冥府の花

栗菓子

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第12話 達磨

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達磨は古代では世界の在り様、法ともいう偉大な意味を持つ反面、隠語もある。
売春婦と言う意味だ。不浄と穢れの名も持つ偉大なる名。
古代の小国では『達磨』と呼ばれる畏敬と蔑視に塗れた女がいた。
女はありふれた女だった。端女だった。そんな女が達磨になったのは、下衆な男に誑かされて売られたという陳腐な話によって始まる。
不思議と女は淡々と諦念を抱いていた。薄々予感していたのだろうか?女の従順さに下衆な奴隷買いも首を捻った。男はそんな女が目障りだった。
「さっさと連れていけ!」それが一時は情を交わした女との別離だった。
「お前の男も残酷だな・・。」流石に奴隷買いも眉を顰めるほど男は酷かった。
女は沈黙を守った。実は男は女の妹の恋人だった。凡庸でありふれた女に反して美しく優秀で気立ての良い妹に嫉妬し、邪恋を抱いたのが、女だった。
何故か男が妹より劣った姉の誘惑にのったのはどういうわけかと疑惑も抱いたため、男の残酷な本性が露わになった瞬間、奇妙に納得したものだ。
女は敗北とともに自分を恥じた。肉欲と邪恋に満ちた女を男が選ぶはずもない。男にはどこか潔癖な面もあった。そういった違和感を見逃していた女にも非があった。
軽薄に媚びを売り、妹を裏切っている姉を見る男の目にはどこか蔑視の光がなかったか?ないとはいえなかった。浮かれていた頭には見えなかったのだ。
女は己の愚かさによって負けたのだ。そう理解していた。
女は愚かな反面、悟った面もあった。矛盾した女に苛立つ者もいた。偶々恋した男だったのだ。女は男の残酷な本性を目覚めさせてしまったのだ。
女は項垂れた。女は男の都合の良い女であった。どこかで女は消えゆく者として自分でも納得していた。
男の偽りの愛でも女は喜んで受け入れた。それこそ醜い淫売婦のようにだ。
女の醜い心が凡庸な運命を狂わせた。奇妙にも女は落ち着いていた。代償はあったが解放感があった。どこか超越した心を女は持っていた。
女は野蛮な男に愚弄され、四肢を切断された。だが意識は超越したところにあった。文字通り女は生きた人形として『達磨』と成り果てた。
女は娼婦として数多の男を受け入れた。何故か女は生き延びた。
醜き男も居れば、何故こんな美しい男が?と思うような客もいた。
「なれの果てよ。まだ生きたいか?」
「わからない。果てまで生きる。」
女は女神のように無垢に微笑んで男を見た。
男は醜く顔を歪めて女の穴に男の醜い一物をあてがった。乱暴な挿入に呻いたが耐えた。女は男の美しい蒼い瞳を見た。女の無様な姿が目に映っていた。女は無感動に
女自身の姿、男の心を覗いた。海の澄み切った色だ。美しいが脆い色だ。
男は子どものように動揺した。男は女を生きる人形に見立てた。
男は自分の堕落した経緯を語った。
「俺は貴族だった。友人として育った大好きな二人がいた。男と女だ。俺は将来美しい女と結婚し、輝かしい道を歩むはずだった。だが俺の友人はそれが気にいらず、俺に冤罪を着せ、奈落へと追いやった。彼らは笑っていた。あの顔が忘れられない。どうしても・。」
醜く鬼のように顔を歪めながら「許せない」と呟いた。
男の純粋な愛と裏切られた痛切な思いに女は無感動に何故?彼らは男を裏切ったのかと思った。この純粋さが目障りだったのか?女は自分の醜さを自覚していた。
だから耐えられたが、男は純粋な分脆い。
美しい男に女は女神のように告げた。
「悔しいなら許せないなら生きなさい。」
美しい男は醜い『達磨』を奇妙な目で見た。それが男と『達磨』の出会いだった。
「『達磨』よ。俺の物に成れ。」
幾夜も激しい情交を重ねた。男の憤怒と哀切、情欲を女は受け入れた。
夢のような瞬間だった。悪夢のような至福のような交わりだった。
美しい男は『達磨』によって癒され、復讐の炎が灯った。

「『達磨』いやダーマよ。俺がそう名付ける。俺の復讐を見届けろ。」
ダーマは黙って頷いた。


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