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31 呼び名問題再び

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ダルン侯爵家 サロン

「びっくりしたよ、一直線でレオナルド王子に『会いたかったです、レオナルド様~」と言って飛びつこうとしたところをアルフィンが払ったそうだよ。かなりみんなから気味が悪がられていたらしく、遠巻きで見ていたって」
と兄様は私より遅れて帰ってきた後、二人でお茶を飲みながら、興奮していた。

「レオナルド王子様は何かお話になったのですか?」
「まさか!アルフィンに任せて教室にもいなかったとレオナは言っていた」

「で、その令嬢誰なんですか?茶会では、私見たことないのですが?」

「Aクラスのラザリー・スタック男爵令嬢だそうだ。一度王子様に会いたかったという思いで来賓挨拶を見て、やっと会えて感極まって追いかけてしまったと本人は、弁明しているそうだよ」

Aだと!?一緒なんですが…
会いたかったから追いかける?
あー、駄目だな、その子。また貴族の常識通じないタイプだ。

「お兄様、約束ですよ、その女の子に付き纏われたりしないでくださいね」

ヤバい臭いがプンプンする。

お兄様は、もちろんと力強く頷くが優しい兄様は、質問されたら答えてしまうだろう。
まず接触しないことが理想だ。
「スタック男爵という方は、どこの領地ですか?」
と兄様に聞くと、領地なしだと思うなと。
「分家とかですかね?」
「かも知れないな」

私は家名を聞いたところでわからないが、兄様がわからないとなるとかなりマイナーな家柄だろう。
「しかし学校に通うということは、それなりということですよね?」
と聞けば、
「無料じゃないからね。経営的な収入もしくは、本家が面倒を見ているかかな、勤勉だとか何かに秀でているとか」


その手のタイプが、勤勉??

「同じクラスで、怖いんですけど」
と正直に言えば、兄様は笑って、
「たまにいるらしい、変わり者って。大丈夫、なるべく関わらないを貫けばいいよ!」
と言い残して兄様は去った。

もちろんそのスタンスで行く気だけど、関わるきっかけ作られたらどうすればいいのかな。

「お嬢様、まだ何もないのに悩まれても仕方がないのではありませんか?」
とラーニャに言われ、納得し、私も自部屋に戻る。


翌日、兄様と通学のため馬車に乗る。
もちろん、地味路線継続中、今日は、自己紹介があるからね、失敗は出来ない。それにしても、
「お兄様、少し早いのではありませんか?」
「ミルフィーナ、なんで入学初日からギリギリに行こうとするのかの方が謎なのだが?」
「えっ、早くに教室に着いて、何をしていれば良いのですか?」
と質問をすれば、兄様は溜息を吐き、
「予習や読書や友人との会話、刺繍、そうだレオナからの伝言だ、また教会のバザーがあるから刺繍を出すように言っていたよ」

恐ろしい、刺繍とな。
またバザーがあるのか!前回出さなかった分、今回は、確実にレオナ様に叱られる。
無理、話題を変える!

「お兄様、昨日の入学式ヒョーガル王子様はいらっしゃいましたか?来賓席にはいないみたいでしたが?」
「昨日か、わからなかったな。最近考えごとをされているようで、レオナルド王子様と一緒に図書館に行っているようだな。挨拶出来なかったかい?」
「はい」
「仕方がないね。我が家にいた頃とは違うから、トモホーク王国に帰国すれば、王子という格も取り上げられるだろう。今は王弟派が実権を握り、継承式も来月にやるみたいだよ。前国王の安否はわからないそうだ」
「それは心配ですね」

兄様は少し私を気にしながら、
「国が荒れた分の責任を誰かが追わなければいけないから、たとえ前国王が生きていても最悪、処刑もあり得る」
と言い放った。

「酷い!なおさら、帰国できないじゃないですか?死ぬかもしれないところに!」
「ミルフィーナ、王族である以上、人質にしろ処刑にしても覚悟はあるはずだよ」

兄様の言うことはわかるけど、そんなわざわざ死ぬかもしれないって。
あんなに仲良くしていたくせに冷たくなってないか?

でも今の私には会うことも話すことも出来ない。
「帰国しちゃ駄目」
とも言えない。

「ミルフィーナ、教室はわかるか?」
「もちろんよ、兄様」
「ではまだ新入生は授業時間が短いし、帰りは一人だよ」

もう、私は14歳だし、他の人は一人で馬車通いだってしている。あまり馬鹿にしないでほしいわ。

教室につけば紙が貼り出され、席表が書いてあった。
まさかの真ん中の前から二番目。
寝たら絶対バレる席。どこでも座っていいとかではないことにガッカリ。せっかく早く教室に着いてもつまらないよ。

兄様の真面目!

席に座れば、早く来た者同士で自己紹介が始まった。良かった、輪の中に入れた事にホッとした。

すっかりラザリー・スタック男爵令嬢のことを忘れていた。

まさか隣の席の子なんて!
すぐにこちらを見た。
「初めましてよろしくね~、ラザリーと呼んでね~」
凄くフレンドリー。そして語尾が長い。
「初めまして、よろしくお願いします。ミルフィーナ・ダルンです。ミルフィーナと呼んでください」
「長いわ!フィーナでいいわね~」
と言われた。

びっくり!突然愛称呼び。
もう怖い、距離の詰め方早いから。

後ろの席に座っていた女の子が、
「失礼、話を聞いていたんですけど、あなた、ラザリーさんですよね。ミルフィーナ様は、ダルン侯爵家の令嬢ですよ、いきなり愛称で呼ぶなんて、ミルフィーナ様は承諾されてませんよ」
と言った。
ありがとう、でも先生入って来たよ。なんかこの辺り注目されているよ。
初日から目立つのは嫌だよ。

「そこ、うるさいですわよ!」
厳しそうな先生だ。乱れていない髪型が美しい。

何の為の地味路線!先生の一声は注目の的だ。

「何があったのですか?」
と先生が言うと、突然ラザリーさんが立ち上がって、
「先生~、ミルフィーナ様が…
私は、隣の席にせっかくなったのだから、仲良くさせていただきたいと思ったのです~。愛称を提案させていただいた所、ダルン侯爵令嬢に対してそういったことは、してはいけないと注意されたんです~」
と悲しみに耐えながらの表情で言った。

えっ!?
ええっ!?
どこかで聞いたことのあるようなまた名前呼びの件!
何、この子!私、何も返事していなかったのに!反論したのは後ろの子よ!
アリサさんと姉妹?まさかアリサさん名前変えてやってきた?
脳内がザワザワ騒いでおります。

「ミルフィーナさん!本当ですか?」
嫌だ、めちゃくちゃ注目されている。どう、どうしよう?
考えがまとまらない。
地味路線計画が、ガタガタよ…

しかし乗り切らなければ、だって今日は初日よ。まずは自分のため…
「お互い自己紹介をしたのは、本当です。席も隣同士ですしね。ミルフィーナと呼んでくださいと言いましたら、長いから、フィーナで良いわよね?と言われてしまって、初めてのことで大変驚いて返事も出来なくて、すいません。両親にも呼ばれたことがなかったので私、動揺をしてしまいました。先生、大変失礼いたしました。学校という場、少しでも早く慣れたく存じます。これから皆さま、ご指導ご鞭撻よろしくお願い致します」
と今出来る最高の貴族の礼を尽くした。

ここで重要なのは、私は、愛称呼びを許してはいないと言うこと。

先生は、呆然としながらも納得した様子で、この話は流れた。
私は、怖くて隣を見れない。
視線を感じる。こちらを見ているし、どうしよう、すぐに帰りたい。


クラス全体の自己紹介だってまだよ。
断罪スタート早いよね、呼び名ってそんなに大事?毎回そこから始まる身分や平等を足がかりに意地悪だ、いじめるだの悪者を生み出そうとする。

どう考えてもわざわざ生み出す方が、悪だと私は言いたい!
そもそも私の後ろの席の子が言ったからね、侯爵家の名前を出したこととか。

ハアー、

口から言葉が出ないように奥歯に力を入れていた。
初日だよ、初めましてだよ!
私、どうすれば良い!?

私、悪役令嬢役なんてやりたくないからね。
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