌てた様子で、茂みの中へ引き返していった。に十匹はそれを追っていく。

「よし、茉莉。おれらも行くか」
「はいっ」

 切風と茉莉が立ち上がる。
 すでに、牙は茉莉の体内から抜き取って、切風の手にあった。
 二人は、物音を立てないように――もっとも茉莉にはそんな心得はなかったので、大いに切風に助けられながら――移動を開始した。



 犬神屋敷の中で、一体の熊の変化へんげが、息を荒くしていた。戦闘態勢に移りかけている。

「来やがったな。大方、魏良党とやらの残党だろうが」

 年を経たツキノワグマが妖怪に変じた存在である赤炎郎せきえんろうは、「赫の王」の片腕として先遣隊を任され、この南信州に攻め込んでいる。
 かねてからこの一帯で最も力を持っていた者といえば「牙の王」と呼ばれる犬神だったはずだが、その噂も絶えて久しい。とうに死んだか、よそへ移ったのではあるまいか。現に、犬妖の一党は赤炎郎軍団の奇襲一つで簡単に瓦解してしまった。
 犬妖と犬神の違いというのは明確にあるわけではないが、多くの人や怪異からの尊崇や敬意を集めることで、いつしか犬妖が犬神と呼ばれるようになる。自称したからと言ってとがめらるようなこともないが、少なくとも「牙の王」の失踪後、信州に犬神と呼ばれる怪異が新たに現れたという話は聞かない。ならば、烏合の衆か。
 赤炎郎の横では、カエルの変化や猿の妖怪である側近が、深々とこうべを垂れていた。

「さようでございましょうな」とカエルが言う。二足歩行しているカエルの身の丈は百五十センチ近くあり、夜道で人間がこの大きさのカエルなどに出会ったら、腰を抜かす間もなく失神しそうではある。一応、ぼろきれのようながら着物を着ているのと、人の言葉を話すので、遠目にはずんぐりした小男のように見えなくもないが。

「最初に街道から出てきたやつらは何匹だった?」
「は、物見によれば五匹ほどとのことです」

「今、裏から出てきたほうは?」
「そちらも五匹ほど」

 ぶうん、と赤炎郎が鼻を鳴らす。
 カエルと猿が縮み上がった。
「赫の王」の軍は、力こそが全ての、武闘派の妖怪群だった。その片腕ともなれば、軽い爪の一振りで、並みの妖怪の二匹や三匹は吹き飛ばされてしまう。
ただでさえ熊の変化は、ただの獣だったころは臆病な性格のものが多いのに、その反動のように気性が荒いことが常だった。機嫌を損ねないようにしなければ、いつ気まぐれで叩き潰されるか分からない。
「赫の王」とその直参にとって、雑兵などいくらでも代わりのきくコマに過ぎない。
自力救済と実力行使が旨の妖怪たちをそんな風に無下に扱うだけあって、「赫の王」の力はあまりに圧倒的だという。
カエルも猿も、そんな王を背後に持つ赤炎郎に逆らうつもりなど毛頭なかった。

「てめえら、どう思う」
「どう、とおっしゃいますと」

 カエルは震える声で答えた。こうした、要領を得ない質問が最も困る。気に入らない答を返してしまう可能性が高いからだ。だから答にならない程度の返答をする。赤炎郎の中ですでに答が決まっており、それを言いたいだけなら、これで片がつく。

「最初のは当たり前だがおとりだ。二回目のほうは、こちらが本隊だとするなら、数が少な過ぎる。なんぼなんでも、最初のほうと同じ数ってこたあねえだろう。この奇襲が失敗すれば、さすがにもう再起不能だろうによ」
「ははあ、確かに。必勝を期したにしては、ちと頼りない数ですな」と答えたのは、猿だった。

「もうそれくらい、兵隊の頭数が足らねえのか? いや、それならもっと別の作戦を立てそうなもんだ。戦力分散の愚って知ってんだろ? おっと知らねえか、お前らごときじゃ」

 カエルは、胸中で「あんただってどうせ昨日今日聞きかじったんだろ」と唱えたが、むろん口には出せない。代わりに、赤炎郎の見せ場を作ってやる。

「では、赤炎郎様はどうなさればよろしいとお考えで?」
「おう。おれは、第三波が来ると見た」

「さらにもう一群がですか?」
「そうだ。それも今度はここ、この砦の中に突っ込んでくる。おれの首を取りにな。今までの二群は、その状況を作るため、邪魔な雑兵を追い払いたかったがため。本命は第三波だ」

 猿が飛び上がって、

「さっすが、赤炎郎様!」

 と手を叩く。
 カエルは、確かに、この熊やはり戦に関しては知恵が回るなと感心した。的を得ているように思える。
 これから敵の本隊が攻め込んでくるのかと思うと肝が冷えたが、それでも、兵はまだ十匹ほどがまだ犬神屋敷に残っていた。

 返り討ちにしてくれる。なにより、ここには無敵の赤炎郎もいるのだ。この熊は昨日も、魏良党の中の腕自慢だろう大猩猩を軽々と打ちのめしていた。あれで昨日の勝利は決したのだと言ってもいい。
 逆に、赤炎郎を一騎打ちで倒せるような達人が相手方にいたのなら、一気に窮地に陥るが。
 それでも、この数と赤炎郎で取り囲めば、そうそう不覚はとるまい。

