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第4章~更なる力を求めて~

第23話

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 そんなの嘘だ、と怒鳴りかけて、すんでのところで堪える。

 反応しちゃダメだ。無視を貫き通すんだ。こんな幻聴に惑わされてはいけない。幻聴は全て嘘なのだ。あの兄が、自分をそんな風に思っているわけないじゃないか……。

「だけどお前ときたら、一切疑うことなく私を本当の兄だと思い込んでるし。『兄上、大好き』ってすごく懐いてくるし。何なんだろうね、お前は。自分とお兄ちゃんが似てないって、全然疑問に思わないわけ? 自分がどこから来たとか、自分は何者なのかとか、そういうこと全く考えないの?」
「…………」
「ある意味、究極の幸せ者だね。自分が何者かも考えず、ただ憧れの人を追いかけているだけでいいんだから。腕っぷしが強くなってランクが上がっても、お前はまだ何者でもない。兄と対等になりたいと望みながら、心のどこかでは既に白旗を上げきっている。それに気付いてもいない。だからいつまで経っても強くなれないんだ」
「……っ……」

 痛いところを突かれ、アクセルは息を呑んだ。

 兄と血が繋がっていない云々のところは嘘だろうが、それ以外はほとんど図星である。早く兄に追いつきたい、対等な関係になりたいと思っているのに、心のどこかで「永遠に敵わない」と諦めているのだ。

 何しろ兄はアクセルが物心ついた時から――いや、この世に生まれ落ちた瞬間から「目上の存在」として側にいた。それが当たり前だったから、「兄が上で、自分は下」という意識が、骨の髄まで沁み込んでしまった。どんなに追いかけても追いついた気がしないのは、おそらくそれが原因だろう。
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