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しおりを挟む椅子に座ってうなだれていたときに、ガチャっと音がして、びくりと肩が揺れた。
音がしたほうに視線を移せば、水瀬課長と小宮主任がいた。二人はこっちに向って歩いてくる。
「あれ、相馬さん残業?」
「…いや、そんなはずはない。昼に見た感じだと定時には終わる量だった」
なんて、背後から聞こえてくる会話。水瀬課長、見ててくれたんだ…って、そうじゃなくて!ごまかさないと!平永さんにシメられる!と、思った時には、時すでに遅し。
私のパソコンを右から小宮主任が、左からは水瀬課長が覗いていた。
「…やっ、あの、これはですね…」
どうしよう、言い訳が出てこない…!変な汗が背中を伝う。そんな私を見透かすように、水瀬課長が口を開いた。
「これ、お前の仕事じゃないな。」
バ、バレてる…!終わったな、私…
「誰かに頼まれたの?」
水瀬課長とは対照的な優しい声でそう聞いてきた小宮主任に、もう嘘はつけないなぁ、と諦めて頷いた。その瞬間、聞こえてきた水瀬課長のため息に、思わず目をぎゅっと瞑る。だって、怖いもん。絶対怒ってるって。
「…なぁ、誰に頼まれたんだ?」
その声に目を開ければ、ぐっと視線を合わせられ、水瀬課長の綺麗な瞳から目を逸らせない。目力がすごい。言わなきゃいけないような気がしてきた。そして、諦めて言葉を絞り出す。
「え、と…平永さん、です…」
私には、嘘をつき通す勇気がなくて、思わず名前を出してしまった。どうしよう、本当にこれは……明日から私、生きていけるかな……
「あいつか。ふざけやがって。俺から言ってやるから。」
「いや、だめですよ課長。もし課長が言ったら、相馬さんが課長にチクったって思いますよ、平永さんが。」
「それの何がいけないんだ?」
「相馬さんの今後を考えてください。居づらくなってしまうでしょう?」
わ、小宮主任、そこまで考えてくれてるんだ…さすがだな…
小宮主任を不満げに見た水瀬課長が「じゃあどうしろと?」なんて、少し怒りを含んだような声で言った。それに小宮主任が呆れたように笑った。
「僕がたまたま、平永さんが相馬さんに仕事を頼んでいた場面を見たことにしましょうか。」
「そんなの平永が信じるか?」
「信じないなら無理矢理にでも信じさせますよ」
にっこりと笑ってそう言った小宮主任は、私の方を向いて「俺が何とかするから。いつも仕事頑張ってくれてありがとう。相馬さんが来てくれて助かってるよ」と、私の肩をぽんぽんと叩いた。
小宮主任…なんだか少し黒いけど、すごくいい人だ。
「ありがとうございます…!これからも頑張ります…!」
ガッツポーズをしながらそう言えば、小宮主任がふふっと笑った。柔らかい笑顔に釘付けになる。すごく綺麗な顔で、くしゃっとした目元が優しげな雰囲気を醸し出している。
「こいつに騙されるなよ」
「…え?」
「何言ってるんですか、水瀬課長」
お互いに睨み合っているような2人に、私はどうしたらいいの?と少しパニックになる。
ていうか、騙されるなってどういうこと?そうは思うけど、聞ける状況ではない。
どうしたらいいのかわからなかった私は、そろりとパソコンに手を伸ばす。その時、私の手に上から覆いかぶさった大きい手。
「相馬の仕事じゃないだろ。やらなくていい。今日は帰れ」
「え、あ、…はい…」
「ここまで何で来てるんだ?」
「電車、です」
私がそういった瞬間に、私と水瀬課長の間を割くように小宮主任が入ってきた。
「じゃあ僕が送りますよ課長」
「は?俺が送るからいい。お前は帰れ」
「いやいやいや、課長はお疲れでしょう?どうぞ僕に任せてください」
「…お前、帰れって」
「じゃあ、相馬さんと帰りますね、お疲れ様です」
そう言った小宮主任に手を引かれ戸惑いながらも立ち上がる。
「っ、!?」
それを水瀬課長が防止した。私の肩を抱くようにして。
「課長、セクハラですよ。」
「お前が先に手を出したんだろ」
ちょっと待って!?なんでこの2人はすぐに喧嘩腰になるの!?間にいる私が一番気まずいんですけど!?
「僕が責任を持って送り届けますから」
「お前じゃ信用出来ない」
一向に収まらない2人のやりとりに戸惑いながらも言葉を紡いだ。
「あ、の…、1人で帰れます、から…」
そう言った瞬間に2人は黙って、私を見た。な、なに…っ、怖い…!マジマジと私を見てくる2人に、あからさまに目を逸らした。
私は一体どうなっちゃうんでしょうか…
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