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第三章 鳥籠詩
一話 再燃
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◇
時は遡る。
あの日、藜獄島を脱出した芽唯は、絶望の淵にいた。
楓を救えなかった。
一緒に連れ出す事が出来ず、置き去りにしてしまった。
勇太を犠牲にしてしまった。
まさか自分を庇ってくれるだなんて、思いもしなかった。
それらの自責の念が芽唯を追い詰め、苦しめる。
ただただ喪失感が胸を締め付けた。
そんな芽唯を放っておけなかったのだろう、渚が自分の住む家に迎え入れてくれた。
もう帰る場所もないのだ、あの家に戻っても辛くなるだけ。
そう思った芽唯は大人しく世話になる事を決めた。
幸い渚は関西で一人暮らしだったらしく、ワンルームに二人は少し狭かったが住めない事もなかった。
けれど暫くは塞ぎ込んでいた芽唯。
何をする気にもなれない。
アイドルの仕事もモデルの仕事も、行っていない。
そもそも関東にも一度も戻ってない。
マネージャーからの電話も一切出ないで、一日中を座り込んで過ごして。
そんなある日、渚が芽唯に提案をしてくる。
「なあ芽唯、力が欲しいんとちゃうか?ホンマは楓さんを助けに行きたいと思っとるんやろ?」
「……。」
俯いたまま黙りこくる芽唯に対し、渚はそのまま続ける。
「ならウチら憑き神の本拠地に来いへんか?ゆーとくけどなあ、憑き神の連中はみんなちゃんと強いで?あんたも特訓して強なって、早う楓さんを助けに行かんとやろ?」
「……夜御坂さんが生きてる保証がないでしょ。あんなとこに一人でなんて、無理よ」
「本当にそう思うか?じゃあ先ずはこれを見てみい」
「……何?」
渚は自分のiPhoneに保存されている画像を表示し、芽唯に見せて来た。
「これが藜獄島に入る直前の時間や」
15時43分の時間を表した、何の変哲もない画像だった。
それが何なんだ、芽唯は訝し気な表情をして渚を睨む。
「ほんで、これが藜獄島から出た時の時間や」
再び表示されたのは、またしても15時43分の全く同じ画像であった。
一体それが何になるのか、芽唯には分からない。
「ウチうっかりしてて、時間をスクショしたまま船に置いてったんや。今回は何分間いられるか思うてな。したら出た時、時間が変わってへん事に気付いたんや。つまり何が言いたいかいうと、藜獄島の中の時が止まってるっちゅうことや。これは全ての禁地においても言える事らしい」
「……だからそれが何なの?」
渚は禁地の説明を簡単にして、更に楓の置かれている状況を語り始める。
「多分やけど、楓さんは止まった時の中におる。難しい事はよー分からんが、多分楓さんはこのままやと永遠に島の中を彷徨うっちゅーことや。誰かが助けに行かんと。とまあ、これがウチの彼氏の見解や」
「……何それ、また自慢話?大体あんたさっきから多分ばっかじゃん。夜御坂さんを救える方法なんてほんとにあるの?」
渚は大きく頷いて見せる。
「ある。けどそれは、あんたの気持ち次第や。希望は最後まで捨てたらあかん、これは憑き神の理念でもある」
「知らないし、憑き神の事なんて。……はぁー。じゃ、さっさと行くわよ」
「お?やっぱあんたはそのくらいやないと、張り合いないわ」
可能性が示される事を、何処かで待っていたような気がする。
だからそれがゼロじゃない事を示された今、芽唯に迷いは一切なかった。
ここでいつまでも嘆いていても仕方ない、芸能界でも思い切りの良さで仕事を増やして来たのだ。
そうして最後の頼みの綱である、憑き神へと向かう事を芽唯はすぐに決めた。
だがその前に芽唯はまず、マネージャーに電話を掛けた。
芸能界を引退する事を手短に伝え、契約している仕事に対しての違約金を払う趣旨も伝えた。
マネージャーは必死になって止めて来たけど、芽唯は決して折れなかった。
渋々折れたマネージャー、けれど最後まで芽唯の評価を鑑みてくれて、違約金等の請求はこれから支払われる予定の給料から差し引いてくれると言った。
CMなどの企業に関する仕事は請け負っていなかったが、それでもそれなりの借金が発生するだろうと覚悟はしていた。
