アビーの落とし穴

夢咲まゆ

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第13話

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「……ジェームズ……」

 これでもリデルは長い年月を生きている。残酷な死だって何度も目にしてきた。普通の人間のように、家族が焼け死んだ現場を見て取り乱すこともない。

 でも……だからと言って、悲しみがなくなるわけではない。

「ねえ先生……ジェームズは……? ジェームズはどこ……?」

 アビーが服の裾を掴みながら、涙混じりに尋ねてくる。

 さすがにすぐには答えることができず、リデルは言葉を選びながら小さく口を開いた。

「ジェームズは……」

 その時だった。

「ぶはあぁっ! 危なかったぁぁ!」
「…………えっ?」

 積み上がった木材の山が崩れ、中心から人間の手が生えて来た。ガシッと柱を掴んだかと思うと、隙間から煤で汚れた顔がひょっこり現れた。

「あ、お帰り、師匠。なんか大変なことになっててすいません」
「ジ、ジェームズ……!?」
「……って、のぉぉ! 落ちる、落ちる! 師匠、助けてください~!」

 ハッとしてリデルはジェームズに駆け寄った。足場の悪い木材を踏み分け、手を掴んでジェームズを引っ張り上げる。

「あ~、ありがとうございます、助かりました」
「ジェームズ……きみ、よく無事だったね」
「アビーの落とし穴に入ってたんスよ」

 と、ジェームズは笑った。

「穴、塞ぐ途中でよかったっス。完全に塞いじゃってたら俺、今頃丸焼けでした」
「落とし穴に……?」
「ええ。土の中に隠れていれば、上が燃えててもなんとかやり過ごせますからね。それより師匠、はいコレ」

 ジェームズがシャツの下から分厚い本を出す。それはリデルが大切しているあの魔導書だった。

「どこも焦げてないでしょ? これだけは死守しなきゃと思って、身体張って守ったんスからね」
「…………」
「それより師匠、今日という今日は魔法使いにしてくださいよ! こんな役に立つ弟子、なかなかいないでしょ。もう二年も待ったんだから、いい加減俺にも印を……」

 最後まで聞いている余裕はなかった。リデルはジェームズを抱き寄せ、その額に唇を押し当てた。

 不意の動作に反応できなかったのか、ジェームズは目を見開いたまま固まってしまった。
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