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<第一章 罅(ひび)に満ちた空の下で>
第二十九話 四黒星のサヴォーネとヨーギ
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■
「基地長! アンジビル基地長! バリアが破れます!」
その報告を聞いても、アンジビルはもううろたえなかった。
「ああ。救援なき籠城に、もとより生きる目はない。やむを得ん、打って出るぞ。バリアを切る。全機、出撃準備!」
そこへ待ったをかけたのは、副基地長のドルスだった。
「お待ちください、アンジビル基地長。今バリアを切れば、左右からのビームをもろに浴びます!」
「聞いておらんかったのか。バリアを切らずとも、同じことだ。さあ、パイロットは出撃準備をしろ!」
「だ、だめだあお前たち! バリアを切るな! まだ破れてはいないんだぞ!」
基地内のスタッフは、右往左往し始めた。このガルツヴァッサの堅牢さを知らないものは、サントクレセイダにはいない。そのため、ここに集まった者は、多かれ少なかれ、前線でありながら安住の地だという意識があった。その甘さが、今、致命的な手おくれを招こうとしている。
アンジビルは思わず、
「名城、内より落つ……か」
と呟いた。
その時、大きな音と振動が基地を襲った。
ドルス副基地長は、泡を吹かんばかりになって天を仰ぐ。
「ちょ、直撃です! 敵の新手により、東のゲートに着弾! バ、バリア――破れました!」
それを皮切りに、激しい爆音が次々に轟き始める。
基地内には恐慌が立ち込め、最早戦える状態ではなかった。
アンジビルは、最後の指示を出す。
「私がレグルスで出る! ここには三機のレグルスがある、まだ戦況は覆せるぞ。パイロット序列上位の二人は、私に続け!」
■
「ああ。敵、出てきた」
間延びしたヨーギの声に、サヴォーネは
「そうだな。……もう少し、しゃんと言えないのか」
と答える。
彼らの眼前には、三機の最新鋭機が迫ってきていた。グレーにカラーリングされたレグルスは、BBシューターを手に突進してくる。
左辺ではなくこの右辺に固まってやってきたのは、こちらの方がシヴァの機体数が少ないからだろう。
「冷静ではあるが、相手が悪かったな。行くぞヨーギ。僚機に正面で止めさせて、私たちが左右から挟む」
■
天下に聞こえた基地が炎上していくのを、艦上のキルティキアンは静かに見下ろしていた。
視界スクリーンの一部を拡大して、三機のレグルスが、四黒星の二人に突っかかっていくところを確認する。
サヴォーネとヨーギは、見事な連携で、敵を圧倒していた。
レグルスのビームは空を切り、アームナイフを出しても準エース機にかわされ接近させてもらえない。やむなく、僚機の遠距離戦用機体を襲おうとするが、そちらの方がさらに距離を空けられ、追いすがる前にビームを撃ち込まれてしまう。
やがて、ヨーギのビームを受けたレグルスが一機、炎上した。情報漏洩を防ぐため、致命傷を受けるとすぐに自動で自爆してしまう。
続けてもう一機、さらに一機。
レグルスが全滅した頃になって、ガルツヴァッサの中から、残存していた戦闘機体がぱらぱらと出てきた。数はそれなりにいるようだったが、指揮系統もなければパイロットの士気も高くはない。基地からの援護射撃もなく、あっという間に、サヴォーネらに狩られていく。
そして、浮遊戦艦に、ガルツヴァッサから通信が入った。
副基地長のドルスが、降伏を申し入れている。
「受け入れてやれ。エネルギーの無駄が省ける」
そう言ったキルティキアンに、副官が小声で尋ねた。
「この副基地長はどうなさいますか?」
「殺しも拘束もしなくていい、捨扶持をくれてやれ。処罰すれば、今後、降る者がいなくなる。だが、こいつにはなんの情報も権力も与えるな。そして閑職に追いやられたのとは真逆の待遇を受けていると、サントクレセイダに情報を流せ。上手くすれば、投降者が増えるだろう」
■
やがて、艦に戻ってきたサヴォーネとヨーギは、パイロット控室で、なにやら揉めていた。
取り急ぎの指示を出し終えたキルティキアンがそこを通りがかり、中を覗くと、ヨーギの癖のある黒髪を、サヴォーネが上から押さえながら小言を言っている。
「だから、あんな攻撃のかわし方はよせと言っているんだ、危ないだろう!」
「大丈夫。ヨーギは、才能がある。大丈夫ぅ」
ヨーギの一人称は、ヨーギである。
「その才能を、命と共に失ったらどうすると言っているんだ!」
キルティキアンは苦笑して、その場を離れた。
胸中で、敵となった弟へ告げる。
――ザックス。おれのもとには、才ある者が集い、時代を変えようとしているぞ。お前はどうだ。愚民どもに、いいように使われてはいまいな。
答える者はいない。
キルティキアンは、再び艦橋へと足を向けた。
「基地長! アンジビル基地長! バリアが破れます!」