けれどマネージャーが事務所に何とか掛け合ってくれるそうで、芽唯に大きな損害も出ないようにしてくれるそうだ。
ただもしも落ち着きを取り戻した後、復帰する気があるならば。
必ずまた同じ事務所でやって欲しいと、その要望だけは伝えて来た。
芽唯は二つ返事で了承し、その電話を終えた。
「なんや、ずいぶんとスッキリしたよーな顔しとるな?てっきり芸能人やなくなって寂しくなるんかと思ったわ」
「まあね。でも、何だかんだ人には恵まれてたんだなーって思って。じゃ、次は――」
そうして芽唯は再びスマホを耳に当てる。
出たのは四世家の同僚である、蒼だった。
「――何だ、お前から電話なんて珍しいな。今日は雪でも降んのか?」
「天気の話なんてどうでもいい。真面目に聞いて。これから話すのは、本当に起きた出来事だから」
芽唯はこれまでの経緯の全てを蒼に話した。
「……おいおい、マジかよ!勇太さんは本当に無事なのか!?」
「一命は取り留めた。でも危険な状態に変わりはない。だからあんたに連絡したの、藤堂さんを任せたわよ」
「……お前はどうするつもりだ。その夜御坂楓って奴は、島に残ったままなんだろ?」
「それはこれから……あ、ごめん。充電が切れるわ。最後に一つ。藍葉朔耶の失踪先は何処かの禁地かもしれないから。じゃ、後はよろしく」
「は!?お、おい――」
ツー、ツー。
通話はそこで途切れ、電話は強制的に終了となった。
それを横で聞いていた渚は、芽唯の足りていなかった説明に対して口出しをする。
「芽唯、あんた肝心な事ゆーてないやろ。禁地の時間が止まってるから助けられるんやで?それ伝えな向こうはアホちゃうんかって思うだけやん」
「あ。まあいいでしょ。蒼ならどうせそれにも気付くだろうし」
「ホンマてきとーやなー」
そう、蒼の苦労はここから始まっていたのであった。
だが芽唯のスマホも充電器が無い為、これ以上の連絡手段は現状なかった。
その内また掛ければいーや、そう思い芽唯はその場で立ち上がる。
「じゃ、渚。案内して。時間が惜しいから、出来れば手短に強くなりたい」
「無茶苦茶言うな自分。ま、お婆なら何とかしてくれるかー」
そうして芽唯は修行を積む為に憑き神の本拠地を目指す。
けれどこの先、予想だにしない展開が待ち受けていた――。
時は遡る。
あの日、藜獄島を脱出した芽唯は、絶望の淵にいた。
楓を救えなかった。
一緒に連れ出す事が出来ず、置き去りにしてしまった。
勇太を犠牲にしてしまった。
まさか自分を庇ってくれるだなんて、思いもしなかった。
それらの自責の念が芽唯を追い詰め、苦しめる。
ただただ喪失感が胸を締め付けた。
そんな芽唯を放っておけなかったのだろう、渚が自分の住む家に迎え入れてくれた。
もう帰る場所もないのだ、あの家に戻っても辛くなるだけ。
そう思った芽唯は大人しく世話になる事を決めた。
幸い渚は関西で一人暮らしだったらしく、ワンルームに二人は少し狭かったが住めない事もなかった。
けれど暫くは塞ぎ込んでいた芽唯。
何をする気にもなれない。
アイドルの仕事もモデルの仕事も、行っていない。
そもそも関東にも一度も戻ってない。
マネージャーからの電話も一切出ないで、一日中を座り込んで過ごして。
そんなある日、渚が芽唯に提案をしてくる。
「なあ芽唯、力が欲しいんとちゃうか?ホンマは楓さんを助けに行きたいと思っとるんやろ?」
「……。」
俯いたまま黙りこくる芽唯に対し、渚はそのまま続ける。
「ならウチら憑き神の本拠地に来いへんか?ゆーとくけどなあ、憑き神の連中はみんなちゃんと強いで?あんたも特訓して強なって、早う楓さんを助けに行かんとやろ?」
「……夜御坂さんが生きてる保証がないでしょ。あんなとこに一人でなんて、無理よ」
「本当にそう思うか?じゃあ先ずはこれを見てみい」
「……何?」
渚は自分のiPhoneに保存されている画像を表示し、芽唯に見せて来た。
「これが藜獄島に入る直前の時間や」
15時43分の時間を表した、何の変哲もない画像だった。
それが何なんだ、芽唯は訝し気な表情をして渚を睨む。
「ほんで、これが藜獄島から出た時の時間や」
再び表示されたのは、またしても15時43分の全く同じ画像であった。
一体それが何になるのか、芽唯には分からない。
