13 / 14
第13話
しおりを挟む
「……ジェームズ……」
これでもリデルは長い年月を生きている。残酷な死だって何度も目にしてきた。普通の人間のように、家族が焼け死んだ現場を見て取り乱すこともない。
でも……だからと言って、悲しみがなくなるわけではない。
「ねえ先生……ジェームズは……? ジェームズはどこ……?」
アビーが服の裾を掴みながら、涙混じりに尋ねてくる。
さすがにすぐには答えることができず、リデルは言葉を選びながら小さく口を開いた。
「ジェームズは……」
その時だった。
「ぶはあぁっ! 危なかったぁぁ!」
「…………えっ?」
積み上がった木材の山が崩れ、中心から人間の手が生えて来た。ガシッと柱を掴んだかと思うと、隙間から煤で汚れた顔がひょっこり現れた。
「あ、お帰り、師匠。なんか大変なことになっててすいません」
「ジ、ジェームズ……!?」
「……って、のぉぉ! 落ちる、落ちる! 師匠、助けてください~!」
ハッとしてリデルはジェームズに駆け寄った。足場の悪い木材を踏み分け、手を掴んでジェームズを引っ張り上げる。
「あ~、ありがとうございます、助かりました」
「ジェームズ……きみ、よく無事だったね」
「アビーの落とし穴に入ってたんスよ」
と、ジェームズは笑った。
「穴、塞ぐ途中でよかったっス。完全に塞いじゃってたら俺、今頃丸焼けでした」
「落とし穴に……?」
「ええ。土の中に隠れていれば、上が燃えててもなんとかやり過ごせますからね。それより師匠、はいコレ」
ジェームズがシャツの下から分厚い本を出す。それはリデルが大切しているあの魔導書だった。
「どこも焦げてないでしょ? これだけは死守しなきゃと思って、身体張って守ったんスからね」
「…………」
「それより師匠、今日という今日は魔法使いにしてくださいよ! こんな役に立つ弟子、なかなかいないでしょ。もう二年も待ったんだから、いい加減俺にも印を……」
最後まで聞いている余裕はなかった。リデルはジェームズを抱き寄せ、その額に唇を押し当てた。
不意の動作に反応できなかったのか、ジェームズは目を見開いたまま固まってしまった。
これでもリデルは長い年月を生きている。残酷な死だって何度も目にしてきた。普通の人間のように、家族が焼け死んだ現場を見て取り乱すこともない。
でも……だからと言って、悲しみがなくなるわけではない。
「ねえ先生……ジェームズは……? ジェームズはどこ……?」
アビーが服の裾を掴みながら、涙混じりに尋ねてくる。
さすがにすぐには答えることができず、リデルは言葉を選びながら小さく口を開いた。
「ジェームズは……」
その時だった。
「ぶはあぁっ! 危なかったぁぁ!」
「…………えっ?」
積み上がった木材の山が崩れ、中心から人間の手が生えて来た。ガシッと柱を掴んだかと思うと、隙間から煤で汚れた顔がひょっこり現れた。
「あ、お帰り、師匠。なんか大変なことになっててすいません」
「ジ、ジェームズ……!?」
「……って、のぉぉ! 落ちる、落ちる! 師匠、助けてください~!」
ハッとしてリデルはジェームズに駆け寄った。足場の悪い木材を踏み分け、手を掴んでジェームズを引っ張り上げる。
「あ~、ありがとうございます、助かりました」
「ジェームズ……きみ、よく無事だったね」
「アビーの落とし穴に入ってたんスよ」
と、ジェームズは笑った。
「穴、塞ぐ途中でよかったっス。完全に塞いじゃってたら俺、今頃丸焼けでした」
「落とし穴に……?」
「ええ。土の中に隠れていれば、上が燃えててもなんとかやり過ごせますからね。それより師匠、はいコレ」
ジェームズがシャツの下から分厚い本を出す。それはリデルが大切しているあの魔導書だった。
「どこも焦げてないでしょ? これだけは死守しなきゃと思って、身体張って守ったんスからね」
「…………」
「それより師匠、今日という今日は魔法使いにしてくださいよ! こんな役に立つ弟子、なかなかいないでしょ。もう二年も待ったんだから、いい加減俺にも印を……」
最後まで聞いている余裕はなかった。リデルはジェームズを抱き寄せ、その額に唇を押し当てた。
不意の動作に反応できなかったのか、ジェームズは目を見開いたまま固まってしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。
章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。
真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。
破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。
そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。
けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。
タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。
小説家になろう様にも投稿。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
婚約者に愛されたいので、彼の幼馴染と体を交換しました【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「すまない。でも、全部きみのためなんだ」
ランデリック様はそう言って、私との婚約を解消した。……許せない、きっと、『あの女』にたぶらかされたのね。半年ほど前から、ランデリック様のそばをウロチョロするようになった、彼の幼馴染――ウィネットに対する憎しみが、私に『入れ替わり』の呪文の使用を決意させた。
『入れ替わり』の呪文は、呪文を唱えた者と、使用対象の心を、文字通り、『入れ替え』てしまうのである。……呪文は成功し、私の心はウィネットの体に入ることができた。これからは、私がウィネットとなって、ランデリック様と愛を紡いでいくのよ。
しかしその後、思ってもいなかった事実が明らかになり……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる