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27 悪役令嬢恋をする
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「料理人のみんなには、急なお願いだったのにお弁当を用意してくれてありがとうございます」
と執事長に言うと、チラッとヒョーガル王子を見てから、
「ヒョーガル王子様が、野菜の下拵えを朝早くやっておりましたから」
と言われて、兄様と共にヒョーガル王子を見た。
「何を、されているの?」
「料理人達にも世話になったから挨拶ついでに皮むきをしただけだ」
とヒョーガル王子様は言った。
そうか使用人とも上手に付き合えていたんだなと思った。意外に彼は適応能力が高いのかもしれない。
お義母様が見送りに来てくれた。
「では、行ってきます」
と馬車二台で行く。先頭にメイド達が乗って二台目に私達だ。
お兄様、ヒョーガル王子様にまだ森の説明をしている。
「レオナ様とも訪れたのですか?」
と聞けば、
「もちろん、婚約が決まって幼い時と学校に入学する前かな」
「ふふ、最近のお二人は、レオナ様がすっかりお兄様の監視いや、チェックをされているようですから、少し気になりました」
と言えば、ヒョーガル王子も
「学校内でも随分と世話を焼かれているな」
と笑った。お兄様は少し顔を赤らめて、
「ほら、私はあまり剣術が得意ではないから、打ち込まれたりすればアザができるし、冷やしたハンカチを持ってきてくれる」
と小さな声だけど、嬉しそうに言った。
「さすが、レオナ様ですね。気が効きます」
と言えば、お兄様は、また余計なことを思い出す。
「ミルフィーナ、レオナが言っていたが、先月の修道院のバザーに寄付するハンカチの提出を忘れたそうだな」
あっ、いけない、誤魔化さなきゃ。
「お兄様、色々あったじゃないですか、先月も。忙しくて無理だったんです」
とバザーは知っていたし、ラーニャからも急かされだけど、私は出さなかった。ラーニャかお義母様が出してくれると思ったのに私の分も!
兄様はしたり顔で
「嘘だな!ミルフィーナ、刺繍が苦手って令嬢としたらかなり致命傷じゃないか。練習しないと」
と言う。
ふっ、これだから真面目ちゃんは!
兄様の良い令嬢の基準が刺繍?
刺繍もらったら、またダマされるのかな?
ハンカチに刺繍、これがおかしいのよ!刺繍なんてなくてもハンカチは使えるしね、むしろボコボコしてて邪魔だしっ。
「おい、ぶつぶつ言うのも全部聞こえているぞ、エルフィンが可哀想だからやめてやれ」
とヒョーガル王子から笑いを我慢しながら言葉が飛んだ。
バッと顔を上げた。
「あ~あ、また漏れましたか。お兄様、ごめんなさいね。悪気はないの。ただどうも最近口元が緩くて、私、残念な妹でごめんなさい」
と言うと、
「ミルフィーナ、努力は嘘をつかないから」
と兄様は私に言った。
ヒョーガル王子は、声を上げて笑い、私は、「ゔ」と腹に真面目正義の一撃を受けた感覚だった。
馬車が止まった。エルフの森と呼ばれるとても整えられた森。森林浴や、岩から出る湧水、小さな湖、季節ごとに変化する草花。
「前来た時は、シロツメグサが広がって四葉のクローバー探しをしたな」
と兄様は懐かしがっていた。
今は、野いちごがなっている。
「意外に人が見当たらないですね」
とあたりを見回した。
「確かに」
と兄様も答え、まだ昼前で時間にしたら早いからだろうと。
ヒョーガル王子は、大木を触り何かを確かめるように観察し、木の根元に生えている薬草に興味を示していた。
そして、木の匂いはリフレッシュさせる。
心の棘が丸くなるかのように、刺繍なんてどうでも良くなっていく。
兄様とヒョーガル王子は、薬草の生態について話しあっている。確かに薬草は大切だ、薬になるし、そんな真剣に話し合わなくても…
私は一人歩き始める。太陽がだいぶ上にあるようで、木の葉と影のバランスがキラキラ輝き、魅惑の森の演出として陰影を濃くしている。
「本当にエルフが出そうね」
「お嬢様、エルフが出たらどうするんですか?」
「そうね、子分にでもしてもらおうかしら?」
と言うとラーニャは嫌な顔をした。
「エルフを従わせるじゃなく、お嬢様が従うのですか?」
「もちろん、自然を舐めてはいけないわ。そう、私は、エルフ様の風に煽られふんわり飛んでいき、エルフ様の水でお風呂にはいるの」
と夢心地な少女風に言う。
「いや、お嬢様、完全にエルフの力個人利用じゃないですか?」
「違うわ、自然に身をまかしたいだけ」
と言いながら、進んでいく。
歩道を抜けるとすぐに開けた原っぱに自然の草花、誰にも支配されていない自由な美学があった。
本当にこれが理想。
ここでずっとゴロゴロして一日を過ごして…
想像すると果てしない。
「皆さま、ここを拠点と致します」
とラーニャ達メイドが馬車からピクニック用の品々を運び、組み立てる。
「ミルフィーナ、水場に行こう。あちらにも珍しい薬草があるんだよ。ヒョーガルと検証したい」
と三人で水場に向かった。
小さな湖にポッシャンと音が聞こえた。誰も人はいない。ただ湖には、ところどころ水紋が出来ていた。
「神秘というと子供騙しですか?魚が跳ねているということでしょうか?でも何故魚がここにやってきたんでしょうね。この岩と岩の湧水で溜まった湖なのに」
と言うと、
「きちんと理解、検証をしたければ、神秘という言葉で片付けるより、昔、ここが川があったとか、この湧水が実は地下水とかじゃなくどこかの川の分岐だとか、こういう時に地理の勉強が役に立つ」
とヒョーガル王子も言った。
「浪漫がないですね。エルフが運んだという説は?」
と言うと兄様から
「却下、理路整然としていない。それは物語だ」
全く、兄様もヒョーガル王子もこの岩場にいる蛙投げてやろうかしら?
「この時期に蓮の花は珍しいな」
二人が見ている蓮は、濃いピンク色をした花びらをつけていた。葉は花に比べてかなりの大きさで、丸い水滴を弾いてキラキラ輝いている。
触れたら丸い水球ごと手に入れられそう。伸ばした手をヒョーガル王子に捕まれた。
「危ない、水場に落ちる。着替えはないだろう?子供じゃあるまいし、水遊びしたいなんて言わないよな?」
とオレンジよりも今日は赤が強い瞳で、私を捕まえた。整った顔立ちが、影の中で強さと引き込む引力みたいなものを感じる赤い宝石。
ズルい。
『子供じゃあるまいし』
兄様に言われたなら、まだ子供ですけどって言うと思う。
捕まれたヒョーガル王子の手は、少し冷たい。そっちに意識がいく。
子供と大人、そんな曖昧なラインは私にはわからないのに、ヒョーガル王子に私は、子供じゃないと言われて恥ずかしくなった。
そして嬉しいの。
少しばかりボォーとした後、すぐに手を離された。
蓮の葉の下に魚がいるのか、葉が揺れ、水球が落ちた。
コロコロと転がらす、静かにスゥーと落ちてしまった。
そんな光景をずっと眺めている私に誰かが笑った気がした。後ろを見ても、二人で薬草討論が続いていた。私のことを笑ったわけではないらしい。
耳元に風を感じる。囁かれるように髪の毛が揺れた。
岩場の蛙は、鳴き声がしない。
「兄様、蛙って鳴き声しないんでしたっけ?」
「ずっと鳴いていたら、疲れるだろう」
となんとも子供騙しな返答をされる。蛙の間に、柿の種みたいな形をした茶色の物。手に取ると、種らしきもの。
せっかく来たから、今日の記念に裏庭に埋めようかな。茶色の種をハンカチに包み、ポケットにしまった。
ラーニャの言葉を思い出した。
アリサさんとヒョーガル王子への対応の違い。本当にアリサさんには何もして上げてないな私。
「そろそろ、お昼を食べよう」
と兄様が言って、拠点に戻り、大きな籠を取り出し並べてくれるメイド、美味しいフルーツティーに美味しい食事、楽しい会話。
びっくりするくらい打ち解けたなぁと感じる。
沢山笑った。それは今日という思い出。
帰りは少し遠回りしながら森の中を通る。
木の匂いと葉の緑と黒髪が揺れるのと、私は、木の幹を触りながら、そこに今見た光景をスタンプするみたいに押し付けていく。
「平和だな」
と呟いたヒョーガル王子の声は、私と兄様に届いていて、それが妙に艶やかで切ない気がして、これからの未来を考えると心臓がキュッとした。
と執事長に言うと、チラッとヒョーガル王子を見てから、
「ヒョーガル王子様が、野菜の下拵えを朝早くやっておりましたから」
と言われて、兄様と共にヒョーガル王子を見た。
「何を、されているの?」
「料理人達にも世話になったから挨拶ついでに皮むきをしただけだ」
とヒョーガル王子様は言った。
そうか使用人とも上手に付き合えていたんだなと思った。意外に彼は適応能力が高いのかもしれない。
お義母様が見送りに来てくれた。
「では、行ってきます」
と馬車二台で行く。先頭にメイド達が乗って二台目に私達だ。
お兄様、ヒョーガル王子様にまだ森の説明をしている。
「レオナ様とも訪れたのですか?」
と聞けば、
「もちろん、婚約が決まって幼い時と学校に入学する前かな」
「ふふ、最近のお二人は、レオナ様がすっかりお兄様の監視いや、チェックをされているようですから、少し気になりました」
と言えば、ヒョーガル王子も
「学校内でも随分と世話を焼かれているな」
と笑った。お兄様は少し顔を赤らめて、
「ほら、私はあまり剣術が得意ではないから、打ち込まれたりすればアザができるし、冷やしたハンカチを持ってきてくれる」
と小さな声だけど、嬉しそうに言った。
「さすが、レオナ様ですね。気が効きます」
と言えば、お兄様は、また余計なことを思い出す。
「ミルフィーナ、レオナが言っていたが、先月の修道院のバザーに寄付するハンカチの提出を忘れたそうだな」
あっ、いけない、誤魔化さなきゃ。
「お兄様、色々あったじゃないですか、先月も。忙しくて無理だったんです」
とバザーは知っていたし、ラーニャからも急かされだけど、私は出さなかった。ラーニャかお義母様が出してくれると思ったのに私の分も!
兄様はしたり顔で
「嘘だな!ミルフィーナ、刺繍が苦手って令嬢としたらかなり致命傷じゃないか。練習しないと」
と言う。
ふっ、これだから真面目ちゃんは!
兄様の良い令嬢の基準が刺繍?
刺繍もらったら、またダマされるのかな?
ハンカチに刺繍、これがおかしいのよ!刺繍なんてなくてもハンカチは使えるしね、むしろボコボコしてて邪魔だしっ。
「おい、ぶつぶつ言うのも全部聞こえているぞ、エルフィンが可哀想だからやめてやれ」
とヒョーガル王子から笑いを我慢しながら言葉が飛んだ。
バッと顔を上げた。
「あ~あ、また漏れましたか。お兄様、ごめんなさいね。悪気はないの。ただどうも最近口元が緩くて、私、残念な妹でごめんなさい」
と言うと、
「ミルフィーナ、努力は嘘をつかないから」
と兄様は私に言った。
ヒョーガル王子は、声を上げて笑い、私は、「ゔ」と腹に真面目正義の一撃を受けた感覚だった。
馬車が止まった。エルフの森と呼ばれるとても整えられた森。森林浴や、岩から出る湧水、小さな湖、季節ごとに変化する草花。
「前来た時は、シロツメグサが広がって四葉のクローバー探しをしたな」
と兄様は懐かしがっていた。
今は、野いちごがなっている。
「意外に人が見当たらないですね」
とあたりを見回した。
「確かに」
と兄様も答え、まだ昼前で時間にしたら早いからだろうと。
ヒョーガル王子は、大木を触り何かを確かめるように観察し、木の根元に生えている薬草に興味を示していた。
そして、木の匂いはリフレッシュさせる。
心の棘が丸くなるかのように、刺繍なんてどうでも良くなっていく。
兄様とヒョーガル王子は、薬草の生態について話しあっている。確かに薬草は大切だ、薬になるし、そんな真剣に話し合わなくても…
私は一人歩き始める。太陽がだいぶ上にあるようで、木の葉と影のバランスがキラキラ輝き、魅惑の森の演出として陰影を濃くしている。
「本当にエルフが出そうね」
「お嬢様、エルフが出たらどうするんですか?」
「そうね、子分にでもしてもらおうかしら?」
と言うとラーニャは嫌な顔をした。
「エルフを従わせるじゃなく、お嬢様が従うのですか?」
「もちろん、自然を舐めてはいけないわ。そう、私は、エルフ様の風に煽られふんわり飛んでいき、エルフ様の水でお風呂にはいるの」
と夢心地な少女風に言う。
「いや、お嬢様、完全にエルフの力個人利用じゃないですか?」
「違うわ、自然に身をまかしたいだけ」
と言いながら、進んでいく。
歩道を抜けるとすぐに開けた原っぱに自然の草花、誰にも支配されていない自由な美学があった。
本当にこれが理想。
ここでずっとゴロゴロして一日を過ごして…
想像すると果てしない。
「皆さま、ここを拠点と致します」
とラーニャ達メイドが馬車からピクニック用の品々を運び、組み立てる。
「ミルフィーナ、水場に行こう。あちらにも珍しい薬草があるんだよ。ヒョーガルと検証したい」
と三人で水場に向かった。
小さな湖にポッシャンと音が聞こえた。誰も人はいない。ただ湖には、ところどころ水紋が出来ていた。
「神秘というと子供騙しですか?魚が跳ねているということでしょうか?でも何故魚がここにやってきたんでしょうね。この岩と岩の湧水で溜まった湖なのに」
と言うと、
「きちんと理解、検証をしたければ、神秘という言葉で片付けるより、昔、ここが川があったとか、この湧水が実は地下水とかじゃなくどこかの川の分岐だとか、こういう時に地理の勉強が役に立つ」
とヒョーガル王子も言った。
「浪漫がないですね。エルフが運んだという説は?」
と言うと兄様から
「却下、理路整然としていない。それは物語だ」
全く、兄様もヒョーガル王子もこの岩場にいる蛙投げてやろうかしら?
「この時期に蓮の花は珍しいな」
二人が見ている蓮は、濃いピンク色をした花びらをつけていた。葉は花に比べてかなりの大きさで、丸い水滴を弾いてキラキラ輝いている。
触れたら丸い水球ごと手に入れられそう。伸ばした手をヒョーガル王子に捕まれた。
「危ない、水場に落ちる。着替えはないだろう?子供じゃあるまいし、水遊びしたいなんて言わないよな?」
とオレンジよりも今日は赤が強い瞳で、私を捕まえた。整った顔立ちが、影の中で強さと引き込む引力みたいなものを感じる赤い宝石。
ズルい。
『子供じゃあるまいし』
兄様に言われたなら、まだ子供ですけどって言うと思う。
捕まれたヒョーガル王子の手は、少し冷たい。そっちに意識がいく。
子供と大人、そんな曖昧なラインは私にはわからないのに、ヒョーガル王子に私は、子供じゃないと言われて恥ずかしくなった。
そして嬉しいの。
少しばかりボォーとした後、すぐに手を離された。
蓮の葉の下に魚がいるのか、葉が揺れ、水球が落ちた。
コロコロと転がらす、静かにスゥーと落ちてしまった。
そんな光景をずっと眺めている私に誰かが笑った気がした。後ろを見ても、二人で薬草討論が続いていた。私のことを笑ったわけではないらしい。
耳元に風を感じる。囁かれるように髪の毛が揺れた。
岩場の蛙は、鳴き声がしない。
「兄様、蛙って鳴き声しないんでしたっけ?」
「ずっと鳴いていたら、疲れるだろう」
となんとも子供騙しな返答をされる。蛙の間に、柿の種みたいな形をした茶色の物。手に取ると、種らしきもの。
せっかく来たから、今日の記念に裏庭に埋めようかな。茶色の種をハンカチに包み、ポケットにしまった。
ラーニャの言葉を思い出した。
アリサさんとヒョーガル王子への対応の違い。本当にアリサさんには何もして上げてないな私。
「そろそろ、お昼を食べよう」
と兄様が言って、拠点に戻り、大きな籠を取り出し並べてくれるメイド、美味しいフルーツティーに美味しい食事、楽しい会話。
びっくりするくらい打ち解けたなぁと感じる。
沢山笑った。それは今日という思い出。
帰りは少し遠回りしながら森の中を通る。
木の匂いと葉の緑と黒髪が揺れるのと、私は、木の幹を触りながら、そこに今見た光景をスタンプするみたいに押し付けていく。
「平和だな」
と呟いたヒョーガル王子の声は、私と兄様に届いていて、それが妙に艶やかで切ない気がして、これからの未来を考えると心臓がキュッとした。
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