冥府の花

栗菓子

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第6話 傾城Ⅲ

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 傾城って男や君主を滅ぼす女・・運命の女って言いますよね。わたしはこれが嫌い。そんなに男って浪漫主義なのかしら。いいえ破滅主義なのよ。男の中の男は決して破滅しないでしょう。そういう人は自己愛も激しいし超男尊女卑でもある。

わたしはどうしても男の都合の良い道具として運命に導かれたとしか思えない女だと思いますわ。きっと彼は何もかも嫌いで破滅したかったんでしょうね。
本物の傾城は男性ですわ。偶々不運にも出会い何かがかみ合って不幸へと運命の歯車が回ってしまったんですわ。
わたしは苦界に生きて、男の脆弱性と女の意外な逞しさも知っている。
女は決して生きることを諦めないでしょう。
そうじゃない女は余程誇り高いか脆い女だったのでしょう。
わたしは残念ながら下衆な女で醜悪な面を見続けてきましたから彼のような美しい方ははじめて見ましたわ。

嗚呼嗚呼。あの方はわたしのような下賤な醜女のような輩が嫌いだったんですってね。でも何故かわたしは彼にそれほど痛い目に合いませんでしたわ。
運なのでしょうね。わたしは美しくないから愛嬌で殿方に媚びをうって生き延びておりましたわ。
自尊心の高い女ほどわたしのような生き方が我慢ならないのかもしれませんね。
あの人もわたしにいいました。

「そんな生き方をして疲れないか・・。」

わたしはにっこりと笑って言いました。

「ええ。勿論。でも生きるためです。」

「そうか・・」

それきりです。彼はわたしの生き方にあまり干渉しなくなりました。
わたしは彼を裏切りませんでした。
だって彼は裏切りを許さない人でしたから・・。彼は十分に屈辱を味わった。わたしのような卑しい女にまで裏切られたら彼は今度こそ狂気に陥るでしょう。
それはわたしも望まぬ結果でした。
わたしは空っぽな女ですが不思議と殿方の心を汲み、理想的な女を演じることができる才能があったのです。
仕方が無いのです。生存本能もありましたが、それ以上に美しい男に惹かれていたのでしたから彼の望むようにしたいという欲望がありました。
彼の一番の女はわたしでありたいという欲です。

幸運にもわたしは彼の機嫌を損ねない女であったようです。わたしは彼の恥にならぬよう必死で演じていました。
彼のような聡明な人だから私のような滑稽な演技はばれていたでしょうね。でもそれしかなかったし業が深いと思われるでしょうが彼に飽きられたくなかったのです。

わたしのぼさぼさした髪はいつのまにか使用人によって丁寧に梳かれ、香油を塗られ艶めいた栗色の長髪となり、太陽にあたると金色にも見えるようになりました。
無難な茶色の瞳は黒みかがった珍しい茶色の瞳になりました。
唇は普段は控えめな紅でしたが、特別な社交界へ出る時、あの玉虫色の紅をさして白い光沢のドレスを着て、緑の宝石のネックレスをつけて優雅に社交しました。
勿論、扇の影に醜い侮蔑、嘲弄、嫉妬、憤怒などあらゆる負の感情がわたしの全てに向かっていましたがわたしは動じませんでした。
苦界で慣れていたからです。下賤なところも上流もほとんど同じだと悟りました。
わたしは上手にあしらおうと張り付いた笑みを浮かべて、無難な会話をしました。
成程、これならあの人が辟易するのも頷けるとわたしは妙に納得したものです。

わたしは優雅にお辞儀をしました。動物に芸を仕込んだという驚きでしょうがそのお陰で見直したというような人もちらほらいました。
何でも役に立つのですね。

彼はほとんどわたしを手放しませんでした。
だからでしょうね。いつのまにかわたしが彼の寵愛の緑の宝石や夫人と呼ばれるようになったのは・・わたしもそれを当然のように受けいれていました。

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