「ウチうっかりしてて、時間をスクショしたまま船に置いてったんや。今回は何分間いられるか思うてな。したら出た時、時間が変わってへん事に気付いたんや。つまり何が言いたいかいうと、藜獄島の中の時が止まってるっちゅうことや。これは全ての禁地においても言える事らしい」
「……だからそれが何なの?」
渚は禁地の説明を簡単にして、更に楓の置かれている状況を語り始める。
「多分やけど、楓さんは止まった時の中におる。難しい事はよー分からんが、多分楓さんはこのままやと永遠に島の中を彷徨うっちゅーことや。誰かが助けに行かんと。とまあ、これがウチの彼氏の見解や」
「……何それ、また自慢話?大体あんたさっきから多分ばっかじゃん。夜御坂さんを救える方法なんてほんとにあるの?」
渚は大きく頷いて見せる。
「ある。けどそれは、あんたの気持ち次第や。希望は最後まで捨てたらあかん、これは憑き神の理念でもある」
「知らないし、憑き神の事なんて。……はぁー。じゃ、さっさと行くわよ」
「お?やっぱあんたはそのくらいやないと、張り合いないわ」
可能性が示される事を、何処かで待っていたような気がする。
だからそれがゼロじゃない事を示された今、芽唯に迷いは一切なかった。
ここでいつまでも嘆いていても仕方ない、芸能界でも思い切りの良さで仕事を増やして来たのだ。
そうして最後の頼みの綱である、憑き神へと向かう事を芽唯はすぐに決めた。
だがその前に芽唯はまず、マネージャーに電話を掛けた。
芸能界を引退する事を手短に伝え、契約している仕事に対しての違約金を払う趣旨も伝えた。
マネージャーは必死になって止めて来たけど、芽唯は決して折れなかった。
渋々折れたマネージャー、けれど最後まで芽唯の評価を鑑みてくれて、違約金等の請求はこれから支払われる予定の給料から差し引いてくれると言った。
CMなどの企業に関する仕事は請け負っていなかったが、それでもそれなりの借金が発生するだろうと覚悟はしていた。
けれどマネージャーが事務所に何とか掛け合ってくれるそうで、芽唯に大きな損害も出ないようにしてくれるそうだ。
ただもしも落ち着きを取り戻した後、復帰する気があるならば。
必ずまた同じ事務所でやって欲しいと、その要望だけは伝えて来た。
芽唯は二つ返事で了承し、その電話を終えた。
「なんや、ずいぶんとスッキリしたよーな顔しとるな?てっきり芸能人やなくなって寂しくなるんかと思ったわ」
「まあね。でも、何だかんだ人には恵まれてたんだなーって思って。じゃ、次は――」
そうして芽唯は再びスマホを耳に当てる。
出たのは四世家の同僚である、蒼だった。
「――何だ、お前から電話なんて珍しいな。今日は雪でも降んのか?」
「天気の話なんてどうでもいい。真面目に聞いて。これから話すのは、本当に起きた出来事だから」
芽唯はこれまでの経緯の全てを蒼に話した。
「……おいおい、マジかよ!勇太さんは本当に無事なのか!?」
「一命は取り留めた。でも危険な状態に変わりはない。だからあんたに連絡したの、藤堂さんを任せたわよ」
「……お前はどうするつもりだ。その夜御坂楓って奴は、島に残ったままなんだろ?」
「それはこれから……あ、ごめん。充電が切れるわ。最後に一つ。藍葉朔耶の失踪先は何処かの禁地かもしれないから。じゃ、後はよろしく」
「は!?お、おい――」
ツー、ツー。
通話はそこで途切れ、電話は強制的に終了となった。
それを横で聞いていた渚は、芽唯の足りていなかった説明に対して口出しをする。
「芽唯、あんた肝心な事ゆーてないやろ。禁地の時間が止まってるから助けられるんやで?それ伝えな向こうはアホちゃうんかって思うだけやん」
「あ。まあいいでしょ。蒼ならどうせそれにも気付くだろうし」
「ホンマてきとーやなー」
そう、蒼の苦労はここから始まっていたのであった。
だが芽唯のスマホも充電器が無い為、これ以上の連絡手段は現状なかった。
その内また掛ければいーや、そう思い芽唯はその場で立ち上がる。
「じゃ、渚。案内して。時間が惜しいから、出来れば手短に強くなりたい」
「無茶苦茶言うな自分。ま、お婆なら何とかしてくれるかー」
そうして芽唯は修行を積む為に憑き神の本拠地を目指す。
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