冥府の花

栗菓子

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第13話 酷薄

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エレナは恵まれて育った。生粋の王族階級の中で最も美しく才能もあり教養もある一際光輝ける花として育った。
名君と謳われる父、女神とも讃えられた美貌と叡智に満ちた母を持ち、エレナはその愛を一心に受けた。他者には厳格な兄弟もエレナには甘かった。
エレナは結果的に誰よりも美しく聡明で優しい姫君として育った。
王宮の中ではそれを肯定する者しかいなかったのでエレナはそれを疑問に思うことなく過ごした。
それがエレナの後の生涯に亀裂を生じる事になった。
エレナの世界には、瑕疵一つなく、何もかも美しい事だけだった。美しい城、美しい家族、美しい楽園、どれもエレナにとっては当たり前の世界だった。
美しい美しい美しい・・。それがどれほど歪であることがエレナには分からなかった。エレナは他者の事を考えなくても生きて居られる境遇、身分に育ち傲慢で無知な善良な姫君として王国に君臨した。
その陰で踏み躙られる弱者も気に賭けず、その存在さえも意識に入らなかった。
その無意識の排除本能が仇になった。
幼きころから、共に育ち成長した婚約者であった美しい線の細い男をエレナはもう忘却しかかった。エレナは思い出す度憤懣やるかたない思いに駆られた。
あの方が罪を犯すなんて・・。嗚呼罪は何であったのか?何か悪魔でもあの方に憑かれたのかしら。嗚呼あの方を追放する時、もう一人の幼馴染の人が悪を追放したと高らかに宣言したわ。わたし。なんだかそれが最も正しい事のようで彼に追従してしまった。つられて微笑んでしまった。
エレナは今だに罪は何であったの定かではなくなった。
聡明?聡明な者がそれを何故追求しないのか?
エレナは心のどこかで自分を容赦なく糾弾する声を聴いた。だがエレナは気のせいだと打ち消した。結局エレナはエレナの世界を守りたかったのだ。泥に塗れた婚約者は穢い人形でしかなかった。
エレナは無意識に酷薄に、婚約者を不要な者とした。
それが王族であり、エレナの権利と疑わなかった。傲慢で無知で愚かな女。それがエレナの本性でもあった。

今になって婚約者の罪が冤罪ではないか?と疑惑が民や、王家や貴族界隈で広がり続けた。 冤罪?そんなはずはない。だとしてもわたしは悪くはない。エレナは己を振り返らずに自分を正当化した。この時、振り返っていたらと思うが、エレナは最悪の選択をし続けた。現状維持であり、噂を無視した。
次第に世界の亀裂は広がり続けた。
エレナの顔、美しい顔がひび割れて崩れ落ちる。素顔が露わになる。
エレナは既に妊娠していた。共に追放した男だ。デイウスといった。デイウスも美しい男だった。エレナは名誉のために泥を祓う婚約者が必要だった。だから彼を選んだ。それは正しかったとエレナは今でも思っている。
嗚呼厭だわ。落ち着かないと・・エレナは精神安定の香油を嗅いだ。この匂いを嗅ぐと落ち着くのだ。
そういえば・・デイウスには兄弟がいなかったわ。デイウスの家では一子のみという特殊な家だった。エレナはそれを疑問に思った。一子のみでは、家の存続も危うういので普通は妾や側室を迎え入れて予備を生ませていた。
しかしデイウスの父はあえて一子のみとし、妻だけを抱いていた。
変人だわ。エレナの感想はそれに尽きた。
そこに底知れない闇があったとも知らずにエレナはそう一刀両断した。
エレナは最期に己の無知さを思い知らされることになった。

酷薄で無知な箱庭の純粋培養のお姫様。

それがエレナの真実だった。

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