 カエルは勝利を確信して、彼らが居間に使っている部屋の傍らを見た。
 昨日、魏良党を破った時にとらえた捕虜が、すっかり弱り切って転がっている。戦勝した後、ここに運び込んでからも、一晩かけていたぶってやっただけあって、息も絶え絶えだった。
 そいつはすでに、爪の先あたりが風化しかけている。風に還りかけているのだ。
 信州など、この程度のものだ。飛騨や越後に比べれば、山深く攻めにくいというだけで、大したことはない。土地の面積はそこそこあるが、峠を越えるごとに別勢力となり、連帯できない。これなら、「赫の王」の配下が力押しするだけで、遠からず陥落するだろう。

 さあ、来い、魏良党残党の本隊とやら。ここで今一度打ち破って、我らが信州攻略の一番手柄とせん。負けることなど、今の我らにはありえんのだからな。
 カエルは、すっかり意気込んで腕をしごいている赤炎郎を見て、にたりと笑った。



「凄いねー、茉莉。ほんとに敵の増援が来ないじゃん」
「はい。少人数での奇襲が二度もあったので、三度目に備えているはずです。どちらも私たちの隊の数を上回る追っ手を出しているので、心配もしていないんでしょう」

 切風と茉莉は、速足で移動を続けている。
 目的地まで――目的とする敵がいるところまで、あと少しだった。

「じゃ、茉莉、ちょっと隠れてろよ。……行くぜ」
「はい。切風さん、気をつけて」

 切風が、黒い剣を軽く振った。
 常に薄暗い裏世界では、太刀筋どころか、その刀身さえ茉莉には見えにくい。
 先ほど試したところでは、剣と茉莉は三十メートルほどは離れることができる。それでも、切風が戦闘で敵に切り込んでいる間は、茉莉は完全に無防備になる。
 怖くないと言えば噓だった。
 しかし、今起きている事態に目を背けることだけはできなかった。
 霊が見えるせいでつらい思いをしてきた。
 牙が守ってくれたからことなきを得てきた。
 ただそれだけのことだったはずの日々は、今これから始まることのためにあったのだと思えた。
 切風が一気に加速する。
 そして、目指すべきものが、茉莉の視界にも映った。



 最初に犬神屋敷に攻め込んだ犬妖の第一隊は、すでに森の奥への逃げ込んでいた。
 二十匹の追っ手は、はぐれないよう一塊になってその背を追っている。
 しかしその速さには、徐々に差がついてきていた。赤炎郎側にも、野犬の変化へんげがいる。彼らは猿の変化よりも速く、猿の変化は蛇やムカデの変化よりも速い。
 やがて、あと一息で追いつくという時に、犬妖五人が左手の茂みに飛び込んだ。

「やれ、見失うな!」

 追っ手もまた同様に飛び込んでいく。
 そして、十数メートル進んだところだった。

「撃て!」

 高い声が響いた。
 その瞬間、速く鋭いなにかが、一斉に追っ手に降り注いだ。
 霊木の矢である。

「なっ!?」「ぐわっ!?」

 瞬く間に三匹ほどが射抜かれて倒れた。うち二匹は急所を貫かれていて、即死だった。
 ばかな、と猿の変化は叫んだ。追っていた五人の背中はまだ茂みの奥に見えている。それなのに、矢はどこから飛んできたのだ? いや、今のは確かに、上から降り注いできた。
 相手は犬妖ばかりが五人。人間の姿に変化へんげしているといっても、もとは犬だ。そうそう木登りなどできまい。なにより、やつらの背中は五人共のそれが向こうに見えているのだ。
 理不尽な思いを抱えたまま猿が上を見ると、そこには次弾を弓につがえる人型の犬妖が何人か見えた。
 待ち伏せか、とようやく気づく。
 姿を現していたのは五人。そして人の姿のままここまで追わせられるうちに、すっかり人間のような戦い方を――平地での戦いになるのだと無意識に思い込んでしまっていた。
 こちらのほうが数だって多かった。昨日、一度勝っていた。
 全てが慢心につながっていた。自分たちが狩る側だと、勝手に決めつけていた。

「撃て!」

 女の声と共に、再び斉射される。
 最初に犬神屋敷でぱらぱらと射られたような、適当な調子ではなかった。
 完全に息の合った、一糸乱れぬ矢ぶすまが、十本ほど降りかかってくる。
 かわしようもなく、また数匹が倒れ伏した。しかも、ほとんどが後ろから背中を撃たれている。
 すでに背後に回り込まれ、退路は断たれていた。

 残党の約半数が、「それでも敵は樹上なのだから、後ろへ走れば突っ切って切り抜けられる」と思った。
 もう約半数が、「射手のいない前方に逃げれば逃げ切れる」と思った。
 それ以外の数匹が、「横に逃げればいい」と思った。

 それぞれが統制なく駆け出した。
 後ろへ向かった群れは、樹上からの一斉射撃を受けて全滅した。
 前へ向かった群れは、さっきまで逃げまどっていた五人の犬妖が振り返って射撃してきた、その矢に撃たれて死んだ。
 横へ逸れた数匹は、待ち伏せ部隊が犬の姿に変身して追いすがり、無防備な背後から襲い掛かってこれも全滅させた。
 切風党第一隊の戦いは、完勝に終わった。
 そして彼ら――十五人の犬妖と一羽の大鴉――は、犬神屋敷へ取って返した。
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