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61 色々回収したいと思います2

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結局、顔を真っ赤にして髪も乱れドレスは破けていて頭から爪先まで土埃まみれの私が屋敷に着いたのは、夕暮れ。

外で待っていたリンの心配そうな顔、
「お嬢様、大丈夫ですか?もう、何が起こったのか聞いてもわかりませんよ!」
と泣きと怒りが合わさっているような言い方だった。

そんな中を帰って来たわけで、恥ずかしかった。ヒョーガル王子の話、めちゃくちゃ緊張して話半分くらいしか聞いてないし覚えてないと思う。
「難しい話は、私にはわかりませんが、ミラン国は調子に乗っている事だけはわかります。王女よりメイド長が命令するって絶対におかしいです」
と言うと、
「確かに変な国だ。でも今回の件ミルフィーナが巻き込まれた事、政治的に攻め入るから」
ととても悪企みな顔をする王子様が、私に再度御礼を言った。

何故、私が巻き込まれてトモホーク王国が政治的関係ある??
ヒョーガル王子は、執事長に私を引き渡すと王宮に戻った。

「お嬢様、すぐにお風呂の用意をいたします」
とリンが言う。
「リン、あなたに借りた小説、暗殺ファイター、今日一日でめちゃくちゃ役に立ったわ。あれこそ王妃教育で教える技術ね」
と胸を張って言えば、
「あれ、本当に作者が暗殺を生業にした自叙伝って話ですよ」



「噂よね?」
「でもお嬢様何かのシーンを真似たということは現実可能な技ってことですよね」

もうこの話はやめておこう。
作者が警備隊に捕まる未来がみえる。まだ続きが読みたい。

神のお告げではありません。

お父様は王宮から医師が来て、擦り傷、打撲、と診断されたと聞いた。
良かった。

夕食の時間です。
甲高い声が響くダイニング。

「もう、本当に大変だったのに~お兄様信じてくれないなんて、アリサ悲しい~」
ヒロイン節だね、いいね。
家に帰って来たって実感する。
「ミルフィーナ姉様なんて全然私の事助けてくれないのですよ、もう、何度も呼んだのに~。本当に突然馬が暴れて怖かったんです」

それは本当にごめんなさい。
私の責任。暗殺ファイターの真似をしました。馬に当たったのは予想外なの。
あっ!

「一番危なかったのは、ラザリーさんじゃない、御者台にいたのだから」
と私が慌てて言えば、
「安心してください~、飛びおりましたから~」
いやいや、そんな。
かっこいい、ヒロイン2号。

「ラザリーさん、欲しい物あるかしら?私御礼をしたいの(貢がせて)」
と言えば、すぐに会話に潜り込むアリサさんが、
「ミルフィーナ姉様、酷いです~。私が義妹なのに~、意地悪です」

「はい、出たその言葉」
えっ、誰と声がする方を見れば、兄様がパンをちぎりながら、呟いていた。

「兄様、今、心の声聞こえてましたよ」
と言えば、真っ赤な顔をして口を押さえて、アリサさんに詫びていた。
でもバードナー伯爵が声を上げて笑っていたので、アリサさんも怒らないで笑っていた。
幸せそうで良かった。あんな優しい顔をバードナー伯爵には見せるのね。
これは、どんどん可愛いくなるわ。

「ところで、ミルフィーナ姉様が突然、手紙をくれたから驚きました。私が伯爵領に行った時には手紙なんかくださらなかったのに~」
「はい、私も突然の手紙で驚きました~」

そう、私は、三人に手紙を書いた。明日、乙女ゲームが、エンディングを迎えるから。なんとなく、状況確認というかね、アリサさん、ラザリーさん、ラーニャ、私の中でこのストーリーに関係している人だったから。
まさか私が書いた手紙のせいで、この誘拐騒動に巻き込まれてしまうなんて、とんだ厄病神だね、私は。

でも、今、お義母様、兄様、バードナー伯爵、アリサさん、ラザリーさんが笑っている。あんなに怖い思いをしたはずなのに、誰も私を責めない。
優しい…

暖かい家族の団欒。

…いや、一人忘れていた…

扉を叩き、執事長に確認をしてから中に入る。
「お父様、お加減いかがですか?」

「ミルフィーナ、無事で何より…だな。ヒョーガル王子様とも会えたそうだな、良かったよ」
「はい、ボルドート王国に来ていたのですね」
「あぁ、レオナルド王子から色々聞いていてね。だけど、それぞれ立場がある。王妃教育の件もあれはトモホーク王国の王妃いや女王陛下や賢者と呼ばれる者によるミルフィーナに対して適応テストだったわけだ。いくらヒョーガル王子様と君が思いが通じあっていたとしても、そんなの個人の感情だ。国としたら小さな石みたいな物だ。国を背負う、国を育てていく者と並び歩いていく者として、多くの人が心配するのは当たり前だろう?同じ心配をしている私からそんなこと言えないだろう?もちろん、レオナルド王子様も心配はしていた。ヒョーガル王子様は適応なしと言われたとしても、王族を廃嫡して騎士として、ミルフィーナと生きていく覚悟をなさっていた。だから全て終わるまで会わない、連絡しないを女王陛下と約束したそうだ。我慢する代わりに廃嫡して欲しいとか無茶苦茶を言ったらしい」
とお父様はご自分が知る限りの事を話してくれた。