その報告を聞いても、アンジビルはもううろたえなかった。
「ああ。救援なき籠城に、もとより生きる目はない。やむを得ん、打って出るぞ。バリアを切る。全機、出撃準備!」
そこへ待ったをかけたのは、副基地長のドルスだった。
「お待ちください、アンジビル基地長。今バリアを切れば、左右からのビームをもろに浴びます!」
「聞いておらんかったのか。バリアを切らずとも、同じことだ。さあ、パイロットは出撃準備をしろ!」
「だ、だめだあお前たち! バリアを切るな! まだ破れてはいないんだぞ!」
基地内のスタッフは、右往左往し始めた。このガルツヴァッサの堅牢さを知らないものは、サントクレセイダにはいない。そのため、ここに集まった者は、多かれ少なかれ、前線でありながら安住の地だという意識があった。その甘さが、今、致命的な手おくれを招こうとしている。
アンジビルは思わず、
「名城、内より落つ……か」
と呟いた。
その時、大きな音と振動が基地を襲った。
ドルス副基地長は、泡を吹かんばかりになって天を仰ぐ。
「ちょ、直撃です! 敵の新手により、東のゲートに着弾! バ、バリア――破れました!」
それを皮切りに、激しい爆音が次々に轟き始める。
基地内には恐慌が立ち込め、最早戦える状態ではなかった。
アンジビルは、最後の指示を出す。
「私がレグルスで出る! ここには三機のレグルスがある、まだ戦況は覆せるぞ。パイロット序列上位の二人は、私に続け!」
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「ああ。敵、出てきた」
間延びしたヨーギの声に、サヴォーネは
「そうだな。……もう少し、しゃんと言えないのか」
と答える。
彼らの眼前には、三機の最新鋭機が迫ってきていた。グレーにカラーリングされたレグルスは、BBシューターを手に突進してくる。
左辺ではなくこの右辺に固まってやってきたのは、こちらの方がシヴァの機体数が少ないからだろう。
「冷静ではあるが、相手が悪かったな。行くぞヨーギ。僚機に正面で止めさせて、私たちが左右から挟む」
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天下に聞こえた基地が炎上していくのを、艦上のキルティキアンは静かに見下ろしていた。
視界スクリーンの一部を拡大して、三機のレグルスが、四黒星の二人に突っかかっていくところを確認する。
サヴォーネとヨーギは、見事な連携で、敵を圧倒していた。
レグルスのビームは空を切り、アームナイフを出しても準エース機にかわされ接近させてもらえない。やむなく、僚機の遠距離戦用機体を襲おうとするが、そちらの方がさらに距離を空けられ、追いすがる前にビームを撃ち込まれてしまう。
やがて、ヨーギのビームを受けたレグルスが一機、炎上した。情報漏洩を防ぐため、致命傷を受けるとすぐに自動で自爆してしまう。
続けてもう一機、さらに一機。
レグルスが全滅した頃になって、ガルツヴァッサの中から、残存していた戦闘機体がぱらぱらと出てきた。数はそれなりにいるようだったが、指揮系統もなければパイロットの士気も高くはない。基地からの援護射撃もなく、あっという間に、サヴォーネらに狩られていく。
そして、浮遊戦艦に、ガルツヴァッサから通信が入った。
副基地長のドルスが、降伏を申し入れている。
「受け入れてやれ。エネルギーの無駄が省ける」
そう言ったキルティキアンに、副官が小声で尋ねた。
「この副基地長はどうなさいますか?」
「殺しも拘束もしなくていい、捨扶持をくれてやれ。処罰すれば、今後、降る者がいなくなる。だが、こいつにはなんの情報も権力も与えるな。そして閑職に追いやられたのとは真逆の待遇を受けていると、サントクレセイダに情報を流せ。上手くすれば、投降者が増えるだろう」
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やがて、艦に戻ってきたサヴォーネとヨーギは、パイロット控室で、なにやら揉めていた。
取り急ぎの指示を出し終えたキルティキアンがそこを通りがかり、中を覗くと、ヨーギの癖のある黒髪を、サヴォーネが上から押さえながら小言を言っている。
「だから、あんな攻撃のかわし方はよせと言っているんだ、危ないだろう!」
「大丈夫。ヨーギは、才能がある。大丈夫ぅ」
ヨーギの一人称は、ヨーギである。
「その才能を、命と共に失ったらどうすると言っているんだ!」
キルティキアンは苦笑して、その場を離れた。
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――ザックス。おれのもとには、才ある者が集い、時代を変えようとしているぞ。お前はどうだ。愚民どもに、いいように使われてはいまいな。
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