「なんでそんな馬鹿なことを勝手すぎます!」
私は言葉では私の気持ちを無視してと怒りを表したけど、心の中で凄く喜びを感じている。凄い変態だ、浮かれ馬鹿だ…

「ミルフィーナ、最終的には自分で決めなさい。幸せ、正しい場所を。私は…
色々覚悟を決めた。まさかミラン国の騒動にこんな風に巻き込まれるとは思わなかったが、あのパーティーの件もなら二度目だ。薬物も知らぬ存ぜぬはもう通らない」

父様が、仕事が出来る男性の顔をしている。あんなに先程、発汗した男性とは思えない。

「そうですね。シュリル王女は、ボルドート王国に入り込むために、惚れ薬、サーカス団、クレープなどの流行りを送りこんだのでしょうか?いえ、王女ではないのかな?こんな作戦考えた人」
と言えば、お父様は、引き締めた表情になって、
「ミルフィーナ、私は、こんな目にあい、大事な懐中時計を失い、これから国を守る一人として外務大臣を引き受けることにしたよ」

うん!?
それがお父様の言っていた覚悟?
懐中時計の恨み…怖っ

「ソフィアも亡くなり、色々心配点があったが家族のおかげで全て順調だ。領地もローズリー、エルフィンとレオナ嬢に任せられるだろう。今回の件、ミラン国とは徹底的に、いやしつこく根掘り葉掘り聞き、我が国の為に実りある商談をするから。まぁそのサポートとしてバードナー伯爵も連れて行く」

ここで伯爵!?
「先を考えてバードナー伯爵とは縁を結びたかったんですね?」

「アリサの花嫁修行話、強引な手を使ったこと…エルフィンが落ちこんでも家族にも言わなかった。バードナー伯爵を国で使わないなんてあり得ないと何度も進言していた。が偏屈だの扱い辛いだのって引き受け手がいなくてな。全て内政官として家族より国を重んじた私の独断だった」
と話された。

だから、アリサさんが逃げた場合、私に行って欲しいと言ったのか。
どうしても欲しい人材って、次の世代ってことか。確かにレオナルド王子も最近変わってきたけどまだ真面目で潔癖…国の執政には不安があるわけでマリネッセ様のことも含めてだろうけど…私も彼女の代は不安、求心力があるのかな?
兄様は更にだな、頑張れ~。

「『内政官として』家族としては淋しい言葉ですが、貴族として家の為の婚姻はわかります。伯爵の件は大丈夫ですね、アリサさんがいます。ミラン国にはサーカス団という貴族令嬢の流行りがあるじゃないですか。旅行も兼ねて一緒にと言えば来るしかないですね。お父様の勝算はアリサさんをバードナー伯爵に押し付けたこと。あら、失礼、口が滑りました」
と言えば、お父様は笑った。
「まさか、彼が、あぁいうのがタイプだったとは知らなかったが…」
と二人で笑った。まぁ馬鹿にしてはないけどなんていうかね、国にとって必要な人とヒロインを結ばせれば、物語的にボルドート王国は平和ですで終われるんだなとゲームの運営側を考えていた。


「それから…」
と続く父様のああして、こうしてやる話は続き、私に相談せずにバードナー伯爵を呼んでくれ…私は、執事長に小さく片手を上げ、参ったと合図を送った。

ミラン国、大変な人と交渉することになりそうだ。一度噛み付いたら死ぬまで離さないような、一生今日のこと根にもたれていそうだな。
中年騎士の片足を意識を失っても離さなかったあの姿、ミランの外務の人達はあれを喰らうことになるだろう。

それに万が一、アリサさんがサーカス団に夢中になったなら腹黒伯爵が何を考えるか、今から楽しみだ。

ここまで悲鳴が届くかな…

お父様には万が一のために、暗殺ファイターのシリーズ本をプレゼントしよう。これは我が家にとって教本になる作品かもしれない。
あっ、ラザリーさんにも渡そう。


私は、自部屋に戻ると、今日のことが走馬灯のように思い出す。ヒョーガル王子の鼓動、触れた手、あの宝石みたいな瞳、揺れる黒髪。
なんで、そっち方面しか考えられないのかしら?あんなに大変な目にあったのに、お年頃だから?
随分と都合が良い回想で多分色々言葉も自分の脳内で変換再生中。
告白…ラブなロマンスを。

ドキドキするのに、

足の裏が痛い分、シュリル王女を考えた。

今日、もしシュリル王女の茶会が成功して、私とマリネッセ様が、倒れたとしても、疑われるのは王女だし。
自分も菓子を食べたりして倒れたとしても疑いは誤魔化せない。

私は、王女の考えがわからなかった。

でも一つだけ、本当に命令出来る誰かが、明日がゲームのエンディングだと知っていてレオナルド王子に婚約させない、もしくはエンディングをさせないために仕掛けたとしたら?

なんていうのは考えすぎか。
足の裏がズキッと痛んだ。
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